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オークの大王: ローマ式歩兵で世界を統一する  作者: リチャード江藤
第一章 大王の誕生
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5)ヘルベ歴248年 2月1日 王子の宮殿

 朝の会合が終わったあとホサンスの軍は午後には整然と王子港に入城した。大通りを通り、まっすぐに王子宮に向かう。王子港周辺の王族はすでにアペルに集まっていたので、ここは現在主のいない宮殿である。


 そして軍のほぼ先頭を馬上で行くホサンスとゴルミョ。


「アペルでは宿屋でしたから、今度は楽しみですね兄上」


「まあな、だいたいなんでこんなに旧支配層を優遇せにゃならんのだ。たまに一掃したくなる連中もいるし」


「まあこれまでのやり方は間違ってなかったんですから、今さら変更するのも」


「そうだな」


 と過去を少し思いだした兄弟は静かになった。


 王子宮にてまた市長に迎えられたホサンスたちは執務室に向かい早速統治方針を制作し、発表した。これはもうすでに何度もやっているのである意味「通常業務」と化している。大将軍、いや、現在大王となったホサンスの大陸同盟に参加し、統一事業に協力する。が、そのかわりに現地の政権は基本変わらず現統治者はホサンスに忠誠を誓った後そのまま残る。この二つが大方針になり、基本的には寛容を持って臨むのがこの統一事業がここまで早く進んだ秘訣でもあったと言える。


 当然この誓いに背いた場合は厳罰や処刑などが待っている。そしてホサンスの意を各地で浸透させるためヘルベやサルべの文官や大陸軍の兵士は各都市に何百名かずつ残してある。野戦でほぼ無敵だったホサンスの軍が徐々に減っていったのはこれらの占領政策に人員を削られたことにもよる。


 ここ王子港では当然食料とお金の提供が統一事業に対する協力として明記される。そして、ホサンスの目論見通りここには籠城用の食料も含めると余剰はかなりあり、三万四千の軍勢なら余裕で半年近くは暮らせるだけあった。


「でも兄上がすんなり王になるとは思わなかったですね」


 豪華な執務室で粗末な木の椅子に座るホサンスに対して、ゆったりとしたフカフカのソファに座るゴルミョが言う。


「正直こうなるだろうとは前々から覚悟してたからな。まさか大陸全土で俺たちの町でやってたみたいなやりかたは無理だろ」


 と書類仕事をしながらホサンスが答える。


「まあ、全員が一か所に集まって、議題を提案して、討論して、決議を取って、行動ってのは無理ですね」


「大体俺たちの小さな町でも決定に延々と時間がかかったしな」


 相変わらず下を向いたまま書類仕事をこなしながら喋っている。


「でも大将軍のままここまで来たからこのまま大将軍で行くのかと思いましたよ」


「というか軍事決定権だけでここまでこれたのが不思議なくらいだ。まあ政治的統治をしなかったのが大きかったのか」


「で、なんでそのヘンな木の椅子を持って来たんですか?」


 とここでホサンスが顔を上げる。


「ああ、これはスアドリに言わせると俺の玉座らしい」


「また嫌味ですか」


「まあ嫌味でも言ってないとやり切れないだろうし、別にいい」


「俺たちだって、姉貴を殺されてんだ、アイツもいい加減に水に流せや」


 ここでゴルミョがあからさまに不機嫌になった。


「まあ、それはいい」


 ホサンスにとって本当にそれはもういいのか手を振っただけで何も言わなくなった。


「失礼します」


「なんだ」


 引き戸ではないドアの外から声があり、返事がしてからドアの蝶番が開き、補給官のダゴマロスが部屋に入る。ちょっと驚き、こんどは笑みを浮かべて。


「はい、面白いものを発見したので報告に来ました」


「ダゴマロスか、なんだ」


 相変わらずソファに座っているゴルミョがダゴマロスに聞くがそれを補給官は無視して書類をホサンスに提出する。


「この目録を見てください」


「もう食料の問題は聞きたくないぞ」


「いえ、それではなくてですね、この目録です」


 とホサンスがいやそうな顔をしながらもその目録を手に取り目を通す。


「だからこれはコメは何袋とか書いてあるだけじゃないか」


 と書類を机の上に放り投げるが。


「いえ、そうではなくてですね、この数字です」


 その数字にダゴマロスが指を載せる。


「あ」


「なんだ、なんだ」


 そのやりとりが全然見えないゴルミョがしびれを切らしたのか、立って机による。そのときふと思い出したようにダゴマロスがゴルミョに聞く。


「それにしてもなんでこの部屋はエルギカ風の作りになっているんですか?」


「そんなの俺が知るか、兄上も最初見たときは驚いたよ。で、その目録がどうしたんだ?」


「見てみろ」


 ホサンスが書類をゴルミョに手渡す。


「ただの目録じゃないですか」


「いや数字を見ろ」


「だから374038袋と、あ」


 とここでゴルミョも気付く。書類にはアラビア数字で目録が記されてあった。


「そうだ。よく気が付いたなダゴマロス」


「私も普段から使っているので最初は気が付きませんでした。ですが王都ではこの数字を見なかったことを思い出し、これはここで何かあったのかなと思い調査し、その結果の報告に来ました」


「報告」


 ここでダゴマロスが背を正し答える。


「は、王子港の商人たちの間でここ数年で普及したものと聞きました。そして彼らが言うにはこの数字はこの近くのセージ村で開発されたと」


「はあ? 俺たちの数字を真似ただけじゃないのか?」


 ゴルミョが信じられないという風に聞く。


「いえセージ村は辺境の村で流通拠点ではありません。ありませんが、どうも不思議なことにセージ酒なるものやここに持って来ましたロウ板なるものもそこで開発されたと聞きました」


 とカバンからロウ板を取り出し、ホサンスに手渡す。このロウ板を開いたホサンスは中にある鉄筆とロウに書かれた文字を見て。


「これは便利だ」


 そして、それをゴルミョに渡す。


「ロウに書くのか。これは俺たちみたいな貧乏町出身にはピッタリだな」


「で、セージ酒とはなんだ?」


「こっちで普通に飲まれているお酒は我々の飲むようなお酒とちょっと似ていてシュワシュワがありますが、セージ酒はそれに加工してアドアカムとかで飲む赤いお酒みたいなものです」


「なんだそりゃ」


 さすがにこれではわかりにくいのかゴルミョが不思議がる。


「ま、飲まないとわからんな。で、そのセージ村はどこにあるんだ」


「はい、ここから北東に約百里くらいだと。あと村には小さな船つき場があるらしく、小型船なら一日で行けます」


 とここまでの報告を聞いたゴルミョとホサンスは同時に。


「「俺が行く」」


 と言ってちょっとした言い争いがあった。最終的にはゴルミョがセージ村に行きホサンスは王子宮でダゴマロスと仲良く書類仕事を続けることになった。


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