聖女の活動
聖女の活動
リョーマさんはこの街でもう一日商売をすると言うので、暇になった私達は、この街に大きな教会が有る事を思い出し、聖女の活動を久しぶりにしようと言う事になった。
私が仮面を被って白のローブに身を包み、タイタンズとカイエン一家、オーブと言うメンツに護衛される形で門を通ろうとしたのだが、何だか知人を通すようにすんなり受け入れられたので、困惑して居ると、昨日カレー食いに来てた下っ端衛兵に声を掛けられた。
「エリーさん、今日は何でそんな格好してるんですか?」
カイエン筆頭に、タイタンズのメンツも全員が口を揃えてそれに突っ込んだ。
「そこだけは言うな!!!」
何だオメー等、私の変装がバレバレなのずっと黙ってたのかよ、おい。
ちょっとムカついたのでエクスプロージョン撃とうとしたら衛兵にドゲサで謝られた・・・何だっつーのよ全く・・・解せぬ。
「せ・・・聖女様ですよね・・・ようこそお越しくださいました。」
何で怯えてんだよオメー等。
マジで殺すぞコラ。
出鼻を挫かれたが、ここは最年長者と言う事で必死で我慢して何事も無く収めた。
でもなんかムカつく~。
仮面に隠れて顔は見えないものの、舌打ちをしながら俯き加減で歩く、青白い炎のオーラを纏った白いローブの聖女を、苦笑いをしながら周囲を固めて教会へと誘いつつ、むしろ周囲に危害が出ないように注意している様子の冒険者集団と言う何とも言えない微妙な空気の一団が出来上がったのであった。
教会に到着すると、カイエンが一人、小走りに先行する。
「神父は居るか? 元勇者のカイエンだ。」
「あ、カイエン様、お久しぶりです、私です、孤児だったジェシカです。」
「おお、元気でやってたんだな、今はここでシスターになってるのか、神父はまだ?」
「いえ、残念ですが昨年、老衰で。」
「そうか、では今はこの教会は?」
「一応私が管理して居ます、孤児も含めて。」
「そうか、神父は居ないのかい?」
「先月、聖教会より派遣されたと言う方が在籍して居ます。
勇者様が来たと言えばお喜びになると思いますよ。」
「そうか、呼んで貰えるかな?今日はちょっとした用で来たんだが。」
「それは又、どのような?」
「今、そこに見える一団が俺の仲間達なのだが、真ん中の白いローブの女性、見えるな?」
「ええ、もしかして、この方が噂の聖女様ですか?」
「もう耳に入って居るのか、そうだ。」
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「これは聖女様、ようこそお越しに成られました、どうぞこちらへ、歓迎いたします。」
「わたくしは、接待される為に伺った訳ではありませんので、特別扱いは困ります。」
「あ、いえ、そう言うつもりではありません、是非彼方に居る子達に御加護をと思いまして。」
「ああ、失礼しました、そこそこ余裕のある教会ですと、わたくしを取り込んでしまおうと接待をされる場合が多いのです。
わたくしはそう言った事は好みません、子供達が飢える事の無い世を作る為に旅をして居るので、贅沢は敵と思って居りますので。」
「そうでしたか、歓迎と言う言い回しが気になって仕舞われましたか、私も言葉をもう少し選ぶべきでした、失礼。」
「しかしこの教会は大変奇麗になさってるのですね。
さほど資金繰りにお困りでは無いように見受けられます。」
「良く言われるのですが、シスター達がキレイ好きでして、毎朝早い時間から掃除をして居りますので、このように見た目だけは奇麗になって居るのです。」
「素晴らしい事ですね、神のご加護がきっとありますよ、これからもお続け下さい。」
「有り難いお言葉、これからも尽力いたします。」
「聖女様に少し、ご相談が有ります。」
神父の隣に控えていた、シスターの一人が口を開いた。
「どうかなさいましたか?」
「ええ、実は先日、近くの村が魔物に襲われ壊滅した事件が御座いまして、逃げ延びて来た村出身の冒険者が保護して連れて来た子供達が30人程居りまして、孤児が増えてしまったのです。
現在の教会の経済力では今日の食事もままならないのです。」
うん、遠回しにポーション寄こせと言われている気がしてきた、でもそう簡単には渡せないよね、だってどう見ても教会自体がキレイったってきれいすぎるもん。
昔の馴染みっぽいカイエンの電脳のバックドアにアクセスして、情報引き出して見ても、昔はこんなに奇麗な建物じゃ無くて壁なんかもボロっちかったっぽいしな。
それと、神父も以前の人は亡くなっていて新任らしいし。
これは何か裏が有ると踏んでいる私は、それではと炊き出しの支度を始める事にした。
何でポーションの作り方を伝授しないかって?
