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あの薔薇が咲き乱れる頃には  作者: 瑞月風花
春を待つ者

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ルディの学友…2

 元々、モーリシャスはルディに気に入られてよく喋っていたので、一人になるということは全くなかった。そもそも、ルディはリディアス国王の孫だ。だから、誰もが一歩下がって様子を窺うような、そんな存在ではあった。


 だから平民でありながらも、モーリシャスは目を付けられることもなかったのだが、王族であっても田舎の小さな国から来たヴァイサルは気が弱く、一人でいることが多かったために、よくからかわれていたのだ。

 理由は変な言いがかりばかりだった。


「あの時は何だったんだ?」

「あぁ、あの時は、なんだっけ?『邪魔』だったかな?」


クソ田舎野郎が、何邪魔してやがんだよ。ほら邪魔なんだよっ。虫ケラは虫ケラらしく振る舞えよ。目障りなんだよっ

……だった。


 別に邪魔なんてしていなかった。立ち上がった場所にちょうど彼が通ろうとしただけで。彼に気付いて、すぐに道自体は譲ったし。ただ、視線に入った僕が目障りだっただけ。


 言っておくけど、君は王族じゃないよね、立場を分かっていないのは、君の方だ。今だって何が邪魔だって言うんだよ、とは怖くて言えなかった。リディアスで彼が元首として立つことなんて、絶対にない。だけど、万が一リディアス王が、彼に味方をしたならば。


 羊毛も羊肉もリディアスだって持っているから……。


 相手が鉄を保有する大貴族だったから、奴の家との取引がなくなると、国が困ってしまうから。だけど、いつかこいつと取引をするのかもしれないと思えば、黙って引き下がるのも癪だった。


「……忘れたよ」

「そっか。でも、あの時だけ、サルを助けに行ったんだよね、あいつ」


 確か、どうしてそんなことを言われなければならないのかが、まったく分からなくて、上手く対処できなかったのだ。謝りもせず、動かないヴァイサルに腹を立てた彼は、「鬱陶しい」という理由で、ヴァイサルを殴りかかった時に、ルディの声がした。

『ヴァイサル、ちょっと、訊きたいことがあるんだけど』


 目を瞑ってしまっていたヴァイサルの耳に入ってきた言葉は優しかったが、ヴァイサルの目に映った奴を睨み付けるルディのその目が、恐ろしく怖かった。表情豊かなルディの顔からすべての表情が消えてしまったような。さすが、魔獣と魔女のいる国だな、と申し訳ないけど、と思った。


『ヴァイサルの国って羊だったよね。興味あって、話聞かせてくれると嬉しいんだけど? あ、時間あるかな?』

しかし、ヴァイサルに向かう目は、偽りなく優しかったのは確かだ。

『ちっ、同胞が……』

奴はヴァイサルに顎をしゃくっただけで、その目は、悔しさと憎しみに汚れて見えた。


 そして、ルディは『あいつ、意外と賢いね。敵わないって瞬時に判断できるんだ。まぁ、うちとあいつの領地だったら、確実にうちが負けるけど』と静かに笑った後、ヴァイサルの腕を引き、歩き出した。


『あいつは色々剥奪されるかもだけど、一家離散くらいかな。リディアスのアサカナ王は端々の国民の生活も気になさっているから、そこに住む人たちの生活は奪われない。リディアスにとっては小さな取引先が一つなくなったくらいだね。だからこそ、君は誰よりも充分に強い。今はそれで充分だと思う。でも、殴られる必要なんてない』そう言った後、ヴァイサルをモーリシャスに紹介した。


『彼ね、サダラム第五王子のヴァイサル。きっと、モーリシャスも気に入るよ』


 話なんてしたこともなかったのに、ルディは、ヴァイサルのことをちゃんと知っていた。だから、力を付けなければならないとヴァイサルは思ったのだ。彼が『今は』と言っていたから。


「本当に感謝してるんだ。だから、息子が入学したって聞いてさ、独りだって噂がね。ルディって、生きてるだけで噂が絶えない子だったでしょう? まぁ、ルディはどんな噂も気にしなかったけど、それが全部彼に降りかかってやしないかって思ってさ。初めは、城内ですれ違ったりしないかなぁ、とも思ったんだけど、当たり前だけど、生活圏が全然違うんだよね、僕と彼。モーリーなら手が届くんじゃないかなって」


「受け持ちが全く違うんだよな……」

モーリシャスはどちらかと言えば天文学なのだ。だけど、ルディの息子は今のところ歴史学を学ぼうとしている。

「過去に興味があるみたいでさ」


「そっか、でも何かに興味があれば大丈夫かなぁ、ルディの息子だし。名前はなんていうの?」

ヴァイサルが少し残念そうに尋ねる。しかし、モーリシャスは、彼の噂を聞きながら、ルディとは違うと思っている。


「ルカだ」

「ルカ……へぇ、初代夫人の名前かぁ。大いに期待されてるんだ」

「だと思うのだけどね……」


そう言って、モーリシャスは繊細なカップの持ち手を、慎重に持ち上げた。それに合わせるようにして、ヴァイサルも優雅にお茶を啜る。やはり、王族。作業着なのに、作業着が誂えられた礼服にすら見えてくる。そんな彼を見ながらモーリシャスが、一息吐いて呟いた。


「ただ……、無理しているように見えて仕方がない」

「そっか」

自分たちが小さい頃と違い、最近の生徒は大人しいものだ。だから、暴力的なことは心配していない。妬みや無視、自慢などがあるくらいである。しかし、ルカはその辺りがなくても、いつも窮屈そうに自分の中に収まろうとするのだ。


「友達も作ろうとしてないようだから」

ルディに限って、ルカにプレッシャーを与えてきたとは思えない。それに、ルカは寮ではなく、リディアス城の一間で生活しているのだ。だから、余計にいじめられることはない。

 反面、より近寄りがたい存在になっているのは確かだ。

 しかし、ルディが、彼を寮ではなく城内で生活させることにも、必ず理由があるはずだ。


「過去……かぁ。僕さぁ、図書宮殿の司書長と知り合いなんだ。別に最初の三年間なんて、学内で友達を作らなくても、楽しいことを見つけられればいいよね。声かけとくから、そっちも声かけててあげてよ。一般以上の図書に触れられるから、過去もよく分かると思うよ」

「声はかけとくよ」

ルディはよく笑っていた。ルカも、笑えるようになれば、とモーリシャスも思う。


「あ、そうだ、ここのシフォンケーキが美味しいんだ。食べる? お茶もおかわりもらった方が良いね」

そう言いながら、ヴァイサルは既に給仕に合図を送るベルを鳴らしていた。そういうところは、ルディも変わらない。


 まったく、王族って何でこんなに自分勝手なんだろうな。


 そう思いながらも、モーリシャスは、ルディのこともヴァイサルのことも気に入っているのだ。


「ルディの学友」【了】

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