暇潰しクエスト
暇潰しクエスト
チョットした食材ラッシュを終えた私達は、今日宿を取る予定の街、男爵領になって居るらしい、そこへ到着した。
この男爵は元商人で、各国の貴族間で大いに流行ったブランドバッグの製造販売をして国の経済を潤した功績で叙爵したそうだ。
そのブランドは、偶然なのかどうなのか、グッチと言った。
一代で准男爵を飛び越えて永代貴族の男爵位に上り詰めたそのやり手の名前は、ディーリ・グッチ。
この、グッチ男爵領、グッチベルクは、南のユーノス公国と隣り合わせの、所謂国境の街だ。
この街の南側の街壁を出て大運河に掛かる橋を超えるとユーノス公国となる為、ここで一泊して許可証のお発行をして貰わなければ彼方側には行けないと言う重要な拠点なのだ。
だが、ユーノス公国と、未だ周知はあまりされて居ないがレクサス帝国、そして私達の居るグローリー王国は同盟関係に有る為、入国許可証の発行自体にはそう面倒な手間は掛からない。
ちなみに南側に街を出ると、そこは、大運河を渡る橋を挟んでユーノス公国のファーミール子爵領の街壁が広がって居ると言う不思議な造りになって居る。
つまりここには二つの街、もとい、国が有り、事実上繋がっている。
本来、情報漏洩等の可能性が付きまとう為にあまり褒められた造りでは無いのだろうと思う。
でもここは、元商人が納めている街であるだけでなく、この世界には珍しく大変文明的な機関、国際警察が存在して居るのだ。
国際法が無いのに国際警察と言うのも変な話だとは思うのだが、この機関、元はと言えば犯罪組織を撲滅する目的で各国が冒険者ギルドに依頼して出資し合い作った機関で、元々国境の無い独立機関の冒険者ギルドにとっても資金源であるが故にスパイの捕獲なども請け負って居ると言う事だ。
ただ、ユーノスとグローリーの関係は、これまでで一番良い関係の時代を迎えており、王の居ないユーノス公国は、コスモ、ロードス、アクセラの三公爵の家系それぞれから、グローリーへ嫁がせる姫を決めて既に婚約を結んでいる状態なのでスパイの存在も皆無であると言って良いと言う事だが。
むしろ旧ランクル帝国の動向が少し怪しかったので援軍を用意してくれて居たようである。
もっとも、ランクル帝国は壊滅し、今ではレクサス帝国となって居る訳ではあるが。
しかしレクサス帝国となった事は未だ昨日の事なので、ユーノスへは未だ伝わって居ない、我々が最も早い使者となり得る訳だ。
まぁ公式の使者では無いけども、聞かれればお答えしますとも、面倒だけどな。
で、そんな状態の国境の街、グッチ男爵領、グッチベルクに到着した訳なんだけど、あれだけ道草食ったにも関わらず、日が暮れた頃に到着する予定だったらしいが、この移動速度のお陰で正午過ぎに着いてしまった。
あまりの事にリョーマさん一行は開いた口が塞がらないと言った様子だった。
「いや助かった、ここで3号車の馬車を降ろしてくれ、商談を済ませてここの特産品と王都の交易品を交換する、明日朝一で交渉するつもりだったが、この時間に到着してくれた以上今日中に交渉出来るだろう。」
どうやらここの商業ギルドと直接取引をするらしい。
宿はリョーマさんが手配してくれると言うけど、クリムゾンスパイダーの方が快適に寝られそうなので其処は丁重にお断りして、思わぬ自由時間が出来たので冒険者ギルドへ顔を出す事にした。
すると・・・
「やはり来て頂けると思って居ました!お待ちしてました、エリーさん!」
「げ、サリー、イヤな予感・・・。」
「改めまして、私、サリー・ベータと申します。」
「ベータなのか・・・どんな性格なんだろう。」
ついボソッと口を突いた。
「私ですか?私は、大変マジメできっちりした性格ですわ。」
「あ、そうですか・・・」
自分で言う程ってそれはそれでキッチリし過ぎて面倒くさそうだな・・・サリ―シリーズって失敗作なんじゃね?
「早速ですがエリーさんに指名依頼が来ておりまして、お伝えさせて頂きます。」
「あの、私未だ受けるとは一言も・・・」
「依頼主はこちらの街を治める領主様で、王よりユーノス三公爵様方への親書を、先行して運ぶ為に先に帰路へ着いた男爵令嬢の馬車をお守りして欲しいとのご依頼です。
依頼達成報酬は大金貨10枚の破格となって居ります、お受けに成られますか?お受けになりますよね?」
捲し立てて皆まで言うなよ・・・ったく。
やっぱ厄介な性格設定でやんの。
「はぁ~・・・判ったよ・・・ってあれ?
