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~舞の四~

 三女マイラから西の森の調査報告を受けて数日。


 結局、明確な打開策を見出せぬまま、この日を迎える事になった。


 今日はオリヴィアの成人を祝う聖清の儀。


 国の英雄、剣聖オルキデアの一人娘であるオリヴィアの晴れ姿を見ようと、多くの民衆が集まっている。


 ココは王都のほぼ中心にある闘技場。


 普段は冒険者や騎士等、腕自慢達が集い力試しをする場所なのだが、稀に国家主催の催し物も行われる。


 聖清の儀も、その一つだ。


 今オリヴィアは闘技場内の控室で待機している。


 儀式用の真っ白な衣装に身を包んだオリヴィアは、椅子に腰かけて出番を待っていた。


 衣装は、アタシの世界で言う所の軍服っぽいデザイン。


 これでも一応、国の誇る優秀な防具らしく、並みの鎧を遥かに超える防御性能があるそうだ。


「オリヴィア様、問題はございませんでした」


 アルフィルクが、手にした剣をオリヴィアに渡す。

 

 ヴィクトリア陣営の動きを警戒して、装備品の確認を行っているのだ。


 剣はアルフィルクが用意した物であり、警戒しすぎとも思えるが、「念には念を」との事。


 オリヴィアは受け取った剣を、まじまじと見つめる。


「アル、この剣はひょっとして……」


「はい、オルキデア様の聖剣を模して造らせました。オリヴィア様の晴れ舞台に相応しいかと」


「そうですか……」


 その剣は、普段使っているバスターソードに近いサイズだが、両刃の剣身は薄めで鍔の部分が小さい。


 アタシが知ってる丈夫さ重視の西洋剣とは違い、日本刀の様に切れ味を優先している剣に思えた。


 もっとも今日は儀式用に刃先を潰してあるナマクラだから、何も切れやしないんだけど。


「母の剣……」


 剣を眺め、黙って目を細めるオリヴィア。


 その表情は、どこか寂しそうに思えた。


 思っていたリアクションと違ったのか、アルフィルクが慌てて頭を下げる。


「勝手な真似をして申し訳ございません! 訓練でお使いになられている剣も用意してございます! よろしければコチラを!」


「いえ、大丈夫です。ありがとう、アル」


 オリヴィアが手にした剣を腰に携える。


 準備は整った、後はその時を待つだけだ。


 オリヴィアは、高鳴る鼓動を押さえようと深呼吸を繰り返す。


 しかし心臓は激しく鳴りっぱなしだ。


「オリヴィア様が真の力を発揮出来れば、ヴィクトリア様が何をされようが対処できるはずです。落ち着いてまいりましょう」


「そうですね……」


 アルフィルクは励まそうとしたのだろうけど、その言葉はプレッシャーにしかならない。


 あの時の動きをオリヴィアに求めても、それが不可能な事はオリヴィアが一番分かっているからだ。


 それこそ、オリヴィアが死にでもしない限り……。


 程なくして、場内の声援がオリヴィアにも届くようになる。


「オリヴィア様、参りましょう」


「……はい」


 アルフィルクにエスコートされ、オリヴィアは意を決して舞台へと歩み出した。


 薄暗い通路を抜けると、目がくらむような光と、耳をつんざく様な声援に包まれる。


 すり鉢状の闘技場。その客席は、数え切れぬ程の人間で埋め尽くされている。


 そして闘技場の中央に設置された、石板の敷かれた円形の舞台。


 舞台上には、既にヴィクトリアが佇んでいた。


 兜は無いが、やたらと派手な装飾を施した鎧。鷹を模した鍔を持つ、黄金色の両手剣。


 主役であるはずのオリヴィアより目立つ格好だが、それらが気にならない程、オリヴィアはヴィクトリアの瞳に引き込まれた。


 それは憎悪や憤怒等、あらゆる負の感情が込められている様に見える。


 今までは、どんなに嫌らしくても、どこか王女らしい気品さを感じたモンだが、今のヴィクトリアは別だ。


 相手を潰す事しか考えてない……そんな眼だ。


 流石に民衆を前にして殺される事はないだろうと思っていた。


 しかし、甘かったかもしれない……。


 さっきから王が民衆に何かを語っているのだが、それが全く耳に入ってこない。


 恐らくオリヴィアやヴィクトリアの事を褒めちぎっているのだろうが、身内自慢なんざ正直どうでも良い。


 アタシもオリヴィア同様、ヴィクトリアの眼から注意を逸らせなかった。


「オリヴィア様!」


 背後から届くアルフィルクの声。


 どうやら、王から舞台へ上がるように促されたらしい。


 オリヴィアはもう一度だけ深く深呼吸をすると、ヴィクトリアの待つ舞台へと上がった。


「我が国が誇る光鷹騎士団団長ヴィクトリア! そして剣聖を継ぐ者オリヴィア! 国を守護する麗しき二本の剣! その輝きを皆の心に焼き付けよ!」


 王が普段の情けない姿からは想像も出来ない程の大きな声を叫ぶと、続けざまに銅鑼の音が鳴り響く。


 戦闘開始の合図だ。


 途端に沸き起こる歓声。


 その歓声を切り裂く様に、ヴィクトリアが突進してきた。


 速い! 金属鎧を着ているとは思えない速度だ!


「オリヴィアァァァ!」


 勢いに任せた一撃を、オリヴィアは何とか受け止める。


 だが勢いに押され、後方へ飛ばされた。


 アタシはヴィクトリアの剣を間近で見て確信した。


 コイツ、やっぱり刃先を潰していない。


 万が一受け止め損ねたら、怪我じゃすまねぇぞ。


「楽しみましょうね、オリヴィア」


 ヴィクトリアが右手をかざすと、その周囲に五つの火の玉が出現する。


 魔法か!


「まだ……死なないでね!」


 五つの火の玉が、オリヴィアに向けて一斉に放たれた。

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