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~起の一~

(……なぁ、オリヴィア……)


「……なんですか、トモエ……」


(まだ終わんねぇーの?)


「まだ……なんでしょう」


 うんざりだ。


 キャンキャンキャンキャン……よくぞここまで飽きずに吠えられるもんだ。


 今、アタシ達はこの城で一番広く一番豪華な部屋にいる。


 目の前には玉座に座った王様と隣に控える王妃。


 そして隣で喚いているのが、オリヴィアの姉達。


 あの……何だっけ? なんちゃら地区での一件。


 アタシの華麗な剣さばきでクズ共一掃した後、オリヴィアは気を失った。


 先にアフムとか言うオッサンが起きたらどうなるかと思ったが、幸いにも隣の地区にいた騎士団が駆け付け、難を逃れた。


 馬車に残っていた従者が、何時までたってもオリヴィア達が帰ってこない事を不思議に思い、最寄りの駐在所に連絡。


 連絡を受けた騎士達があの屋敷を確認したところ、地下への階段を見つけた……と言う事らしい。


 その後、救助されたオリヴィアは一週間程寝こみ(主に過度の筋肉痛が原因)、ようやく起き上がれるようになったと思ったら、いきなり王様の名前で呼び出された。


 事情聴取ってやつ?


 オリヴィアは(アタシの事は伏せながら)見聞きした事を話したのだが……。


「私は! 私達は断じてその様な非道に関わっておりません!」


 次女のアナベルが金切り声で叫ぶ。


 捕らえたアフムが言うには、あの胸糞悪い商売を始めたのは約3年前。


 オリヴィアが視察を始めたのは今回が初めて。


 つまり、今まで視察を行っていた奴らが見落としていたって事だ。


 大方、あの地下室の上で呑気に茶でもすすっていたんだろう。


 因みに、アフムのオッサンは酷く怯えた様子で、聴取には大人しく従っているそうだ。オリヴィアの証言は、そのすり合わせに過ぎない。


 オッサンは一人になると「悪魔に殺される」「赤いバケモノに殺される」と、ずっと震えているらしい。


 それ……アタシの事じゃないよな?


「私は真摯に公務に励んでおりました! 王家の名に恥じるような事はしておりません!」


 隣では、相も変わらずアナベルの反論が続いている。


 どうも犯罪を見落としただけじゃなく、わざと見逃していた可能性を匂わされ、激怒しているようだ。


 まぁ騎士団の中に協力者が居たんだ、勘ぐられてもしゃーないだろう。


 かといって、こいつらが関わっていたとも思えない。


 メリット無いしな。


 しかしながら、ここ数年の視察は三姉妹が交代で担当していたと言うし、王様としても聞かざる得ないから聞いた……くらいのモノなんだろう。


 だが姉貴達としてはプライドを傷付けられたと感じたのか、三人揃って「有り得ない」「不愉快だ」の大合唱。


 王様はアワアワと情けなく取り繕うばかりで、いさめる事も、なだめる事も出来ず、一方的に三姉妹から攻められ続けている。


 結果、オリヴィアの報告はとっくに終わっているのに、こうして立ちんぼを食らってる状態だ。


(どうでも良いから、いい加減終わってくんねぇーかな……)


「……同感です」


 珍しくオリヴィアがアタシの意見に同意した。


 あの一件以来、オリヴィアは少し変わった気がする。


 相変わらず弱虫で泣き虫で貧弱ではあるのだが、普段から少しだけ本音を漏らすようになってきた。


 アタシに対してだけは。


(……まっ、良い事なんだろ)


「何がですか?」


(……何でもねぇよ)


 いい加減眠くなってきた。


 アタシが起きていてもしゃーないし、終わるまで寝ておくか……。


 そんな事を考えていると……。


「そもそも……」


 アナベルよりは幾分落ち着きを取り戻した長女ヴィクトリアが、横目でオリヴィアを睨み付ける。


「オリヴィアが裏切者の騎士達を壊滅させたと言う時点で、今回の話に信憑性はございません」


「ヴィクトリアお姉様の言う通りですわ! オリヴィアが100人居た所で野良犬一匹にすら勝てはしません!」


 我が意を得たりとアナベルも続く。


 しかし、えらい言われようだ……。


(オリヴィアって、そんなに弱いのか?)