それはね、この神父が信用出来ない、と言うか、なんだかきな臭いんだよな。
教会の管理をしているのは元孤児だったシスターのジェシカだと言うし、変な捻じれが見受けられる。
電脳リンクを辿ってカイエンの電脳にハッキングかけて覗いてみるとカイエン自身もなんか違和感感じてるしな。
先ずは周囲とか教会の裏側を良く調査してみる必要が有りそうだ。
炊き出し始めたら、神父も少しガッカリした感じになってた。
まぁ、あれだけ騒がれてたら仲良しお隣領地のこの街位には情報回ってても可笑しく無いしな。
その辺も踏まえて何考えてるのかが判んない内はハイそうですかと簡単に教える訳にはいかないだろう。
今回、炊き出しの内容には、すき焼き風の鍋を用意して進ぜよう。
お醤油が手に入ってるからね、お醤油とお砂糖、そしてお酒が有ればワリシタは作れない事は無いんだよね。
何故すき焼きか?私が食べたかったからだよ、私が。
いいじゃん、食材全部私のストレージからなんだから、私の食べたい物位食べさせろ。
ってか、今回はちゃんとしたすきやきでは無く、すき焼き風煮込みと言う風なジャンルにして見たいと思う、何故ならこれだけの人数でつつく鍋ってどれだけ大変な思いして何個の鍋に分けて作れっつーのよって話だからである。
作るのだって私なんだしな。
作らねぇ奴にはこの苦労は解らん。
それと、私の持ってる卵は実は生食可能だけどそう言う食文化は存在しない筈なので卵とじにするのが一般的。
ちなみにこのすき焼き風煮込みに大量のショウガを投入すると、しぐれ煮と言う飯のタネになる。
これが又美味いので、余ったら卵でとじる前のものにショウガを千切りにして大量に投入して炊き直して煮詰めようと思う。
炊き出しの真っ最中に、神父さんの動きが有った、らしい。
カイエンに、「炊き出しは大変有り難いのだが、祝福を早く受けさせて貰えないのだろうか。」と催促して来たらしい。
恐らくこの神父の言う「祝福」とは、噂が伝わって、私に祝福を受けるとポーションが作れるようになるらしい、と、都合良い所だけが先行して伝わった結果では無いだろうか。
今回、この神父には少々思う所が有るので、別の「祝福」をしたいと思って居る。
それはどんな物かと言うと、ナノマシンによる健康管理を《《子供達に》》授ける、と言う物だ。
後は知らんw
そして炊き出しの合間に、必ずと言って良いほど必ず居るお約束な子供がやって来た。
「お姉ちゃんは何でお面被ってるの?お姉ちゃんのお顔も見たいな~。」
ホラな?