もしかしてさ、その令嬢って未だお子様じゃね?
そんでさ、馬車にこんな紋章ついてない?」
と言って、電脳に記憶してあった紋章を正確にスケッチして見せると。
「そうです! 間違いありません、グッチ男爵令嬢の馬車に付いて居る紋章です。
何処でこれを?」
「うん、来る途中で盗賊に襲われてたので盗賊は壊滅させて助けて置いたけど、ちなみにそいつら盗賊団はぁ・・・「ここだ。」」
良いタイミングでカイエンとキースが盗賊達を引っ張って来た。
「早かったな、皆。」
「お前どうでも良いけどスゲェ縛り方だったな、あれ、ガッチガチでビクともしないのによ、一本長く伸ばしてあったロープ引いたらするっと取れて盗賊共が数珠繋ぎになってるって、面白いよな。」
「そうそう、それをお前らに教えるの忘れてたから外すのに難儀してるんじゃねぇかって思ってたんだけど、気が付いたか。」
「俺達の電脳に情報が有ったからすぐに判ったぜ。」
「あ、そうか、成程な、思ったより馴染んでるな、お前らの電脳。」
「では、この依頼は達成と言う事で。」
「待って、私らそんな依頼出てんの知らないからその場に置いて来ちゃったんだわ、迎えに行って来るからさ。」
「それだったら、俺の三号機が今馬車降ろして格納庫開いてるから俺が一人で行って来るぜ。」
「キース、それじゃお願いできる?」
「任せろ、大概の事は俺だけで対処できるしな。」
「キースが行くなら、私も!」
クリスだ。
「はいはい、クリスも行っといで、私らは別の依頼でもこなして遊んでるから二人でイチャイチャして来い。」
「一言多いわよぉ~。」
マカンヌにやんわりと叱られてしまった。
クリスは私の一言のせいで真っ赤になってる。
-----------
「じゃあ気を付けて行って来いよ。」
「ああ、どんな事にでも油断は禁物、だったな。」
「そうそう、クリスも何かあったらキースと令嬢を頼んだぞ。」
「任せて、師匠、治療魔法と格闘術のお陰で私も自信が付いたし、頑張るね。」
「師匠って言うな。」
「師匠は師匠だから良いんです。」
「ああ、そうそう、これが令嬢の馬車の紋章だ、コントロールパネル上部にあるカメラでこいつを読み込ませて、ナノマシンネットワークナビゲーターで探せばすぐに見つかる。」
「ああ、じゃあ行って来る。」
3号機はこうして令嬢を迎えに行くのだった。
「さて、私はぁーっと・・・」
暇になっちゃったからね~、何かやってこようかなっと。
{討伐依頼}
対象:オーガ20体
場所:グッチ領より西に10㎞付近、高原のマンダリ湖の湖畔村周辺
報酬:小金貨3枚
何だこれ、すっげー凶悪な依頼な気がするけど報酬が妙に少ない・・・
オーガ20体だったらどんなに少なくても最低この倍は貰わないと合わないんじゃ?
「エリーさん、その依頼気になりますか?」
「ってこんなの誰も受けないでしょう?」
「そうなんです、オーガが住み着くようになってからと言うもの、村の収入源である湖も水質が悪化してしまって、資金源が無い状況らしいんです、で、出せる最大の額と言う事でダメ元で出されたSOS的な依頼なんですよ。」
「そうだったか、よし、私がこの依頼受けるよ、ちなみに報酬は要らないからこの依頼はキャンセルにしといて、キャンセル料も私が払うから村からは一切何も取っちゃダメよ。」
マンダリ湖と言えば、この大陸の淡水で唯一、シジミが獲れると言う特徴のある湖で、湖の東側の湿地帯には韮や茗荷も生息して居る。
ナノマシンで探索して知って居たのでその水源が汚れて生物や植物が死滅してしまうのは我慢出来ないので無償で受ける事にしたのだった。
シジミに韮に茗荷だよ?
