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オークの大王: ローマ式歩兵で世界を統一する  作者: リチャード江藤
第二章 大王の生い立ち
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9)ヘルベ歴248年 2月11日 ホサンスの生い立ち

 中年の書記官であるカシヴェラヌスが語り始める。


 今や大王と呼ばれるホサンスは大陸東南の紅山山脈の中腹にあるゴブロイ湖の畔にある小さな町に生まれた。この町はカプロス町と言い人口は千人くらいである。そしてこの地域はヘルベ地方といい、ゴブロイ湖が最大の湖ではあるが他にも湖や川は無数にあり、この水辺に多くのヘルベの人達は住んでいる。


 ヘルベの各町には小さくても必ず壁があり、壁は最低でも八歩くらいの高さがある。なので各町は独立した存在であり小競り合いは絶えなかった。何しろなにか問題が起きたら町ぐるみで武器を持って隣町まで行って要求を伝えるわけだ。ここの若い男達が農閑期の暇な時に傭兵という職業を選ぶのもある意味、必然であったであろう。


 ホサンスの父であるブレノスは有能な傭兵隊長であり、当時ではそこそこ有名であったヘルベ千人隊を率いていた。このヘルベ千人隊はヘルベだけでは飽き足らず、アキオン河を下ったサルべ地方にも進出し、そこでブレノスは暴れ回り、九枚の花弁の雪草の旗は広く知れ渡った。そして、ホサンスが四歳の時、ヘルベ歴233年に父に連れられて戦を見に行ったのがホサンスの始めての軍事経験であった。


 このころにはホサンスの兄弟たちも全て生まれていた。双子の兄はオンシィ。彼らの名はヘルベ訛りで、ホサンスが守る者、オンシィが攻める者という意味である。この下に双子の姉弟、シャアとシュキアがいる。


「うん? なぜ笑うのだノックス殿?」


「あ、すみません、ただシャアの名前がどこかで聞いたことのある名前なので」


「シャアはヘルベ訛りで槍と言う意味でシュキアは盾という意味だぞ」


「あー、私の村にもクライブとシュキーアってのがいます」


「それはアペルドナルの訛りで剣と盾か」


「そうですね。あれ、お姉さんが『槍』なんですか?」


「ああ、そうだ」


「女の赤ちゃんには好戦的な名前ですね」


「ヘルベの連中は好戦的な連中だ」


「ハハハ」


「まあ、やつらに言わせると尚武の民ってことらしい」


「へ? 勝負?」


「尚武、武をたっとぶってことだな。我らサルべの民から見たらただの略奪好きの蛮族だ。それよりも話を戻すぞ」


 そしてその下の三つ子がクリーニャとルクタンとゴルミョ。彼らの名前は英雄伝に出る王様の三人の息子達の名前から来ている。


 戦場を見て帰ってきたホサンスとオンシィは二人そろって父親みたく傭兵になると息巻いて軍事訓練に精をだした。オンシィは槍の扱いが上手く個人の武勇では同年代に並ぶものは無く、いずれは父親のあとを継ぐものだと思われていた。ホサンスは個人的な訓練よりも面白いことに駒を並べて軍事の遊びをすることを思いつき、長槍隊、軽装兵、弓兵などをかたどった駒たちを作った。そして地面に升目を作って大きな盤上にして、さらにその盤上に岩や林に見立てたものを置き兄弟たちと将棋をするように遊んだという。


「この話は兄弟たちに確認したから間違ってはいないと思う。それに昔作ったという駒も見せてもらった」


「ここにあるんですか?」


「いや、それはヘルベにある。子供のおもちゃをここまで持ってくるほどの余裕は無かったな。でも幼少期の遊びが今の戦に結びついているのだから恐ろしい」


「でも、遊びは遊びですよね」


「駒を五十個ほど同時に動かして、そのあと相手も五十個ほど動かして、もし駒同士の接触があったら、サイコロを振って勝敗を決めるのだ。あれはただの遊びではないな。おそらく百人長を経験した者ならあの遊びの本質が一軍の将になるためのものだとすぐわかるだろうよ」


 そして、その次の年に父のブレノスは戦闘であっけなく死んだ。ヘルベ千人隊もまとまりが無くなり、自然と数が減り、通常の傭兵団の規模の四百人に落ち着いた。それでもサルべで暴れることのおいしさを知った連中は毎年サルべに来て、サルべの戦争に加担した。サルべもサルべでこれでまとまりが全くつかなくなり、サルベでの争いは一層ひどくなった。


 ブレノス亡き後に新しく傭兵団長になったのがブレノスの部下のアキオリウスだ。オンシィは傭兵になりたいと思っていたので、父の死後の一年後、六歳の成人とともにアキオリウスの傭兵団に入った。アペルドナル王国やセノーネ王国での成人は七歳だが、ヘルベでは六歳で成人だ。


 ホサンスはそのころには傭兵団にはそこまで興味はなかったのか、シャアとルクタンを連れてよく馬に乗っていた。


「傭兵にならなかったのですか?」


「父が死んで、母と兄弟たちの家計を支えるのに必死であったのであろう。ブレノスは傭兵隊長であったので資産はそこそこあったはずだから何もしなくても二年くらいは持ったとは思うが遺産を全部食い潰すわけにもいかないだろう。ホサンス様に聞いても、あのときはいつも畑を耕していて、馬を使ったり、乗ったりしてたとよく言っておった。あと近隣の町の敷地に忍びこんで馬や牛を盗もうとしてたとも言ってた」


「盗みですか」


「だから蛮族だと言ったであろう」


「成功したんですか?」


「はて、そういえば成功したとは聞いてないな。行って帰ったとしか聞いてないような気がする。ノックス殿、ちょっと待って下され」


 とヴェラは部屋の本棚にある綴じられた本を出してペラペラと紙をめくり、何かを確認しようとしていた。


「ここだな。そうだ、俺たちが聞いた話ではホサンス様は成功してなかったようだな」


「へー」


「あの辺の町は全て高い壁に囲まれている。だから夜に行っても、もし馬や牛が町の中にいるのなら盗むのは無理だろう。という事は、昼に牛飼いなどの目をかいくぐって盗むか、はては牛飼いを殺して奪うしかないから、失敗してたとしても不思議ではないな」


 オンシィの傭兵としての稼ぎとブレノスの残した土地を丁寧に耕したホサンスのおかげで兄弟も全員無事成人できた。ホサンスの転機はヘルベ歴237年初頭、ホサンスが八歳になる前の時に起きた。兄のオンシィが捕虜になり、無抵抗だったにもかかわらず殺されたのだ。


「だがこの話はこれだけでも長くなるから今日はここまでにしよう」


 そしてノックスとヴェラは明日この話の続きをすることを約束し、ノックスは書記官室を退出した。この日ノックスは王子宮の客室で一泊した。


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