~舞の六~
もう、全身で痛みを感じない部位はないんじゃないかと思えた。
諦めろオリヴィア、そのまま倒れていれば良い。
このまま倒れていれば、流石に王や王妃が止めるだろう。
「残念、あわよくば事故に見せかけてと思ったんだけど……ここまで弱いとは思わなかった。やはり噂は噂ね」
くそっ。客席には聞こえないと思って、言いたい放題だな。
だが、それも事実だ。
今のオリヴィアでは……。
「本当に不細工な剣ね……それとも、これが剣聖の真実なのかしら。所詮は御伽噺、アナタの母親もこの程度だったのかもね」
「……違うっ!」
嘲笑うヴィクトリアを前に、オリヴィアは再び立ち上がろうとする。
「あらあら怒らせてしまったかしら? 別にアナタの母親をけなしたつもりはないのよ」
そうだった……オリヴィアは普段、泣き虫で弱虫でビビりなヘタレだが、お袋さんの事になると急に頑固になるんだ。
「私の剣が……見苦しいのは……否定しません……でもそれは……私が未熟なだけです」
「本物の剣聖様は違う……と」
「……違います」
「そう、それはそうよね、アナタの母親は……」
「違います……この剣は、恩人の剣」
オリヴィアは、全身に走る激痛をこらえながら構え直す。
「この剣は、私を救ってくれた……私が憧れた剣……」
オリヴィアが剣の切っ先をヴィクトリアに向けた瞬間、アタシは思い出した……いや気が付いた。
不格好で似ても似つかないけど、オリヴィアが振っていた剣の型は……アタシだ。
アタシが、オリヴィアの体で使った技だ。
「私が初めて見た、戦場の剣……私の大切な恩人……私の大切な……友人の剣です!」
何を言ってんだ、こんな弱々しいのがアタシの剣だって?
アタシが、お前の友人だって?
「ごめんなさい……トモエ。少しでも強くなって……少しでもアナタに近付いてから、体を渡したかったけど……」
アタシに体を渡すのを前提にして、慣れた型を捨てたってのか?
せっかく積み上げていた努力を、お袋さんの剣を捨てて……。
「オリヴィアが誰の剣を使おうが、結果は変わらないわ」
ヴィクトリアの周囲に、火球が現れる。
「アナタの剣は、私には届かない!」
撃ち出された火球が空中で分裂し、無数の凶弾となってオリヴィアを取り囲んだ。
退路はない、全てを捌く技術も体力も、今のオリヴィアにはない。
防ぐ事も、躱す事も出来ない……。
コレ以上のダメージは不味い。
下手をしたら死ぬ……オリヴィアが……アタシの……友人が。
(チクショーーー!!!)
アタシは視界に写る全ての火球に向かい、全力で念動力を叩きつける。
火球はオリヴィアに届く寸前で向きを変え、上空で一塊になると激しく爆発した。
(オリヴィア! 下がれ! 距離をとれ!)
「ト、トモエ?」
まずは距離をとる。
魔法がアタシの念動力で防げるなら、とりあえず……。
「トモエェェ~~~…」
(ばっ!? お前、なに泣いてんだ!)
オリヴィアが、顔をグシャグシャにして大泣きを始めた。
「だって……だっでぇ~~~」
(だってじゃねぇ! 泣いてる暇なんか……って、来た!)
今度は氷塊か!
アタシは再び念動力を放ち、氷塊の軌道を逸らす。
(あっぶねぇ~……)
「何が……」
ヴィクトリアが困惑している。
今の内に飛び込みたいが、今のオリヴィアにその足はない。
「トモエ~~トモエ~~~……」
(あぁ!! もう鬱陶しい!!)
ゆっくり考える事も出来やしない!
さっきまでの勇猛な姿はドコに行ったんだよ。
(とにかく涙と鼻水を拭け! 見苦しい!)
「は、はい……」
オリヴィアは、袖でゴシゴシと顔を拭う。
ヴィクトリアは警戒して追撃をしてこない。
だが、それも数秒だろう。
今の内に策を伝えないと……。
(オリヴィア、アタシを信じるか?)
「信じます!」
即答。
ちっとは考えろよ……。
(良いかオリヴィア、全身の力を抜け)
「……力を抜く?」
(あぁ、お前が全身の力を抜いたら、アタシが念動力でお前の体を操作する)
「そんな事、出来るんですか?」
(多分な、長時間はムリだろうけど……)
アタシだって、何時もオリヴィアの中で眠ってるだけじゃない。オリヴィアに気付かれないように、ずっと念動力の修行はしてる。
相手の隙をついて、一撃を加えるくらいなら。
「オリヴィア! まだ戦えるのね! 嬉しいわ!」
ヴィクトリアが、嬉々とした表情で飛び込んでくる。
チャンスだ! まずはヴィクトリアの炎剣をかわして……。
「ひぃっ!!」
(ちょっ!?)
アタシがオリヴィアの体を操ろうとした瞬間、オリヴィアの体が硬直した。




