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あの薔薇が咲き乱れる頃には  作者: 瑞月風花
冬じたく

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アリサの心眼


 もし、アルバートを陥れようとする者がいるのならば、もしくは秘密裏に暗殺計画でも進めている者がいるのだとすれば、それが出来るのはアノールだけだと、アルバートは思っていた。

 だから、アサカナは王位継承権順位を無視した順位をつけていたのだ。

 皆はアルバートが順当に国王になったと思っているのだろうが、アルバートはアリサという伴侶込みの継承一位だったと思っている。国という者は国王一人で動かすものではない。王一人が優れていても役に立たないからだ。


 国王として立つための、暗黙の第一試験として自らの目で伴侶を選び取るというものがある。お見合いでも自由恋愛でもなんでもいい。今この国を動かすために必要な伴侶選びをした者が、国王に立つことが多いのだ。その点で、アルバートは運が良かった。

 実際、まさにその一点で、アノールに(まさ)ったのだろうと思っている。

 さらにはアノールがディアトーラの娘を伴侶として選んだから。


 彼女が劣っているというわけではない。当時のリディアスとしては『ディアトーラ』が悪かったのだ。

 ルタがディアトーラに輿入れだと聞いたアサカナがアルバートの娘をルディの伴侶にまで言い出すくらいだから、アサカナにとってディアトーラはまだまだ魔女の国であり、認めるわけにはいかない国だったのだろう。

 もちろん、アルバートはその申し入れを丁重に断った。


「お父様はディアトーラをどうしたいのですか?」

一人息子のルディをリディアスの養子になんて、アノールが許すわけがない。それこそ、あの家に魔女を入れるよりも困難な問題として取り上げられただろう。

 しかも、それが後のリディアス王候補となるのだ。頭痛の種は埋めない方が良い。

「うちには息子もいるのですよ」

口には出さずに父を非難した。もちろん、王の器かどうかを見極めなければならないのだが……。使えそうにないならば、娘に器たる誰かと一緒になってもらうある選択肢もあるのだが。既に爵位持ちの有力貴族に輿入れをして、上手くやっているようなので、できるだけ避けたい未来ではある。さらには弟二人の息子達だっているのだし。


 ただルディを嫌っているわけでないところが、伯父として少し複雑なのだ。


 そして、妻のアリサを眺める。妻はお茶を淹れるというよりも、その綺麗な茶器に興味があるのだ。妻曰く。道具は道具としての本領を発揮している姿が『素敵』なのらしい。

 何が面白いのか、注ぎ口から出てくるお茶の色、カップに流れた後のお茶の色、そして香の広がり方などを研究してなさるのだ。

 ただ、その性格は人への興味にも同じになるらしい。その者がその者らしく本領を発揮している時が一番素敵であり、そうなるべきだと考えている。当たり前の状態ではあるが、その状態に持っていくのは難しい。そして、アリサは適材適所を見抜く目を持っている。


「アリサ」

今度はお茶を口に含んだアリサが視線をアルバートに移した。

「貴方はいつもタイミングが悪いのですわ」

「ルディはあんなにもかわいいのに、どうしてアノールはあんなに性格が悪いんだろうな。やはり、よほどセシル殿の性格が良いのだろうな」

アリサがフフと笑う。

「貴方も大概だと思いますけれど。確かにセシル様は可愛らしいお方ですわね」

アリサの中でのセシルは害のない小動物と認識されている。コロコロ変わる表情とアリサにとってはどうでも良いようなことを気にしながら、一喜一憂する姿が可愛らしいのだそうだ。確かにセシルの一喜一憂は悪意は全くなく平和的ではある。


「だいたい、一人で歩いてきておいて、密偵扱いをやめろってどういう了見で言ってくるんだ?」

アリサはアルバートの言葉を流し聞きすることに決めているのだろう。すでにそのポットを持ち上げて、何か思案している。

「そうですねぇ……。彼はディアトーラの人間として生きているからに尽きるのでしょうけれど……」

的を射ているが、こちらにも言い分がある。

「だけどさ、一応王族だぞ? こっちが呼びつけたんだぞ? 騒がれたらどうする? 密偵としての役割があるから一人の方が説明が付くだろう? だいたい、どうして護衛の一人もつけずにひょこひょこやって来るんだよ」

アリサが丁重にポットを敷物の上に戻し、再び視線をアルバートへ移す。


「やはり、この茶器は今までで一番良いものだと思います。お茶の温かさを保つ時間も、香りの広がり方も、とても素敵ですもの」

「お前は話を聞いていたのか?」

その言葉にアリサはさも心外という表情を浮かべる。

「聞いていましたとも。ちゃんとお返事しておりましたでしょう? アリサはアルバート様に申し上げましたわ。アノール様はディアトーラの人間として扱って欲しいだけなのです。以前にも仰ってらしたでしょう? ディアトーラはいかに国王であろうとも特別であることがないと。民からの敬意は払われているようですけれど。別に他意はありませんでしょう? そして、リディアスにはリディアスの体裁がある。それでよろしいじゃありませんか」


 良いと言えば、良いのだが……。


 視線をアルバートから外そうとしないアリサにこれ以上愚痴を言うのは良くない。

「その茶器はそんなに良いものなのか?」

とりあえず、アリサの話もちゃんと聞いていたアピールはしておいた方が良いだろう。話が自分に戻ってきたアリサが嬉しそうに微笑む。

「えぇ、とっても。いつかあの櫛を選んでくれたルタと、茶器についても話がしてみたいわ」

本当に嬉しそうに話をする。


 そんな時のアリサは、値踏み準備。気を付けた方が良い。ルタの春分祭への招待は皇后たっての希望だった。

 だが、そのアリサの興味を彼女が惹いたのも確かなのだ。

 アルバートはそう思い、孤高のディアトーラに住む者たちを思い浮かべた。

 使えないと思われた方が気楽なのか、使えると思われた方が安泰に繋がるのか、それはアルバートにも分からない。



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