~舞の八~
交差する剣戟。
それは、ほんの僅かな差。
念動力のフォローを受けたオリヴィアの剣が、ほんの少しだけ先にヴィクトリアを捉えた。
「ぐっ!!」
オリヴィアの一撃を肩口に受け、衝撃でヴィクトリアの膝が折れる。同時にヴィクトリアの剣は軌道がそれ、舞台の床に叩きつけられた。
跪くヴィクトリア、そのヴィクトリアの肩に剣を置くオリヴィア。
それは、まるでヴィクトリアが女王の前で跪き、騎士の誓いを立てている様に見えた。
「そこまで!」
力強く、威厳に満ちた声が響く。
王妃の一声により、戦いの、そして儀式の決着が告げられた。
(終わった……のか)
途端に割れるような歓声が沸き起こり、万雷の拍手と共に降り注ぐ。
助かった。
今の一撃で決められなければ、負けは確定だった。
(頭を狙えって言っただろ)
「それは……その………」
疲労でミスったか? いやオリヴィアの事だ、刃を潰しているとは言え、金属製の剣でヴィクトリアの頭を打つのに躊躇いがあったんだろう。
その程度で死ぬタマとも思えんがね。
「オ……オリヴィアァ……」
気付けばヴィクトリアが、まさしく鬼の表情でオリヴィア睨み上げていた。
オリヴィアのヤツ、またビビるかと思ったんだけど……。
「お姉様……」
オリヴィアが剣を引き、右手を差し出した。
砕けた掌から、真っ赤な血が滴り落ちる。
「お手合わせ、ありがとうございました」
ヴィクトリアは、しばらくの間差し出された右手を見つめていたが、やがて立ち上がり、その手を優しく握る。
再びの大歓声。
ヴィクトリアはオリヴィアに顔を近づけると、小さく呟く。
「私はあなたを……あなた達の事を絶対に認めない……絶対に」
相変わらずの悪態だが、どこか落ち着きを取り戻している様に見えた。
ヴィクトリアは手を放すと、オリヴィアに背を向け舞台から去って行く。
その堂々とした後ろ姿は、さっきまでの狂気に満ちたヴィクトリアとは違い、王女の気品すら感じられるものだった。
憑き物が落ちたと言うか何と言うか……アタシが憑き物っつーのも変な話だが。
(また、ビビッて泣き出すかと思ったぜ)
「だって、わかりましたから」
(……何を?)
「トモエと一緒なら、何とかなるって」
(人任せかよ……)
「任せてません。一緒なら……です」
一緒に……か。
「トモエ?」
(…………悪かったな)
自然と言葉が出た。
(アタシが言った事は、ヴィクトリアと何も変わらねぇ。何の責任も無いオリヴィアに当たっちまった。情けない話だが……)
「うん、許します」
オリヴィアは両腕を組み、アッサリとそう言った。
(……それ、アタシのマネか?)
「ふふ、分かりますか」
ペロっと舌を出すオリヴィア。
許して貰えたのは良いし、オリヴィアが元気になるのは結構な事だが、何かおちょくられてる気もする……。
(マネと言えば……何だアノ不細工な型は、アレでアタシの剣を名乗られても困る)
「ご、ごめんなさい……私なりに模倣してみたんですけど」
(模倣は剣の修行に必要なモンではあるが、アリャ模倣どころかモノマネにすらなってねぇぞ)
「うぅ……ごめんなさい」
オリヴィアが、しょぼんと項垂れる。
(おいおい、まだ観衆の前だぞ。しっかりしろ)
「はい……」
オリヴィアは何とか顔を上げるが、その表情は沈んだままだ。
本当に感情の起伏が激しいヤツだ。
まったく、世話がやける……。
(次からの稽古は素振りのみだ、体が覚えるまで徹底的にやるから覚悟しておけ)
「えっ……それって」
(……言っとくけど、アタシはアルフィルクより厳しいぞ)
「望むところです!」
オリヴィアの表情が、パッと華やいだ。げんきんなもんだ。
その後、従者のアルフィルクに簡単な回復呪文を受けたオリヴィアは、舞台にやってきた神父により成人としての祝福を受ける。
勝者とは思えぬほどボロボロなオリヴィアだが、その顔はとても晴れやかだったと思う。
それは祝福を授けに来た神父の表情と、何時までも鳴りやまぬ歓声が証明していた。
コレで何が変わったかは分からない。少なくとも、オリヴィアの周囲は今以上に慌ただしくなるだろう……良くも悪くも。
しかし……。
「トモエ、私く強くなりたいです。トモエの様に」
(ふざけんな、そう簡単に追いつけると思うなよ)
これからは、アタシも前を向いて行けると思う。
この、弱くて泣き虫な友人と一緒なら。




