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あの薔薇が咲き乱れる頃には  作者: 瑞月風花
太陽を生み出し、呑み込む場所

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とくべつな日…2


 グレーシアは砂浜でヤドカリを見つけて、じーっと見つめていた。

 変なのみっけ。

 つつくと貝殻の中に顔を隠してしまう。でも、じっとしていると、もぞもぞと足が出てきて歩き出す。


「それは、やどかり」

影が二つ増えて、ヤドカリがまた引っ込んだ。声のする方に、シアが見上げるとタンジーがいた。


「シアは、そういうの好きだよね」

「シアさまは、ヤドカリが好きなの?」

シアは黙ってタンジーを見つめ、ゆっくりと頭に付けてもらった白いリボンに手を持って行く。

「シアはぁ、おリボンがすきなの。あとねー、おはなっ」


 グレーシアは小さな生き物をよく見て楽しんでいる。だけど、何が好きかと問われると、リボンにお花と答える女の子だった。


「おリボンって、それ?」

「みんなといっしょですの」

「いっしょなんだ」

ルカはそんな小さな二人の会話を聞きながら、面白いなと思っていた。


 どんどんずれていく会話なのに、気にしないところとか。互いに聞きたいこと、答えたいことは譲らないところとか。

 ただ、いいなと思う。

 そして、確かに、そのリボンは祖母のセシルがルカとグレーシア、両親にとくれたものだ。


 家族を結ぶリボンだそうだ。グレーシアが生まれた時に、ルカももらい、小さい頃はネクタイにしていたが、今は留学用の鞄の中に押し込まれてしまっている。

 ルカと家族の時間はあと一日で終わる。


「おもしろいのですよ。ほら、しーってしてると、でてくるのです」

 グレーシアはじっとヤドカリの巻き貝を見つめたまま、タンジーとルカに教えた。

 今、ルカとグレーシアとタンジーはタミルの実家の別宅というところに来ていた。家が二つもあるなんて、すごいな、と思っていると、まだあるらしい。ここは海辺の屋敷という名前で、家督を継いでいるタミルの弟ハミルトンが気に入っている別宅の一つらしい。


「あの椰子の木からあっちの椰子の木は、敷地内だから、好きに遊んでよろしいですよ」

とタミルに言われているが、ルカは小さな二人を見守るお目付役のような存在になっていた。


 大人達は同じ敷地内にあるお屋敷でお茶を楽しみ始めて、難しい話をしている。多分、海の外へ行く話。一昨日前に乗った列車の中で、ルディが初めてルカに伝えた話だ。きっとそのことを含めて話している。


「あのね、ルカ、父さまは明後日から一年間、海の外の国に行くことになったんだ。だから、本当はルカにはディアトーラに残ってもらいたかったんだけど、そういうわけにもいかないしね。でも、父さまよりも近くにいる。だから、家族を頼むよ」と。


 驚いた。しかし、ルタとルディが海の外の国の話をしていたり、ルディがどこの国の言葉か分からない言葉を、一生懸命覚えていたりしていたのを思い出し、「あぁ、そうだったんだ」と納得もできた。


 だから、家族を託されたルカは、家族を危険から護ることの第一歩として、彼らを見守っているのだ。

 だけど、波の音と粘り気を含む潮風くらいしか、ここにはない。


「こわくないの?」

タンジーがグレーシアの前にしゃがみ込んで尋ねた。


 ずっと一緒にいるだけなのに、この二人はすっかり馴染んでいる。

 すごいな、とルカは思った。


「タンジー様は怖いの?」

慌てて頭を振ったタンジーは、続けた。

「だって、おんなの子は、みんな、こんなのこわがってるよ」

「確かに、怖がる子は多いかもね」


 ルカは同級生を思い出しながら、タンジーに同意する。そして、一生懸命、ヤドカリが出てくるのを待っているグレーシアを見ながら、微笑んだ。


「シアは、特別なんだ、きっと」


 あのふたりの子どもだもの。

 僕には届かない、特別。


「とくべ……あ、でてきた」

タンジーがルカの言葉を復唱し終わる前に、もぞもぞと、ヤドカリが慎重に顔を出したのだ。

 ヤドカリが、慌てて走り出すと、グレーシアがそのヤドカリを砂と一緒にそっと掬い上げて、見せた。


「みてっ、おててにのったっ」

「すごいね、シアさま」


褒められて嬉しそうなグレーシアが、ふふふと笑った。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 縁とは不思議なもので、それが幼い子供であっても生涯を左右する出会いを経験させてくれるものです。 勿論、今の彼らにそこまでの事を慮る事はできないでしょうが、こうして出逢いの物語を目にするたび…
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