~舞の三~
「そんな所よ、スッキリしない報告でごめんなさいね」
「いえ、ありがとうございますマイラお姉様」
「それじゃ……」
マイラが席を立ち、部屋を出て行こうとする。
しかし、マイラは扉のノブに手を掛けた所で急に振り返った。
「そうそう、これはついでなんだけど……」
「はい」
「西の森の調査にオリヴィアを推薦したのは、ヴィクトリアお姉様らしいわ」
「そう……なんですか」
発言の意図が分からず、オリヴィアが小首を傾げる。
「ええ、西の森は元々お姉様が率いる光鷹騎士団が担当する予定だったのだけれど、別の案件で手が離せないからって」
「ヴィクトリアお姉様は、何時もお忙しいですから」
「そうね……何せ軍事の大半を任されている上、国が抱える全ての魔道具を管理してるのも光鷹騎士団なのだから……」
「魔道具……を」
アタシもオリヴィアも、ココでやっとマイラの言いたい事が分かった。
「まさか……ヴィクトリアお姉様が魔香炉を……」
しかも、その場にオリヴィアを送り込んだのもヴィクトリアか。
「言っておくけれど、物証はないわ。追及も不可能」
そりゃそうだろ、この世界に疎いアタシでも分かる。
今考えた通りの事をやったなら、第一王女と言えども完全にアウトだ。
簡単バレるようにはしてないだろ。
それより気になるのは……。
「マイラお姉様は、何故その事を私に……」
「勘違いしないで、私は誰の味方でもない」
何ともツンデレ風味なセリフだが、恐らく本音だろう。
マイラの酷く冷めた目が、それを物語っている。
「私はね、自分の仕事を完璧にこなしたいの。それを邪魔する人は、誰であろうと許さない。誰であろうと……ね」
マイラが薄く笑みを浮かべる。
こう言う時の顔は、姉達に似てるな。
「今度の聖清の儀、せいぜい気をつけなさい。分かっている事でしょうけれど」
「やはり、ヴィクトリアお姉様は何かを……」
「もう下手な小細工はしてこないでしょう、元々裏で画策するなんて不得意な人だもの」
その不得意な事をしてまで、オリヴィアをどうにかしたかった訳か。
「私は力尽くで来られるヴィクトリアお姉様の方がよっぽど怖い。国でも一二を争う光鷹騎士団、その団長の肩書は伊達じゃないわよ」
「……分かっています」
「そ、なら良いわ」
マイラは軽く手を振りながら、オリヴィアの部屋を出ていった。
残されたオリヴィアは、ベットの端に腰かけ大きく息をつく。
窓から外を見れば、とうに夜は更けていた。
マイラと入れ替わりでやってきたアルフィルクに対し、オリヴィアは「休みます」とだけ伝える。
心配そうなアルフィルクが退室すると、オリヴィアは仰向けにベットへ倒れ込んだ。
オリヴィアは震えていた。
今までも姉達から疎まれている事は分かっていたが、直接的な殺意を向けられていたと知れば、ショックも大きいだろう。
それでも唇を噛みしめ、拳を握り、涙をこらえているのが分かった。
少し前なら、アタシに泣き言の一つでも言っていたんだろうけど、今は何も言わない。
アタシも何も言えない。
何を言ったら良いかも分からない。
こんな状態を作ってしまったのは、アタシだ。
ヴィクトリアは怪しい、限りなく黒に近いグレーだ。
だが証拠はない。
アタシがオリヴィアに言った事も同じだ。
アタシ自身、確信めいた物はある。
でも、それは証拠とは言えない。
オリヴィアにとっては、信じる根拠すらない。
言い掛かりだと思われても仕方がない。
それでも言ってしまった、ぶつけずにいられなかった。
仮説を立てたアノ日から、オリヴィアがお袋さんの話をする度、どす黒い感情が湧き出てきていた。
そのまま溜め込んでいたら、アタシ自身がどうにかなってしまいそうだった。
何でだ? 誰かに殺されたとして、それはアタシが弱かったからだ。
本人ならともかく、オリヴィアに当たる事じゃない。
それがオリヴィアの為だったとしても、オリヴィアに責任はない。
頭では分かってる、分かってるけど……。
(………あ)
気が付くと、オリヴィアが寝息を立てて眠っていた。
アタシは少し悩んでから、念動力でオリヴィアに布団を掛けてやる。
(何やってんだ……アタシは……)
アタシらしくない、そう思いながらも言葉に出来ない。
モヤモヤした想いを振り切れぬまま、アタシは何度目かも知れない眠れぬ夜を過ごした。




