表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あの薔薇が咲き乱れる頃には  作者: 瑞月風花
幕間劇(芽ばえの時)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/134

瞳の色


 草を食む牛を眺めながら空を眺めた。

 ふんわりとした小さな雲がいくつもある。

 うろこ雲と言うらしい。明日は雨なのかもしれない。

 テオはそんなことを思いながら、その間に見えるディアトーラには珍しい青い空に惹かれる。

 領主様の瞳の色は春先に広がる空の青い色で、その息子であるルディ様は藍に近い海の青い瞳をしている。実は、テオも同じ青い色なのだが、テオの青は少し緑がかった色でもあった。昔話に出てくる魔女の瞳が緑色だから、時々からかわれるのだ。

 もちろん、テオは魔女じゃないし、友達がテオを魔女だと思って言っている訳ではないことも知っている。だけど、やっぱり思うのだ。

 どうして、真っ直ぐな青色じゃなかったのだろう。

 ずっとそう思い続けてきた。

 だけど、今度ルディ様が結婚される相手は魔女だったらしい。しかし、その瞳の色は夜の闇の色。

「魔女って緑色の目じゃなかったのかよ……」

ぼそっと牛に呟いてみる。


 牛は草を食み続ける。なんだかからかわれ損のように思ってしまう。

 雨が降れば帰れるのに……。

 ふと視線を遠くへ向けた。それは、別に手を振られているのに気付いたわけではなく、ただ本当にふと、気付いただけだった。

「ルディ…さま?」

ルディの横には黒髪の女の人がいる。多分、それが元魔女のルディの奥さんになる人だ。テオは牛の首に付いているロープを木に引っかけて、そのままルディに駆け寄った。

「ルディさまは……お散歩ですか?」

いつもここを通る時よりもルディが気楽な感じがした。

「うん。テオは?」

振り返り牛の様子を見る。

「牛に草を食べさせてました」

「いつもお手伝い偉いね」

青い瞳が細められる。しかし、テオはその横にいる奥様が気になる。やっぱり黒い瞳……

「あ、彼女はルタで、この子はテオ。牛飼いの子で、本当に良い子なんだ」

紹介された奥様が微笑んだ。元魔女なのに、まるで教会の女神さまのよう……。

「こんにちは。テオ」

奥様は身をかがめ、テオに視線を合わせる。あんまりにも綺麗な瞳に顔が赤くなるのを感じた。

「こ、こんにち、あ」

うわずった声にさらに恥ずかしくなる。だけど、本当は訊きたいことがあって……。

「テオの瞳の色は綺麗な青色なのですね」

優しく響く声に、その言葉に、尋ねて良いのかな、と思ってしまった。

「あの、奥様、あの……魔女の目って緑色じゃないんですか?」

ほんの一瞬目を丸くした奥様が、すぐにクスリと笑った。

「えぇ、魔女の瞳は緑色をしていますわ。わたくしも以前は緑色でしたもの。だけど、テオの瞳の色は魔女のものではありません。その色はご両親から頂いた唯一の色ですもの」


 魔女の瞳はときわの森の色。

 森を深める千歳緑の色。森を生み出す木々の葉のように、色を深めていくもの。


 牛が草を食んでいた。

「テオーっ」

声の方を見遣ると卵拾いを終えたクミィが三つ編みを飛ばしながら走ってきていた。そんなに走らなくても、テオはまだしばらくここで牛に草を食べさせているのに。

「聞いて〜。あたしルディ様と奥様に手を振ってもらったの。頑張ってるのねって言ってもらったのっ。あのね、あたしも奥様みたいなお嫁さんになりたい」

――きれいだったなぁ……

クミィはテオの隣に腰を下ろしながら、両手を合わせて空を見上げていた。何を見つめているのかは分からない。だけど、テオもその空を見上げた。

 散歩が終わるまで、雨が降らないように祈りたくなる。

「ねぇ、なれると思う?」

キラキラ輝く茶色の瞳でクミィはテオを見つめた。

「……頑張れば?」


 そんな風に言いながら、一度もテオの瞳をからかったことのないクミィならなれるんじゃないかと本気で思った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヘッダ
総合評価順 レビュー順 ブクマ順 長編 童話 ハイファン 異世界恋愛 ホラー
↓楠木結衣さま作成(折原琴子の詩シリーズに飛びます)↓
inu8gzt82qi69538rakm8af8il6_57a_dw_6y_1kc9.jpg
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