めんどくせえな、又やるのかよアレ・・・
と、思って居ると、クリスが「大聖女様は神様の奥さんだから、お顔を見せちゃいけないんだって、大聖女様の弟子の私は聖女だけどお顔見せて良いからそれで我慢してね?」
って適当な事言って上手く誤魔化してくれたみたいだけど、私はあんな腐れクズの糞ジジイに嫁入りした覚えはねぇぞ、おい。
どんどんあのジジイへの表現が苛烈になって居るような気がしている方は、気のせいではありませんw
苛烈になって居ます。
これ以上どう表現しようかと困る程に苛烈になってきましたw
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さて、炊き出しの配布も終わったので私も頂きます。
うん、流石私!美味しい!
やっぱり自炊、大事よね。
あまりの美味しさに、子供達だけで無く、何か文句言いたげだった神父迄おかわりの順番待ちの列に並んでる。
あくまでも子供達にお腹いっぱい食べさせたくてやってる炊き出しなんだかんね?
アンタら大人がおかわりしてどうするのよ!
まぁいっぱい作ってるから良いけどさ。
さて、食べ終わった後は、教会のホールで「祝福」授けるから皆入ってね~。
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解んねーだろうから日本語で祝詞唱えちゃる。
祓詞が良いよね、ここは。
「掛けまくも畏き
伊邪那岐大神
筑紫の日向の橘の小戸の阿波岐原に
禊ぎ祓え給いし時に
生り坐せる祓戸の大神等
諸々《もろもろ》の禍事・罪・穢
有らむをば
祓え給え清め給えと
白すことを聞こし召せと
恐み恐みも白す。」
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※読み優先で仮名を振りました、本来旧仮名使いで表記するのが正しいです。
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祓詞を唱えた後に、ザインちゃんから借りて来たステッキに紙を張り付けて自作した大幣を振って、同時に病原菌や毒素を浄化する為のナノマシンを教会内部に手広く放った。
これで大病もせずに健康に過ごせる事だろう。
「皆様が健康で有られますように。
では、これにて失礼致します。」
と言って退出しようとすると、神父が慌てて私の所へと走って来た。
「聖女様、あんまりでは有りませんか、私共にもポーションの製法をご教示頂けませんか?」
やっぱ来たよね~。
私が口を開こうとした瞬間に、カイエンが私と神父の間に割って入った。
「神父、貴方は何時この教会へ赴任された?
俺の知る限りではあなたの様な聖職者はこれまで出会った事がない。
この教会は俺が以前来た時に居た神父は当時でも既にご老体で、既にお亡くなりなのでは無いかと認識している。
あの当時孤児だったジェシカがシスターをしている位だ、もしかすると貴方は教会では無くどこかの商家から牧師の振りをしてこの教会へ入り込み、神父へと成り済ましただけなのではないか?」
「な、何を馬鹿げた事を!」
成程、私の電脳がこの質問に対する答えの時の発汗や心拍の変化で、図星であったと認識した。
もしかすると、神の名も知らないんじゃねぇか?
「では、神父様に質問を致します。
親愛なる神の名は?」
「それは、その、あれだ・・・「成程、神父様は主の名を損じ上げないと言う事で宜しいでしょうか?」
言い訳を考えようとしても出ないもんは出てたまるかって事で、被せるように突っ込みを入れて見た。
「くそっ! ふざけるなっ!」
偽神父が、逆切れして懐からナイフを抜いた。
そこへジェシカさんが飛び込んで来た。
「お待ちください!」まるで私を庇うように、私に背を向けて両手を大きく広げて立ちはだかる。
次の瞬間、ジェシカさんは、偽神父の凶刃によって、倒れ込んだのだった。
「ジェシカ!」
カイエンが慌てて走り込み、偽神父の持つナイフを手刀で真っ二つにしつつ、ジェシカを抱き起す。
