文学少女は悪戯に微笑む
筆が乗ってしまいました。
現在時刻は3時過ぎ。今日も朝から仕事です。
「聞いて欲しい事があるの」
「お?どしたん?」
夕暮れの差し込む放課後の教室。
そこで日直日誌を仕上げていた俺は、もう一人の日直当番である幼馴染の声に耳を傾け、
「今から約1000文字以内にこの世界が崩壊するとして、貴方は誰に何を伝えたい?」
「なんだその妙に具体的な謎の設定は!?」
そしてそのままツッコミを入れた。
思わず書きかけの日誌から顔を上げると、こちらを見つめる幼馴染の姿。
きっちりと結われた黒髪に、切り揃えられた前髪。いかにも文学少女然とした姿の彼女の目元は、珍しく眼鏡を外した状態で不機嫌に眇められていた。
「何よ、よくある例え話でしょ?」
「例え話自体はよくある内容だけど、設定がおかしくないか!?どこでカウントしてるんだそれ!」
「そう言ってる間に残りは約650文字ね」
「静かになるまでの時間を計る校長かよ!」
「ちなみにモノローグも全てカウント対象よ」
「いやモノローグって何だよ!?」
思わず日誌そっちのけで聞いてみるが、目の前の文学少女は何も言わずにただ笑ってこちらを見つめるばかり。
これは答えないとダメそうだ、と長年のカンで察した俺は真剣に考えてみる事にした。
伝えたい事、言いたい事か。とりあえず家族や友達にはありがとうとか、ありきたりな事は言うだろう。
あとは、
「例えば、私には何か伝えたい事とかないの?」
見透かされたようなタイミングで言われて、俺は少しドキッとした。
……本人を前に言う事はできないが、実は俺は長年この文学少女に片想いしている。
なので世界崩壊の直前となれば、正直彼女に告白をしているだろうなぁとは思う。思うのだが。
『正直、この平和な状態で告白紛いの事を言うのはキツすぎる!!』
心の中で散々悩んだ末、俺は無難に『来世で会おうぜ』というメッセージを選んで彼女に伝えた。
それを聞いた彼女は少しの間考え込んだ後――こちらを見てニンマリとした笑みを見せ、同時に俺の背中には何か寒いものが走ったのだった。
――当然だが、この後も俺たちの生活は崩壊する事もなくそのまま続いた。そりゃそうだ、俺たちは生きているのだから。
だから、そのネタバラシをされたのは俺たちが大人になり、彼女と夫婦になってからさらに数年後の事となる。
彼女が、裸眼の時のみ相手の声が『見える』事も。
あの時俺の気持ちが知りたくて、あえてあんな問答をした事も。
驚く俺にそっと打ち明けた彼女は、あの時と同じように悪戯っぽく笑ったのだった。
1000文字以内の縛りは難しいですね……。
お読み頂きありがとうございました。