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あの薔薇が咲き乱れる頃には  作者: 瑞月風花
春分祭にて

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おしゃべりアミカ

 ルディが去った後、ルタはこのテーブルを仕切っているアミカの傍にいた。アミカ・リンディはリディア家にとってもクロノプス家にとっても遠縁になるので、とりあえず一番先に挨拶をしたのだ。アミカは愛想良くルディに挨拶をして、新顔の話題に事欠かないルタに興味を持った。


 お喋りで仕切りたがりやで、権威というものを好むもの。とても人間らしいとも言える。ただ、もちろんそんな性質を元々持っているのだろうが、ディアトーラという田舎国家に現在血筋として負けていることが許せないのもあるようにも感じられた。

 ルタはアミカの印象をそんな風に位置づけ、彼女の声を耳に流していた。


 春らしい桃色のドレスを着ているのに、どこか高圧的な雰囲気を醸し出すそんな彼女の回りには、取り巻きと呼ばれそうな二人が相づちを打っていた。


「ご存じです? 今はカカオットと呼ばずに、ショコラッテと呼ぶことが多いのですよ」

ルタは「そうなのですね」とだけ答えてにこりと微笑む。

「あら、ご紹介の品の最新の呼ばれ方もご存じないのですのね」

「やはり、アミカ様は素晴らしいですわ」

ルタが知らないと答えると、取り巻きが口を揃えてアミカを持ち上げる。すると、アミカは得意そうに「ほほほほ」と満足する。


 単純なご令嬢であるが、大きな害意は感じられない。

 ルタはそう思いながら、目当てのテーブルに視線を落とした。

 緑の陶器のポット。それと同じ色のカップ。そして、小さな四枚花が刺繍されているランチョンマットの上には若い女性が好みそうな砂糖漬けの花菓子と果物、焼き菓子が置いてあり、そこにはロッテのカカオットが薄いビスケットの上に一つずつ載せてあった。


 テーブルの中央にある花籠にはラベンダーに、ローズマリー、タイム、セージ、カモミール、ルーが丸く収められており、それらは、ルタがもらった小さな花束(タッジー・マッジー)と同じもので構成されていた。

 こちらは、確実にルタへ向けた何かしらのメッセージだ。

「その緑のポットはエリツェリが用意させたものですのよ」

「素敵なお色ですね」

ルタの答えにアミカは鼻で笑い、取り繕うともせずに、言葉にする。

「確かに、エリツェリやディアトーラにはお似合いの色だと思いますわ」

言い終わって、何かのツボにはまったかのように、笑い出す。箸が転んでも可笑しいお年頃ではあるのだろうが、ルタは彼女たちが残念でならなかった。

 あの茶器は確かに、華やかさはないかもしれない。しかし、良いものであることは確かだ。ルタはやはりにこりとだけする。


「アミカ様、お可哀想ですわよ。ディアトーラではきっと私たちが用意するようなものは買えませんもの」

「そうですわ。アミカ様のお家にあるような、豪華な装飾のあるあの金のポットとは比べようもありません」

 どの献上物がどこの国からであるのか、それは詳しく知っているのに、それを情報として使おうともしていない。使い方次第では、彼女くらいの年頃でもある程度の力に変えられるのに。彼女たちのくれる情報は粗いが、掘り起こし方次第では、大きなものに変わるのに……。

 しかし、お節介を焼こうとも思えなかった。


 ルディにはエリツェリとは揉めないと伝えたが、他の国やリディアスの貴族たちと揉めようとも思っていないのだ。これから付き合いもなさそうな令嬢たちと、わざわざ競う必要もないし、親切にこちらの思いを伝える必要もないのだ。

 ただ、勿体ないな、とだけ思う。


 そんなことを知らないアミカはどんどん情報を垂れ流してくれる。

「ご存じです? あちらがエリツェリのミルタス様。お可哀想に、今回はソレル様の世話役なんですって」

アミカが含み笑いをしながらミルタスを見つめていた。

 ミルタスはルディの断った縁談相手である。亜麻色の髪には白い薔薇が装飾として飾られており、落ち着いた薄緑のドレスにも小さな白い花模様が散らされていた。大人しそうで、聡明そうな。そして、彼女の持つ小さな花束もルタと同じものだった。

 おそらく、この花束に気付いてこの場所に留まっているのだろうと思える。

 だから、あのポットを選んだのは、この方なのだろうなという想像がつく。


「今回は?」

ルタが首を傾げると、アミカは調子づいて嬉しそうにした。

「五年前に一度いらしているの。あたくしも、小さかったからあんまり詳しく覚えてませんけど。以前はエリツェリの代表でもあったのかしら。お一人でいらしていましたから。でもね、あの方、縁談を断られて、その後どこにも嫁いでいらっしゃらないのよ。良いお歳なのにねぇ」

アミカのその言葉で、ルタはルディの言葉を思い出した。気まずいのは、そういう意味もあったのだろうか?

 ただ、ルディのそれとは違い、彼女の発するその言葉には甚大な被害こそ起こさないが、あまり良い言葉で使われていないことは確かだ。


「お可哀想にね」

「ほんとうに」

取り巻きたちも同情の声を漏らすが、そこに真意はない。これはルタに対する攻撃である。

 ただ、実際どうなのだろう。

 ルタは思った。

 彼女から可哀想な雰囲気は全くないのだけれど。自分でしっかりと立っていらっしゃるのだけど。

 ミルタスの見つめる先にはエリツェリ元首の娘ソレルがいる。こちらは幼さの残る少女だった。

 踝よりも上にある水色のふんわりとしたドレスに、桃色の花の刺繍。さっきからミルタスに隠れるようにして、カカオットを食べては幸せそうに微笑んでいる。

 ミルタスもそれを知ってはいるが、見て見ぬ振りをしているような雰囲気だった。そして、やはり何かを探しているようにして、回りに気を配っている。

 黙っていたルタに気をよくしたのか、アミカがにこやかに話しかけた。


「あら、ご気分でも優れませんこと?」

「えぇ、少し休ませていただきますわ」

ルタの答えにさらに嬉しそうにするアミカに、ルタはお望み通りの表情で微笑みを与え、その褒賞とした。


 そして、やっと解放されたルタは黄色い薔薇の下にあるベンチに腰をかけることにした。



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