素晴らしい食材じゃない、それが食べられなくなるなんて容認できるもんじゃないよね。
「がははは、そんな事言ってくれる依頼者は居なかったからな、お前さんがここに来てくれて助かるぜ、俺の出身村なんだがよろしく頼む。」
「あ、マスター、良かったですね。」
「おお、自己紹介が遅れた、俺はこのギルドのマスターをしてる、ウッズだ、よろしく頼む、あまりにも誰も依頼に応じてくれないからな、俺が自分で行こうかと思ってた所だ、ただ、相打ち覚悟だけどな。」
「相打ち覚悟って・・・ギルマス強そうなのに?」
「そりゃ20体も居たら無理だよ、俺一人じゃよぉ。」
「あ、そう言う事か、私達がパーティーと思ってる訳ね?」
「何だ違うのか?」
「うん、私は一度も組んだことが無いソロ、こっちのザインはタイタンズ、あっちの三人は、元勇者とその奥さんと娘な。」
「え? パーティーじゃねぇの?」
「うん、なんか不都合?」
「いやいや、一人で討伐しようとしたのか?」
「そうよ?なんかおかしい?」
「いやいや! 無理だからっ!」
「そんな事無いってぇ~、これでも一発で城の一つや二つ消し飛ばす位出来るんだからぁ~♪」
「普通そんな事出来ねぇからな?!」
「ウッズよ、その気持ちは良く判る・・・だが、事実だ、エリーに関しては常識は通用しない・・・」
「あんたが元勇者?・・・ん?まさか!カイエンさんか!?」
「ああ、そうだ、久しぶりだな。」
「俺なんかの事覚えててくれたんですか?ってか、何でそんな若いんです!?」
「はははは、色々あってな、今なら多分魔王にもドラゴンにも引けは取らんよ。」
「な・・・そんな貴方まで何時からそんな出鱈目になってるんです?」
「お久しぶりぃ、あの時は大変だったわねぇ~。」
「え、貴方は、まさかとは思いますけど、マカンヌさんですか?」
「そのと~りぃ~。」
「うわ、あの頃から全く変わって無いじゃ無いですか、何でそんなにお若いままなんです?」
「ウフフ、ありがと~、でも私は既婚者だから口説かれないわよぉ~。」
「あ、イヤぁ、そう言う訳では、私も妻を娶りましたからね、おととしの事ですが。」
何が有ったのだ、この人達の間に・・・
「あの時の、ワイルドボアに追い回されてた新人冒険者がギルマスねぇ、良くも成長したもんだ。」
「止して下さいよ、そんな昔の事、ギルマスになる直前にはB級には成れてたんですから。」
「そうかそうか、あの頃のマラソンランナーじゃ無くなったんだな。」
「な!マラソンランナーって!酷いですよカイエンさん~。」
「はははは、冗談だ。」
「ん~、しかしこれを一人でと言うのは・・・」
「俺が太鼓判押してやる、エリーはつえーぞぉ?」
「何でそんなカイエンさんの保証が付くような人がC級でくすぶってるんです?」
「それはね、私が世界を旅したいからだ!
B級以上に認定されたりしたら、ただでさえ指名依頼とか来んのに、勝手に修行旅とか言って飛び出したり出来ないでしょうに!
まぁ、もっとも勝手に姿くらまして他所のギルドで別人装って偽名で登録する手も無くは無いけどね。」
「それ、出来ないと思うぞ、魔道具で名前とか確認出来るからな。」
「ふっふ~ン、それが可能なんだな~、私にはね。」
「成程、そうなると二度と戻って来なくなるから昇格させられないと言う訳か、じゃあ仕方ねぇな。」
「あらま、王都のギルマスにしてもそうだったけど、その辺妙にクールよね、あんたらギルド職員って。」
「ああ、強い冒険者は何処にでも来てくれないと困る存在でも有るって事だ、だからそう言う事情の奴はあまり囃し立てないようにしてる、そのうち自分で納得して帰って来てくれるかも知れないしな。」
「成程そゆことか、じゃあ、行って来るわね~。」
そう言ってギルドを出る私の見送りをしたいとギルマスが着いてくる。
「何で見送りなんて殊勝な事を?」
「俺の出身村だからだ。」
「それだけ?」
「いや、もしかするとって気が有って、確かめたくてな。」
「成程、私の正体を概ね理解したって事ね?」
「まぁな、せめてどうやってあの村まで行く気なのか知りたい。」
「ふぅん、あんまり乙女の秘密を調べるもんじゃないわよ?」
「はははは、口も達者だよな。」
街門を出た所で、並べて停めてあるクリムゾンスパイダーに驚いているギルマスを尻目に、私はアタックヘリをストレージから出す。
「うぉっ!何だそれはっ!どっから出て来た?」
「フフフ、これはアタックヘリ、何処にあったかはひ・み・つ。」
「う~ん・・・」
「じゃ、行って来るよ。」
ヘリに乗り込んだ私は直ぐにローターを回し始めた。
「いってきまぁ~す!」
開いた口が塞がらないギルマスをそのままにして飛び立ったのだった。