番外編3 領地への帰路(セドリック編)
番外編3 領地への帰路(セドリック編)
私は、王都にてエリー達冒険者に別れを告げると、王城で開催される茶会へ出席せねばならなかった。
そこで驚きを隠せない事が起きた。
王が病床に臥せって居る事は知って居たのだが、まさかその病を、我が領の冒険者であったクリスが治療したと言う事だった。
未だ治りきって居ないので顔見世だけと言う話ではあったが、開催の挨拶だけと言う名目で国王が出席したのだ。
王の病状はかなりの重傷で起き上がる事もままならないと言う話であったと思うのだが、本当に聖女となって居たと言うのか、かの者は・・・
こうなると益々、エリーと言う人物が如何に常識の範疇に無い存在なのかが伺える。
これまでどのような薬草をもってしても治らなかった国王の病は、たった2日で、歩き回れる程までに回復したと言う事実には、私以外の出席者達も驚きを隠せない様子であった。
と言うか、ローポーション等でさんざ驚いて来た私ですら驚いたのに、驚かない筈は無かった訳だが。
茶会のさなかに、第4王女セレナ様が私の元へやって来て、大変有意義な会話を楽しむ事が出来た。
それと言う物も、エリーのお陰だ。
僅か5000の兵で12万の大軍勢を蹴散らし、病床の国王様迄治療してしまったのだから、王国貴族学園の同級生であったセレナ様も私に一目置いて下さったようである。
セレナ様は、元々はランクル帝国皇帝の第7皇妃となる予定だったのだが、この数年の帝国の不穏な動きから輿入れを見合わせて居た為、私と同じ22歳になってしまったが、未だにこうしてこの城に居る、所謂行かず後家にされてしまった訳だが、このセレナ様を私は是非妻として娶らせて頂きたく尽力して居た。
学園時代からずっと、私はこのお方をお慕いして居たのだ。
茶会も酣となり、先の謁見でも名代を務めていた王子が、私の元へと近づいて来た。
「辺境伯、楽しんで頂けたかね?今日の主賓は功績を上げた君だからな、どうであったかね?」
「これはこれは、先日は名代ご苦労様で御座いました。
殿下は大変優秀と耳にして居りましたがあれ程とは、驚きましたぞ。」
「私の事などどうでも良いのだ、時にセドリック殿、確かセレナ姉様とは同級では無かったかな?」
なんと、まさかとは思うが、これはもしかするぞ。
「はい、セレナ様とは同級でした、貴族学園以来、先程お話が出来て懐かしゅう御座いました。」
「うむ、それで、だな、行かず後家となってしまった姫で申し訳無いとも言って居たが、宜しければ娶る気は無いか?
姉様は大変セドリック殿の事が気に掛かって居るようだし。
父もセレナ姉様に関しては何とかしてやりたいと、病床でも常に心配して居たのでね、我が口添えしてやっても良いのだが。」
「ほ、本当で御座いますか!?
