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~起の四~

 その後は、まさに一方的だった。


 アルフィルクが剣を振るえば、確実にオリヴィアの体に打ち込まれ。オリヴィアの剣は、かすりもしない。


 何度打ち込まれたかも分からず、剣を握る感覚はとうに失われていた。


 それでもオリヴィアは尚も立ち上がろうとする。


(オリヴィア! 寝てろ! 腐っても騎士だ、倒れてる相手には打ってこない!)


「……ごめんなさい……」


 汗と涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら、それでもオリヴィアは止めようとしない。


(何でだよ……もう良いだろ……)


「……母が……言ってました……たとえ相手が……どんな凶悪な罪人でも……獣魔でも……奪った命は……背負わなきゃいけない……と」


(だからアイツを斬ったのはアタシで!)


「私も……止めませんでした……力が有れば……同じ事をしていました……だから」


 ……何なんだよコイツは……。


 何時もは弱虫で泣き虫でビクビクしっぱなしなのに、何でお袋さんが絡むと急に頑固になるんだよ。


「はぁ……もう飽きたわ。アルフィルク様、次で最後にしましょう」


「そうですね……」


 アナベルが、ボロボロのオリヴィアを見て鼻で笑う。


 アルフィルクは伏し目がちに頷いた。


 ……ムカつく……。


 身勝手なアナベルも、祖父の仇とは言え自分よりも間違いなく弱い相手を平気で凹るアルフィルクも……。


 ……このままで良いのか?


 アタシがジジイを斬ったせいでこんな事になってんだ。


 このまま終わらせて……良いのか?


(……良い訳ねえよなぁ……)


「……トモエ?」


 ピーンと閃いた。


(おい、オリヴィア……この場合の命を背負うってのは、逃げずに勝負を受けのが責任って事であって、一方的に殴られる事じゃないよな?)


「それは……そうだけど……」


(よし……ちょっと聞け……)


 多分オリヴィアは意識も朦朧としてるだろう、あまり細かい指示は出来ない。


 簡潔に……。


「えぇ!?」


 オリヴィアが素っ頓狂な声を上げる。


(お、まだ元気じゃねぇか)


「ちょ、ちょっと待って! 何でそんな事を……」


(良いから、アタシが合図したら言う通りにしろ)


「で、でも……」


(デモもシュプレヒコールもねぇ。こっちが下段に構えれば、相手は絶対に上段からしか打ってこない。アタシが隙を作ってやるから、胴を思いっきり叩け)


「うぅぅぅぅぅ……」


 オリヴィアが唸るのを無視して、アタシはアルフィルクに集中する。


 アタシの仮説通りなら、絶対にアルフィルクは動揺する。そしたら……。


「オリヴィア様……参ります」


 少しだけ、アルフィルクの表情が陰ったように見えた。


 そして次の瞬間……。


(来た!)


 縮地かと思う程の俊足でアルフィルクが迫る。


 やっぱり上段だ。


 これなら……。


(今だ!)


「アルフィルク様!」


 名を呼ばれ、オリヴィアとアルフィルクの視線が重なる。


「……好きです!」


「!?」


 アルフィルクの体が、少しだけ、ほんの少しだけ硬直する。


 ココだ!


(うぉりゃああああああ!)


 アタシは上段に構えたアルフィルクの両手に向かって、最大限の気合をぶつける。


 すると……。


「何っ!?」


 アルフィルクの右手が、弾かれるように柄から離れた。


(よっしゃ見たか! アタシの必殺ポルターガイスト!)


 アタシが霊魂だけになってから覚えた必殺技。


 めっちゃ疲れる上に普段は食器や枕を動かす程度の力だが、今はこれで十分だ。


(行け! オリヴィア!)


「やぁぁああああああ!」


 一閃。


 決して鋭いとは言えない一撃だが、今のアルフィルクに防ぐ術はない。


 ポコッと情けない音を立てながら、オリヴィア剣はアルフィルクの脇腹を捉えていた。


 呆然と自分の脇腹を見詰めるアルフィルク。


 アナベルも言葉をなくして立ち尽くす。


「やっ……た……」


 精魂尽き果てたのだろう。


 オリヴィアの意識がプツリと途絶えた。


(やべっ!)


 このまま倒れたらケガじゃすまない。


 しかし床に倒れこむ寸前、何かがオリヴィアの体を受け止めた。


「お見事でした……オリヴィア様」


 頭上からアルフィルクの声が聞こえる。


 アタシはオリヴィアと視界を共有してるから、オリヴィアの意識がないと何も見えない。


 だが状況から察するに、アルフィルクが受け止めてくれたのだろう。


 続いて感じる浮遊感。どうも抱きかかえられたらしい。お姫様抱っこってヤツかな?


「アルフィルク様……何をなさるおつもりですか……」


「大聖堂にお連れして治療を致します。教主様の癒しの力なら、傷一つ残さずに治癒をして下さるでしょう」


「……私に歯向かうおつもりですか?」


「私は聖騎士。神に殉ずる者。アナベル様が王女であろうと、その命に従わなければいけない理由はありません」


「ならばなぜ私の誘いに乗ったのですか! 貴方はオリヴィアを憎んでいるのでしょう!」


「……憎んでなどいません。祖父は許されぬ罪を犯しました。本来であれば、私や父が止めねばならなかった事。それを、オリヴィア様が止めて下さったのです。感謝すらしています……」


「はっ! その感謝の証がこの惨状とは……大した聖騎士様ですこと!」


「確かめたかったのです……自分の目で。尊敬する祖父を止めた方を……祖父よりも尊敬する、英雄オルキデア様の血を受け継ぐ方の……その力を……」


 話なげぇな……。


 治療するならとっとと連れってってくれる?


 オリヴィアは失神中だから良いけど、アタシは全身の激痛で泣きそうなんだよ……。


「それにアナベル様としても、今のオリヴィア様を王や王妃の目に触れさせては都合が悪いのでは?」


「っ!?」


 初見は爽やかイケメンかと思ったが、腹の底が見えないタイプだな……コイツ。


 んでもってアナベルは考えなしの直情バカ……と。


「……精々後悔しない事ね」


「……失礼いたします」


 やっと終わった。


 癒しの力って魔法の事かな?


 それなら「傷一つ残さず」ってのもあながち嘘じゃないのか。


 それによくよく確認すると、一つ一つの傷はさほど深くない。


 特に重要な臓器や器官、健等は痛めてなさそうだ。


 だからと言って女の子を凹って良い訳じゃないと思うが……。


 まぁ良いや、アタシも疲れたし一眠りするかな。


(……お疲れ、オリヴィア)


 アタシは聞こえるはずのないオリヴィアに声をかけ、彼女に続いて深い眠りについた。

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