~動の四~
「え……」
(お前が死ねば、アタシが体を使えるようになるかも知れない。そうすれば全員助かるかもなぁ)
「私が……死ぬ……」
(戦って死ぬなら名誉な事だ、文句はねぇ。アタシも体が貰えるし、仲間も助かる。完璧だろ?)
「それは……」
トモエが私の死を待っている事は知っている。
だけど、今までこれほど直接的な言葉を向けられた事があっただろうか。
「本当に……もし私が死んだら……」
(尻ぬぐい位はしてやるさ)
母なら仲間を見捨てたりしない。
自分の命に掛けても……絶対に。
「オリヴィア様! 危ない!」
アルの叫ぶ声。
兵士達の壁を抜けたロードが鉈を振りかぶり、私に向かって来ていた。
「くっ!」
私は急ぎ立ち上がろうとするが、足が動かない。吹き飛ばされた時のダメージが抜けていないのか。
「オリヴィア様!」
アルがその神速を活かし、ロードの前に回り込んむ。
だが腕力の勝負では分が悪い。
ロードの一撃を受けたアルが、後方へ弾き飛ばされた。
「アル!」
私は背後の大木を支えに、何とか起き上がる。
私とロードの目が合った。
一瞬で体が硬直し、冷たい汗が噴き出す。
死ぬ前に、せめて一太刀を……そう思っていたけれど、それすら叶いそうにない。
「グォオオオオオオ!」
「オリヴィア様!!」
ロードの雄たけびと、アルの悲鳴に似た叫びが同時に聞こえる。
かわせない……瞬時に悟った。
やっぱり私は最後まで弱いままだった……。
でも、私が死ねば……。
「やっぱ、こうなんのか……」
トモエの声が「外」から聞こえる。
気付けば、私はロードの鉈を紙一重でかわしていた。
私と入れ替わったトモエが、体の感触を確かめるように剣の柄を握り直す。
「アルフィルク、お前は倒れているヤツを回復。一緒に後ろの小鬼共を潰せ」
トモエがロードを睨みつけながら、アルに指示を出す。
「このデカブツの相手は、アタシがする」
「オ、オリヴィア様……」
アルの戸惑った声が聞こえる。
「さっさと行け!」
「は、ハイッ!」
トモエの激でアルが駆け出して行った。
あの時と同じ様に、アルにも今の私は別人に見えている事だろう。
(トモエ……なぜ……私はまだ……)
「そりゃ、アレのせいだろ」
トモエが顎をクイッと上げる。
視線の先には、ロードが持つ巨大な鉈。
「いや~な匂いがしやがる……ありゃ相当人間の血を吸ってるなぁ」
(じゃあ、あの鉈に殺された人の魂が……)
あの地下室と同じ、無念のまま留まった霊達がトモエに力を貸しているのだろうか……。
「まったく……都合が良いのか悪いのか……」
トモエが不満そうに呟く。
やっぱり違う……トモエは……どこか変だ。
「さすがに今の状態では死ねねぇからな……」
トモエが腰を落とすと、ロードも鉈を構えなおす。
先程までと違い、明らかに警戒している様子だ。
「ホント……ムカつく……」
つまらなそうに呟き、トモエが駆け出す。
それを迎撃しようと、ロードは鉈を振り下ろした。
「バカの一つ覚えか……」
トモエが更に速度を上げてロードの懐に飛び込む。
振り下ろされた鉈に対し、トモエが剣を振り上げた。
巨大な鉈とバスターソードが激しくぶつかり合った……はずなのだが、それはまるで雨粒の様に、ロードの鉈はトモエの剣の表面を滑る。
ロードの一撃は軌道を変え、その勢いのまま地面に叩きつけられた。
トモエは振り下ろされたロードの腕に向かって剣を薙ぐ。
途端に舞い上がる、緑色の血飛沫。
ロードの両腕が宙を舞った。
「ガギャァアアアアアア!」
「うるせぇよ」
間髪入れずに繰り出されたトモエの突きが、ロードの喉を捉える。決してなれる事は無い、肉を切り裂いた不快な感触が伝わる。
気道を貫通したのか、ボコボコと泡立った緑の液体が剣を伝って落ちてきた。
「とっととくたばれ」
トモエがロードに突き立てた剣を、真下に振り下ろす。
ロードの体が、喉から股下にかけて魚を開く様に切り裂かれた。
叫ぶ事さえ封じられたロードは、そのまま前のめりに倒れる。
その後、僅かに痙攣をおこしたかと思うと、程なくして動かなくなった。
(凄い……)
改めて感じる、トモエの剣技の凄まじさ。
荒々しく、豪快で、それでいて、しなやかで……。
似てはいない……そのはずなのに、なぜか私は記憶の中に残る母の姿と重ねた。
「アッチも終わったみたいだな……」
見れば、アルと兵士達もゴブリンの殲滅を終えていた。
(トモエ、ありがとう……)
「……もう戻りそうだ……後は頼まぁ」
覚えのある、何かが弾けるような感覚。
体の主導権が戻り、私はその場にしゃがみ込む。
結局、私は何も出来ずに終わった。
ただ、それだけの初実戦だった。




