~動の六・終~
つまり……私の中にトモエを連れてきたのが、お母さん?
(半信半疑だった……だが今日ココに来て確信した。あの時アタシが見たのは、お前のお袋さんだ)
「待ってください、なぜ母がそんな事を……」
(そりゃ、お前を助ける為だろ)
トモエは「おそらくな」と付け足した。
(アタシが知る限り、お前は3回死にかけてる。病気の時、地下室の時、ゴブリンの時……でも、お前は生きてる)
「私が危機に陥った時、トモエが助けてくれる様に……と? でもトモエと出会った時、私は病で重体だったんですよ。そんな時に……」
私は病に伏せている時にトモエと出会った。
もしも、その時に死んでいたら、その後トモエが守ってくれても意味がないはずだ。
(アタシもソコは疑問だった。アタシを護衛代わりにするには、おかしなタイミングだ。でもな、あの時お前の身にゴブリンと同じ事が起こっていたとしたら?)
「ゴブリン……ですか?」
(この世界では共食いすると進化する……だったな)
西の森に居た、変異型ゴブリンの事を言っているのだろう。
「はい、詳細な仕組みは不明ですし、同種を喰らっても変化が無いケースも確認されていますが……」
(例えば……だ。それが肉体じゃなく、魂を喰らう事で起こっているんだとしたら?)
「まさか……」
(お前が同じ人間の魂……アタシを喰った事で、病を克服する程に進化……強くなれた可能性は?)
「あ、あり得ません!?」
(そうか? 少なくともアタシは身に覚えがあるんだよな、あの地下室で……)
「地下室……クトゥア地区の」
(アタシは剣術を磨いてきたし、そこそこ強いとも思う……でもな、真剣で人を斬った事なんかなかったんだよ。なのに簡単に人の首が飛ぶんだよ、鉄製の鎧が斬れちまうんだよ……)
「それは……」
(あの時はアタシも興奮してたし、深くは考えなかった。魔法もあるんだ、恐ろしく斬れる剣もあるかもってな。でも違った……)
あの時のトモエは、兵士の持った剣を使っていた。
彼等の剣は国から支給されている物で、切れ味よりは丈夫さを重視している。
だからトモエは他の理由を考えた。そして辿り着いた答えが……。
(この体には、お前とアタシ……他にも多くの霊が憑りついてた……分かるだろ?)
一つの体に複数の魂が宿っていた為、超人的な力が発揮できた……と。
そう考える事も出来るかも知れない、でも。
「そんな事……魂を喰らって強くなるなんて……そんな話聞いた事もありません! ありえません!」
(アタシにとっちゃ、とっくにあり得ない事だらけなんだよ)
以前に聞いた。
トモエの居た世界には、魔法も無いしモンスターも居ない。魂の存在も証明されておらず、ましてや異世界等は空想の産物でしかない……と。
(でもな、別にそれは良いんだ。そもそもアタシは成仏寸前だったし、生き返る可能性が僅かでも貰えるなら、体のお守りくらいしてやるさ)
「それなら……」
(それだけならな)
「他にも……何かあるって言うんですか」
(確認だ……アタシが別世界で死んだのは、お前に憑く5日前だ。お前が熱で倒れたのも、同じ日か少し前じゃないのか?)
「た、確かに……同じ日ですが……」
(思い出したんだ、アタシが死ぬ瞬間。何かに体を押さえつけられるような感覚があって、アタシは車を避けられなかった)
トモエが何を言わんとしているかは、すぐに分かった。
(それって、お前のお袋さ)
「違います!」
それ以上、聞きたくなかった。
「母は! そんな事はしません! 私を助ける為に、他人の命を奪うなんて事はしません!」
(でもな、少なくともお前のお袋さんと、アノ女神モドキが同じだってのは間違いないんだよ。証明なんて出来ないがな)
「それでも!」
(アタシだってな……こんな事を考えたくねぇよ……うじうじうじうじ……でもな、考えちまうんだよ……思い浮かんじまうんだよ……)
トモエの声が、魂が震えているのを感じる。
まるで、私が泣いている時の様に……。
(教えてくれよ……アタシは何で死んだ? 何の為に連れてこられた? 何の為にお前の中に居る?)
「トモエ……」
(アタシは……何なんだ……)
私はトモエの問いに答えられない。
答えを持っていないし、何よりトモエの仮説を受け止め切れていない。
震えるトモエの魂を感じながら、私は日が沈むまでその場を動く事が出来なかった。




