~舞の一~
火花散る剣戟、響き渡る金属音。
晴れ渡る青空の下、オリヴィアとアルフィルクの打ち合いは止む事無く続いていた。
アルフィルクに剣を習い始めてから、オリヴィアは順調に上達している。
未だアルフィルクから一本も取れてはいないが、瞬殺される事は無くなった。
特に守勢に回った時の剣捌きはなかなか。
だが今日の剣は些か雑だ。
攻守共に粗さが目立ち、型も崩れてしまっている。
理由は分かっている……アタシのせいだ。
アタシが、アイツのお袋さんを疑うような事を言ったせいだ。
「はぁっ!!」
「隙あり、です」
オリヴィアの一撃をかわしたアルフィルクが、手にした剣を喉元に突き付ける。
決着がついた瞬間、オリヴィアは疲労の為に芝生の上に膝をついた。
「オリヴィア様、そろそろ休憩を……」
「いえ、もう一度お願いします」
アルフィルクは何度となく休憩を提案しているが、オリヴィアは頑なに拒んでいる。
それは、うっぷんを晴らす為に自身を虐めているかの様に見えた。
「オリヴィア様……いったい何があったんですか。突然 屋外で……しかも真剣での稽古を望まれたかと思えば気もそぞろで……」
アルフィルクはアタシの事を知らない。
あんな事があっても、オリヴィアは誰にも相談せず、その全てを胸に秘めている。
アタシにも、オリヴィアが何を考えているか分からない。
オリヴィアとは、アノ日から一度も話していないからだ。
人と人は、言葉にして話さなければ相手の事が分からない。
それは霊魂になったアタシも変わらなかった。
いや、今では自分の事すら分からない。
アタシは、どうしたいんだろう……。
「オリヴィア様、本日の訓練はここまでです」
「いえ、私はまだ……」
アルフィルクがオリヴィアから視線を移す。
オリヴィアがアルの視線を追うと、こちらに向かって来る騎馬を見付けた。
騎馬はオリヴィアの前で止まり、馬上の騎士は素早く馬を降り跪く。
「オリヴィア様、王妃様からのお呼び出しです。すぐにお戻りください」
「確かに、これ以上の訓練は無理そうですね……」
オリヴィアがアルフィルクの手を借りて立ち上がる。
「私は先に戻ります、馬をお借りできますか」
伝令に来た騎士から馬を借り受け、オリヴィアは城に向かって駆けだした。
「オリヴィア、聖清の儀が近い事は分かっていますね」
オリヴィアが到着すると間もなく、玉座の間に女王の威厳に満ちた美声が響く。
「はい……お母様」
以前、オリヴィアとの雑談で聞いていた。
この国では15歳で成人となる。
そして成人となった王家の人間は、聖清の儀を受けるのが決まりなのだそうだ。
聖清の儀とは、王家に連なる者が成人となる年に行われるお祝いの儀式。
同時に、国民の前で己の武威を披露する場でもあると言う。
城郭都市の住人も多く参加し、国を挙げての一大イベントと言える。
オリヴィアは、お袋さんから言い聞かせられたそうだ。国を統べるとは国を護ると言う事。国を護るとは民を護ると言う事。
聖清の儀は、己の力を国民に見せつける事で、国を統べるに相応しい力の持ち主だと宣言する為の場でもあるのだ……と。
とはいえ、そこはあくまでも「儀式」。
武威を見せると言っても、騎士を相手に台本ありきの殺陣を見せるだけ。最後は相手が王家の剣に降伏して終わる。
アタシは「野球の始球式みたいなもんだな」と言って、オリヴィアにポカンとされた事を思い出した。
「その聖清の儀で、オリヴィアの相手を務める者が決まりました」
王妃がそう言うと、ある人物が一歩前に出る。
長女のヴィクトリアだ。
「宜しくね、オリヴィア」
「ヴィクトリアお姉様が、私の相手……」
「ええ、ご不満かしら?」
ヴィクトリアが嫌らしく口角を上げる。
「不満……ではありませんが……お姉様方の聖清の儀では、近衛隊長であるフラウゼンが相手ではなかったかと……」
「そうね、本当はフラウゼンが担当する予定だったのだけど、私がお母様に進言したの。剣聖の血を継ぐ者が、形だけの儀式で済ませても良いものかしら? それで民が納得するのかしら? ……とね」
どこか得意気なヴィクトリア。
何かを企んでいるのがバレバレだ。
「そこでアナタの相手として、私が名乗りを上げさせて貰ったの。第一王女であり、光鷹騎士団団長である私が相手なら、民も喜んでくれる事でしょう」
「し、しかし……」
「お母様にも、ご納得して頂いたわ」
王女はヴィクトリアの言葉に、小さく頷く。
「この国は、長らく安穏を保っている様に見えますが、その実、隣国とは緊張状態が続き、魔物達の動きも活発、決して油断はできない状態です。現状に不安を感じている民も少なくありません」
オリヴィアとヴィクトリアが戦う事で、民衆を活気付け様って話か。
「西の森での件は、噂として民衆にも伝わっているそうです。民がオリヴィアに抱く期待は日々高まっています。その期待に応える事、それに負けぬ武威をヴィクトリアが見せる事、それが今回の儀における二人の使命です」
成人のお祝いと一緒に、民衆への決起集会も兼ねてしまおうって魂胆らしい。
王妃が言葉を切ると、ヴィクトリアが大げさな身振りで前に出た。
「何も怖がる事はないわオリヴィア。何度か打ち合ったら、最後はお互いの剣を合わせ、王家が一丸である事を示して終わり。今のアナタなら、私の剣を受ける事など容易いでしょう」
「それは……」
「大丈夫、ちゃんと手加減するから」
流石にオリヴィアも、姉の言葉をそのまま受け取りはしない。
もっとも王妃が承諾している時点で、オリヴィアに選択の余地は無い訳だが……。
「良いわね、オリヴィア」
「はい……宜しくお願いします……ヴィクトリアお姉様」
ヴィクトリアが満足そうに頷くと、王妃が娘達に退室を命じる。
オリヴィアは姉達に続き、玉座の間を後にした。