「…………」


 無言の肯定。


 まぁ、何となく分かってた事だけど……。


 アタシがちょこっと体を借りただけで、一週間も寝込むような虚弱なんだから。


「アレをちょこっととは言いません!」


 とは、目覚めた直後のオリヴィアの談。


 実際、筋肉痛の痛みはアタシも感じてた訳で、少しはしゃぎ過ぎたかなぁとは思うけどさぁ……。


「どうなのオリヴィア」


「そうよオリヴィア! 早く本当の事を言いなさい!」


 姉達の矛先がオリヴィアに向く。


 少なくともアノ地下室の惨状は昨日今日出来た物じゃない。


 詳細はどうあれ、こいつらの怠慢は否定出来ないと思うんだが……。


 少しでも話をそらして有耶無耶にしたいのか、自分達が気付けなかった事件をオリヴィアが解決した事が認められないのか。


 喚き散らす姉達に辟易していると……。


「静かになさい」


 今まで黙って話を聞いていた王妃が、今日初めて口を開いた。


 姉達は一瞬にして表情を強張らせ、直立不動の姿勢をとる。


 姉達だけではない、王妃の隣で玉座に座っている王までが怯えている様に見えた。


 王様……これ完全に尻に敷かれてんな。


「オリヴィア、何か補足する事はありますか」


 王妃は冷たく光る眼でオリヴィアを見下ろし、そう問いただした。


 なかなかの威圧感だ。


 アタシでさえ身構えちまいそうになる。


 アタシから見た王妃は、一言でいうと美人さんだ。


 それも超絶な。


 美しく輝きなびく金髪に、西洋の彫刻を思わせる彫りの深い顔立ち。


 何時も豪華なドレス姿なので分かりにくいが、スタイルもかなり良さそうだ。


 だがその美しさと同じくらい、怪しさも、また畏れも感じられる。


 ただモンじゃない……。


 以前までのオリヴィアなら、姉達と同様に睨まれただけでもビビッちまってるだろうな。


 けど、アノ事件を乗り越えた今のオリヴィアなら……。


「ぁ……ぇ……その……」


 ダメだった……。


 目は泳いでるし、歯はカチカチと鳴ってるし、いわゆる「蛇に睨まれた蛙」って奴だ。


 うん、わかってた。


(オイ、オリヴィア。しっかりしろ)


「トモエ……私……」


(落ち着け、さっきと同じ事を言えば良い。余計な事は考えんな)


「同じ……さっきと同じ……」


 オリヴィアはゴクリと喉を鳴らすと、意を決して口を開いた。


「……補足する事はございません。私は……第一騎士団団長補佐ゲインツと、クトゥア地区統括者アフムを含めた12名から暴行を受けそうになり、気を失いました……その後、自室で目を覚ますまでの事は記憶にございません……」


 目を覚ましたオリヴィアから、アタシの事は黙っておきたいと相談された時は少し驚いた。


 この世界では、霊的な存在も常識の範疇にある。


 説明するにはアタシの事を公にした方が都合が良いはずなんだが……。


 まぁバレたら除霊とかされるかもだし、コッチとしては願ったりかなったりなんだけど。


 そう言えば、アタシがオリヴィアに憑いてから「出てけ」とか言われた事なかったなぁ……。


「間違いないのですね」


「はい……」


 オリヴィアが頷くと、王妃は一度瞼を閉じ、何やら考え込むような仕草を見せた後、「わかりました」と呟いた。


 隣でホッした顔を見せる王様。


「何と言ってもオリヴィアは、あのオルキデアの娘なのだ。きっと危機に直面して剣聖の血が覚醒したのだろう」


 フォローのつもりなのだろうか、王様が楽し気にそう言うと、アナベルが王様を睨み付ける。


「そんな都合の良い話があってたまりますか!」


 アナベルに怒鳴られ、王様が縮こまる。


 王様……情けなさ過ぎんだろ……。


「どの様な都合があろうとも、現場の状況と唯一の証言者であるアフムの供述に齟齬が無い以上、オリヴィアが謀反人達を粛正したと捉えるしかないでしょう。覚醒等の話は別にして…」


「しかし、お母様!」


「そもそも今回の視察は、あなたの役目ではありませんか、アナベル」


 王妃に睨まれ身を強張らせるアナベル。


 苦々しくオリヴィアを睨み付けているが、ぐぬぬする事しか出来ない。


 ざまぁみろだ。


 ……ん?


 ……なんで今アタシは、ざまぁって思ったんだ?


 別にアタシが何かされた訳じゃないのに……。


(……………)


 まぁ良いか……。


「オリヴィア、あなたは下がって宜しい。暫くは自室で静養に努めなさい」


「承知致しました」


 やっと釈放か。


 オリヴィアは恭しく一礼し、玉座の間を後にした。

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