~舞の二~
オリヴィアの足取りが重い。
ヴィクトリアが何か企んでいる事は、オリヴィアも重々承知しているだろう。
しかし、聖清の儀に出ないという選択肢はない。
恐らく、儀式とはいえ戦いの場を蔑ろにする事は、お袋さんの名に泥を塗るとか考えてるんだろうな。
損な性格だよ……ホント。
「オリヴィア、ちょっと良い」
オリヴィアが自室を目前にした時、不意に背後から声を掛けられる。
「マイラお姉様」
そこの居たのは、三女のマイラだった。
外見は母姉の例に漏れず美人さんだが、王妃や姉達と違って威圧感等は感じない。
王家の中では珍しく、髪を短めに整え、ドレスもどこか質素。
普段は口数も少なく、オリヴィアとまともに会話した記憶がない。
姉達と違い、率先してオリヴィアを虐める事はないが、かと言って助ける訳でもなく傍観している事が多い。
我関せずと言うか、アタシから見れば孤高を気取ってる感じ。
どうにも読めないヤツってのが、正直な印象。
そのマイラがオリヴィアに声を掛けるなんて、私が憑いてからは初めてだ。
「少し話があるのだけど」
「は、はい……では、私の部屋で……」
オリヴィアにとっても驚きなのだろう、明らかに動揺している。
オリヴィアはマイラを自室に招き入れると、どこに居たのか、何時の間にか控えていたアルフィルクがお茶を用意する。
「マイラお姉様、こちらへ」
オリヴィアはマイラを窓際にあるテーブルに案内し、その対面に座った。
暫しの沈黙。
今のアタシも、オリヴィアと二人きりだとこんな感じだ。
居心地は悪いが、アタシの場合は自業自得だからなぁ……。
マイラはアルフィルクの入れてくれたお茶を一口含むと、ふぅと息を吐く。
「オリヴィア、話と言うのはね……」
マイラはそう言うと、チラリとアルフィルクを見る。
視線を察したアルフィルクは、二人に一礼すると部屋を出ていった。
「オリヴィアは、良い従者を見付けたわね」
「私には勿体ないくらいです……」
「元聖騎士団の若きエース。その彼が落ち込んでいたわよ、護るべき人に護られた、不甲斐ないって」
この前に調査したゴブリンの件だろう。
あれだけ「オリヴィア様を護る!」と大見得を切った手前、そのオリヴィアに怪我を負わせ、その手を煩わせた事を悔いているんだろう。
まぁ、どっちもアタシとオリヴィアのせいなんだけど……。
オリヴィアが口ごもっていると、マイラはフッと微笑んだ。
「失礼、本題に入りましょう。話と言うのは、西の森の追加調査に関してなのよ」
マイラの声色が少しだけ緊張感を含む。
「私の部隊が追加調査を担当したのは知ってる?」
「はい、お母様に教えて頂きました」
元々オリヴィアの一団は、臨時で編成された物。
追加調査には正式な部隊を送る事になった為、オリヴィアは外されたそうだ。
「今日、調査の最終報告が上がってきたから、元の担当であるオリヴィアにも伝えるべきかと思ったの」
「それでわざわざ……ありがとうございます」
結果報告の為にオリヴィアに会いに来たのか。
真面目なのか、義理堅いのか……やはりマイラは上二人とは少し違うようだ。
「簡単に言うとね、あのゴブリン達が西の森に現れたのは、人為的である可能性が高いの」
「人為的?」
「そう、何者かが隣国からゴブリン達を追い立てた、またはコチラ側へ誘い込んだ可能性……」
「そんな一体誰が! 何故その様な事を!」
オリヴィアが思わず立ち上がる。
「落ち着きなさい、まだ話は終わってないわ」
「は、はい……」
オリヴィアは椅子に座り直すと、何度か深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
「続けるわ、まず魔香炉は知ってる?」
「はい、魔物をおびき寄せる魔道具ですね。魔物の集団を討伐する際、効率化をはかる為に使われる……」
「その魔香炉を使った形跡が、ゴブリンの遺体付近で発見されたの」
「魔香炉を? でも、アレは使用制限が有って一般への流通は……」
「ええ、国内でも一部の人間にしか使用できないし、存在すら公にされていないわ」
「では……」
「もう一つ、ゴブリンロードの遺体に、オリヴィア達以外の人間と争った形跡が見つかったの。でも最近の記録を見る限り、近隣の被害報告と合致する物はなかった」
「それでは……ゴブリンと争った人間は……」
「被害を公に出来ない犯罪者か、隣国の人間。ゴブリン達の移動ルートと発見場所を考えれば、後者である可能性が高い」
つまり隣の国で人間と戦い、追い詰められたゴブリン達が、更に魔香炉とやらに誘われてコノ国にやって来た……と。
「追い立てた側と誘い込んだ側が、同じ意図で動いていたかは分からないけど、私はその二つが今回の要因だと考えてるわ」
「一体誰が……」
「今の所、容疑者を特定できそうな物証も情報も無し……残念だけどね」
「魔香炉の形跡から、何か分からないのですか? 確か本体に管理番号が刻印されていたと思うのですが……」
「魔香炉自体は、残骸も見付かってないの。魔力感知で使用した形跡が判明しただけ。それだけでは、流石にね……」
マイラがそう言って首を横に振った。
「そうですか……」
「私としても、更に調査を進めたかったんだけどね。正式に調査終了を言い渡されたら、私の立場で勝手な事は出来ないから……」
肩をすくめるマイラ。
マイラに命令できる相手となると、王か王妃、または姉二人くらいか……。
何とも、きな臭くなってきたな。




