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~舞の五~

「くっ!」


 オリヴィアが体を投げ出すように、真横へ飛ぶ。


 目標を逃したヴィクトリアの火球が床に着弾すると、その場で爆発し石板を破壊した。


 燃えるだけじゃねぇのかよ……。


「ほら! アナタの苦手な魔法よ! 私が教えてあげる!」


 ヴィクトリアは次々に火球を放ち、オリヴィアを責め立てる。


 オリヴィアは何とか躱しているが、ハッキリ言ってジリ貧だ。


 剣しか使えないオリヴィアは、相手に接近しないと勝負にならない。


「躱すのが上手ね! じゃあ、こんなのはどう?」


 ヴィクトリアが右手を天にかざすと、空から何かが降ってくる。


 雨……じゃない、氷塊だ。


 鋭く尖った無数の氷塊が、オリヴィア目掛けて降り注いできた。


 これは躱せない。


「やぁあああああ!」


 オリヴィアは頭上で両腕をクロスして、ヴィクトリアに向けて突っ込んだ。


 躱せないなら玉砕覚悟で突っ込む。オリヴィアにしては勇敢だ。


 狙い通り、急所さえ守れば致命傷にはならない。


 オリヴィアは、ヴィクトリアの間合いに飛び込むと同時に、剣を袈裟懸けに振り下ろした。


 しかし、その剣は軽々と受け止められる。


 ダメだ、やっぱり型が崩れてる。


 アタシがオリヴィアに想いを打ち明けて以来、オリヴィアの剣はどこかぎこちない。


「驚いたわ、アナタが氷の雨に飛び込んでくるなんて……でも」


 ヴィクトリアが嫌らしく笑う。


「どうしたのオリヴィア? これが我が国の騎士や、ゴブリンロードを一刀両断にした剣なの?」


 ヴィクトリアが鍔迫り合いの状態で、オリヴィアを押し込む。


「ねぇ、オリヴィア。本気を見せて頂戴、うわさに聞く剣聖の技を見せて頂戴、そうでないと……」


 ヴィクトリアの周囲に、再び火の玉が現れる。


 まさか、この距離でか!


「そうでないと、アナタを殺してしまう!」


 火球が放たれる瞬間、オリヴィアは素早くバックステップする。


 しかし近距離では全てを躱せるはずもなく、二つの火球がオリヴィアの胴部に着弾した。


「きゃあぁ!!」


 激しい爆発と共に、オリヴィアは大きく吹き飛ばされる。


 儀礼服のおかげか、致命傷になる程ではないもののダメージは軽くない。


 腹部の痛みと共に、喉の奥から熱いモノが込み上げてくる。


「随分と丈夫になったのね、小さな頃は良く風邪をひいてたりしていたのに……姉として嬉しいわ」


 何とか立ち上がったオリヴィアに、ヴィクトリアが歩み寄る。


 美しい金色の髪が、所々黒ずんでいた。


 近距離で爆発したんだ、余波を受けたんだろう。


 だがヴィクトリアは気にする様子もない。


「ヴィクトリアお姉様……なぜ……なぜ……」


「なぜ? それは、なぜこんな事をするのか…と言いたいのかしら」


 ヴィクトリアが向けているのは、明確な殺意。


 それは、オリヴィアが平民の子だなんて理由だけで生まれるモノなんだろうか。


「ふふふ……そう、そんな事も分からないのね」


 ヴィクトリアが歪んだ笑みを絶やさぬまま、剣を振り上げる。


「それはね……アナタが必要ないからよ」


「えっ……」


 ヴィクトリアの振り上げた剣が炎に包まれたかと思うと、オリヴィアの頭上に振り下ろされた。


「ぐぅ!」


 オリヴィアは、両手で剣を掲げて受け止める。


 しかし、炎剣の熱がオリヴィアを襲い、頭や顔に皮膚を焼く激しい痛みが走った。


「アナタも! アナタの母親も! この国には必要ないの! この国は私達だけで十分なの!」


 ヴィクトリアが剣を持つ手に力を込めると、耐えきれなくなったオリヴィアが片膝を着く。


「アナタの母は確かに英雄だった! でもね、この国を統治していたのは……この国を支えていたのは、お母様や私達だった! それなのに、国民が口にするのはアナタの母親の名前ばかり! 賛辞の声も! 親愛の情も! 全てアナタの母親が奪っていった!」


「そ、それは……」


「月日が経ち……やっと国民は現実を見るようになった……なのに! 今度はアナタが!」


 ヴィクトリアの剣が、更に勢いを増して燃え上がる。


 まるで、ヴィクオリアの感情に呼応しているようだ。


「たかが老害を斬ったくらいで……ゴブリン如きを屠ったくらいで……国民は再び語りだすようになった。英雄の名を……そして……アナタの名を!」


「お姉様……」


「そして……あの人まで……」


 ヴィクトリアの力が僅かに緩んだ。


 オリヴィアは瞬時に炎剣をいなすと、片膝を着いた状態から飛び込み、剣を真横に薙ぐ。


「遅い!」


 ヴィクトリアはオリヴィアの剣を軽々と躱す。


 ダメだ、やっぱ今のオリヴィアの剣じゃビクトリアには当たらない。


「どうしたの、オリヴィア? それがアナタの……剣聖の剣なのかしら」


 ヴィクトリアが手を伸ばし、オリヴィアの髪を荒々しく掴むと、そのまま捩じり上げる。


「いっ!」


「結局、アナタが受け継いだのは、この薄汚い髪の色だけだったみたいね」


 ブチブチと、髪の抜ける音が聞こえる。


「アラ、失礼。民の前でする事じゃないわね」


 ヴィクトリアは髪から手を放すと同時に、右足を高々と蹴り上げた。


 その爪先が、オリヴィアの顎を捉える。


 体が浮いたかと思う程の衝撃を受け、オリヴィアは再び後方に飛ばされた。

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