もしも殿下が口添えして下さると言うならば、是非お願いしたい、学園時代からずっとお慕いして居りましたお方と祝言が迎えられるなどこれ以上嬉しい事は有りません。」
「やはりそうであったか、先程姉様とセドリック殿の会話している姿を見かけてな、これはもしやと思って姉様に問い詰めたところ、白状したのだ、辺境伯に嫁げるならば願っても無いと言うので、この話を取り持つ事にしたのだ。」
何と、セレナ様も俺の事を・・・これ以上嬉しい事は無い。
「殿下、是非に、何卒御口添えの程、お願いいたします。」
「そうか、ではこの後、父上の寝室へ共に行こうでは無いか、父も肩の荷が下りる事であろう。」
「は、畏まりました、このセドリック、殿下が国王へ就任した暁には、殿下の盾となってこの王国をお守りいたします事を誓います。」
「ほう、君の所の強化装甲なる物は向かう所敵なしと聞いて居る、期待して居るよ、では後程。」
「は、有り難き幸せに存じます。」
思わず小躍りしてしまいそうな気分だ。
エリーには脚を向けて寝られんな、全てあの者のお陰と言っても良い。
瞬くすると、王城騎士の一人が俺の元へやって来た。
「辺境伯殿、王の寝室へお連れ致します。」
「うむ、よろしく頼む。」
思わず身嗜みを整えた。
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「失礼致します、辺境伯殿をお連れ致しました。」
「入りたまえ。」
思いの外元気そうな、王の声が返って来た。
「セドリック辺境伯、入ります、失礼致します。」
「良い、楽にせよ、時にセドリックよ、その節はすまなかった、厳しい戦闘であったであろう?」
「いえ、御使いがたまたま我が領内に居てくれたので、驚くほど楽に勝利出来ました。」
「御使いとな? 聖女以外にそのような者が居ったのか?」
「はい、元勇者カイエン、彼も御使いのお陰で現役時代よりも強くなって我が領内に居りましたので。」
「何、どう言う事だ?
かの者は利き腕を失って勇者の任を解かれた者では無いか。」
「はい、私も存じておりましたが、かの御使いは、不思議な技で強化装甲なるゴーレムを作り出し、アタックヘリなる空を飛ぶ魔道具武器を飛ばし、精霊魔導士と聖女を育て、自らも魔女となり、魔法なる技を使い、更にはローポーションなる薬を作って怪我人も治療してしまうと言う、とんでもない賢者であります。」
「すると、勇者カイエンの腕も生えたと言う事か?」
「いえ、勇者の体自体を、全身義体なる魔道具の体を新たに作り、それに勇者の脳を移した、と申しておりましたが、学の無い私では何の事やら。」
「わしにも何の事やら解らぬが、その者のお陰であったと言う事か。」
「はい、かの者には、殿下も名代として爵位をとおっしゃられたのですが、アッサリと断って、報奨金だけ手にして旅に出てしまいました。」
「そうか、ではその者こそが伝説の大賢者と言う事に成るのだろうな・・・」
「どう言う事ですか?」
「言い伝えがあってな、王国のピンチに大賢者が現れ、王国を救い去って仕舞われると。」
「それが、エリーと言う訳ですか・・・」
「そうか、その者はエリーと言うのか、まぁ良い、何れにしてもこの地に留まってはくれない存在のようだしな、下手に後を追うでは無いぞ。」
「は、畏まりました。」
「それともう一つ用があったな。」
「は、恐縮で有ります。」
「其方があの行かず後家を貰ってくれると言うでは無いか、これ程の良い話は無いな、どうだ、この際、お主に新たに侯爵位を与え、セレナを輿入れさせようと言う事に成ったのだが。」
「勿体なきお言葉、有り難き幸せに御座います。」
「よし、話は取り決まったな、後日、大々的に発表するとしよう。
ワシの病が治ってからな。」
「は、それまでは、領地の運営に尽力いたします。」
「うむ、しかし、先代はもっと砕けた感じで有ったぞ、ワシの親友でもあったからな、叔父か何かと話して居ると思ってもう少し砕けた話し方は出来ぬか?」
「すみません、エリーにも言われて、これからはもう少し肩の力を抜いて行こうとは思って居るのですが、急には勘弁して下さい、この性格はなかなか治りません。」
「そうか、お主の父は、お主よりももっと柔らかい物腰ではあったが頑固者であったからなぁ、そんな所を受け継いでしまったのであろう、一度領地へ戻って、セレナを身受ける準備でもして置くが良い。」
「は、有り難き幸せに御座います、陛下!」
「硬いのぉ~、ここはわしの部屋だからもっと砕けて良いと言うのに、まぁ良いか。」
「では私はこれで失礼致します。」
王の寝室を後にした俺は、思わず廊下を歩きながら小さくステップを踏んでいた。