「カイエンさん、聖女様、この方を悪く思わないであげて下さい、このような方でも、子供達の為に、何処からか金策をしてきては孤児院を、教会を支えて下さって居たのです、短い期間ではありましたが、私はこの方が悪い方であるとは思えないのです。」
「判った、もう喋るな、ジェシカ。」
私も急いでジェシカの元へと向かい、医療魔法を使う。
「診察鑑定、間に合ってよね・・・ミドルヒール。」
ナノマシンに診察結果を送信し、修復個所と修復法をアップロード。
「カイエン、大丈夫だ、ジェシカは私が完璧な状態に治してやる。
お前は偽神父を確保しろ、怒りに任せて殺すなよ。」
「ああ、判ってるさ、って言うか、そのセリフをエリーが言うか?」
ああそうだよ、私は怒りに任せて人くらい簡単に殺す癖が有るからね、仕方ねぇだろ、そうしないと私が生き残れなかったんだから、あの時・・・
その上、大量虐殺にも手を染めたからな、私の中で人の命って、かなり軽いもんになっちゃってるんだよな。
そんな事も自覚はしてる、だけどもう昔の感覚には戻れないのだ。
Gを殺すのにもキャーキャー言って泣いてた頃とは違うのだ。
どの道、私は私の目的の為には、対立する者は全て排除するつもりだ。
そこはこれからも変わらない。
そんな私からの台詞とは思えなかったのだろう、苦笑いを浮かべる私に、カイエンも苦笑いで返して来た。
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捕らえた偽神父に事情を聞いて見ると、彼はとある商会の番頭に雇われた冒険者崩れだった。
うまく行ってローポーションを作れるようになれば特別ボーナスが出るはずだったらしい。
その商会は、シーマの街でローポーションと出会い、大量に購入しようとしたが、教会が一枚かんで居ると言う事が判り、独占出来ないかと各策をして居たらしい。
シーマの教会では信仰も増えて来て居た為に取り込む事は無理であろうと思い、神父不在の各地の教会へとこのグッチベルクのように人材を派遣して入り込む事でローポーションが作れる人材を作る気であったらしい。
まさか聖女に見破られるとは夢にも思って居なかったのだろう。
それだけ、世の教会は、信仰心を失っていたと言う事でもある気がする、ますますこれは何とかせねば成らないのでは無いだろうか。
哲学的観点から言わせて貰えば、信仰を受ければ受けるだけ神の力は増す、筈である。
その逆に、信仰を失えばそれだけ力を削がれて行く事になる。
そんな折にこうして、魔王が台頭し始め、魔人がそこかしこに出現するようになっていると言うのが現状な訳だ。
少なくとも信仰心を取り戻させようと言う私の方策は間違っては居なかった事になる。
だがそれも一筋縄では行かなさそうだと言う事が今回の事で判った。
それほどまでに信仰心が薄い世間となってしまって居たと言う事だ。
こんな神の名も知らないような冒険者崩れが神父に化けても気づかれない程にね。
あ、もしかするとなんだけど、私が祝詞を唱えてしまった事で、祝詞に名前が有った伊弉諾様がこの世界に気付いた可能性は有る。
お手伝い頂けると有り難いなぁ等と都合の良い事を考えつつ、半ばこの世界の信仰心をどうやって増やしたらいいかと頭を抱えるのであった。
恐らくだが、今の魔法回路を持たない人類が異様に多い状況は魔王が人工的に作り出して居る、そしてそれを阻止したくてもこの世界の神は信仰心の不足から力を行使できる状況に無い訳だ。
私が敢えて私の出身国の神の名で祝詞を唱えたかと言えば少なからずとも祝詞の言霊には力が有ると考えられて居るからでもあるのだ。
多少でも良いから加護が有れば信仰を取り戻す事も可能なのでは無いかと言う所だね。
所謂、本当に神頼みって奴かな。
別に神を信じる信じないの話ではなく、高位次元存在としての神と言う存在は否定出来るものでは無いからね、事実私をこの世界に転生させた奴はあんなでも高位次元存在である事に変りは無いのだ。
いずれにしても邪魔になる以上、この先は、横やりを入れて来る者達を撃退する為に聖女活動をもっと頻繁にする必要性が有りそうだ。




