~舞の七~
(あぶねぇ!)
何とか体を捩り、ヴィクトリアの一撃を避ける。アタシはオリヴィアの体をゴロゴロと転がし、距離を取った。
(こっの……バカヤロー! 力入れんな! 抜けっつったろ!)
「だ、だって……怖くて……」
(何が怖いだ! さっきまで、アタシ抜きでやりあってただろーが!)
「それはその……トモエが声を掛けてくれたから……安心したと言うか……ホッとしたと言うか……」
コレ、アタシが出て来ない方がマシだったんじゃないだろうか?
って、んな事を言ってもしゃーないんだが。
どうする……考えろ……。
アタシが魔法を防いだ事で、ヴィクトリアの攻撃は剣のみになる可能性が高い。
コチラに間合いを詰める足が無い以上、今こそがチャンスなんだけど……。
「オリヴィアァ!」
また来たっ!
「ひゃぁっ!」
(くそっ! またかよっ!)
再び体が硬直。流石に体の主導権を持つオリヴィアに抵抗されたら、操る事は不可能だ。
(左に飛べっ!)
オリヴィアは、ヴィクトリアの剣を何とか掻い潜る。
だが反撃できる体勢ではなく、追撃を剣で弾くだけで精一杯。
(お前ジャマだ! 気絶しろ! 死なない程度に頭を打て!)
「そんなぁ……」
どっかの名探偵みたいに、麻酔銃でもあれば楽なんだが……。
「オリヴィア……あまり無様に逃げ回ると、皆がっかりするわ……これが剣聖の娘かってね」」
ヴィクトリアの剣から炎が失せ、鈍く光る刀身が現れる。
「理由は分からないけど、アナタに魔法は効かないみたいだし。剣で決着をつけましょうか」
ヴィクトリアは斜に構え、剣先をオリヴィアに向ける。
「そうすれば、皆が納得する……皆が真実を知る……」
剣聖の娘に剣で勝つ。
オリヴィアは民衆の期待を裏切り、ヴィクトリアの株は上がる……と。
実際、そんな上手くは行かないだろう。
このままヴィクトリアが勝っても、それでコイツの支持率が上がるとは思えない。
聖清の儀の意味を考えれば、不信感すら持たれる恐れもある。
ヴィクトリアは、その判断すら出来ない状態だ。
だからこそ、今がチャンスなんだ……。
(オリヴィア、もう一度聞く。アタシを信じるか?)
「……はい、信じます」
聞くまでもない……か。
アタシが端的に指示を出すと、オリヴィアは軽く頷き、剣を上段に構えた。
(良いか、ビビッても良い、恐れても良い、型が崩れていても良い、ただ真っすぐに打ち込め)
「……はい」
今のヴィクトリアは、承認欲求が限界値を超えてる。
チャンスがあれば乗ってくるはずだ。
(行け! オリヴィア!)
アタシの合図でオリヴィアが踏み込むと、上段から剣を振り下ろす。
オリヴィアには一瞬で間合いを詰める足はない、ヴィクトリアを捉える剣速もない。
ヴィクトリアには余裕がある。
だからこそ……。
「はぁあ!」
まっすぐ振り下ろしたオリヴィアの剣に対し、ヴィクトリアは己の剣を逆袈裟に斬り上げる。
激しい金属音の後、オリヴィアの剣が宙を舞った。
来た!
今のヴィクトリアなら、オリヴィアの剣を狙うと思った。
剣道なら、剣を手放した方が負けになる。己の太刀に対する敬意を持っているからだ。
この国の剣術に、同じ考えがあるかは知らん。
だが、オリヴィアがアルフィルクと戦ったアノ日。アルフィルクは初手でオリヴィアの腕を狙い、剣を落とさせた。
アレがオリヴィアの心力を測る為なのだとしたら、ヴィクトリアも狙ってくると思った。
心力を測る為じゃない、オリヴィアの心を折る為に。己との力量差を、民衆に見せ付ける為に。
「さようなら! オリヴィア!」
ヴィクトリアが、己の剣を高々と振り上げる。
剣を弾いた事で、ヴィクトリアの欲求が一つ満たされた。その優越感が心にも動きにも表れる。
隙だらけだ、反撃されるなんて考えていない。
(オリヴィア!)
「はい!」
オリヴィアが右の拳を固め、ガラ空きになったヴィクトリアの胸部に向けて突き出す。
同時に、アタシはオリヴィアの拳に全力の念動力を纏わせた。
動きが分かっていれば、オリヴィアが多少ビビろうが関係無い。ヘロヘロなオリヴィアの拳が、アタシの念動力で高速の正拳突きに変わる。
加速した拳が唸りを上げ、ヴィクトリアの左胸を打ち付けた。
拳が砕ける激痛と引き換えに、その衝撃は金属鎧を突き抜け、ヴィクトリアの心臓を襲う。
「がぁあっ!」
ヴィクトリアの体が一瞬だけ硬直した。
ハートブレイクショット……なんて上手く行くわきゃないが、想定外の攻撃を受ければ、どんな達人でも隙は生まれる。
アタシは、弾かれた剣を念動力でオリヴィアの左手に戻した。
(振り下ろせ!)
「はぁあああ!」
「オ……リヴィアアアァアア!」
刹那の呪縛から解放されたヴィクトリア。
止まっていた剣を振り下ろし、再びその凶刃がオリヴィアを襲った。




