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オークの大王: ローマ式歩兵で世界を統一する  作者: リチャード江藤
第三章 大陸東部の覇者
24/42

24)ヘルベ歴248年 4月6日 エルギカ連盟の終わり

「そうかみんなお昼を食べなかったか」


「ちょっと食べられる雰囲気ではなかったですね」


「済まなかったな」


「いや、どうせ妻もサヒットも食べられなかったのですから別にいいですよ」


「じゃあ、午後の語りを少しして、今日も早めに船を止めて河岸で一泊しよう。なぜかわからないが風も急に吹かなくなったしな」


「そうですね、では皆を呼んできます」


 ベリサマ湖での戦いのあとホサンスの軍はアドアカムまで着いた。ただこの都市の包囲は無理である。なぜなら湖を支配しているのはいまだエルギカ連盟であり、この湖からこの都市は補給を受けることが出来る。それでもシュキアはアドアカムを半分囲むように塹壕を掘った。兵達がこの塹壕を掘っているときにホサンスはブライアンの遺体を引きずりながら単騎でアドアカムの壁の前にまで来た。


「このときホサンス様はシャア様を殺した弓兵を差し出せと叫んだ。さすれば俺の怒りも収まると言って。そして壁の前を馬で駆け、何か所か立ち止まりながら同じことを繰り返し言った。が、当然エルギカ側からはなんの返事も無かった。もっとも途中で後ろで引きずられているのが鎧を付けたままの亡き王太子だと気付いたようで返事は無かったが大騒ぎにはなった」


「そりゃ大騒ぎになるだろ。敵の総大将が城の前で一人でうろうろしてるし、自分とこの王太子の遺体がそんな目にあってたら」


「ちょっと怖いな」


 サヒットとノックスが言う。


「でもこの場合は弩を射った弓兵を差し出せは良かったのか?」


「何言ってんだサヒット、そんなの殺されるとわかっているのに正直に名乗り出るやついないだろ。それに前の会戦で逃げてる途中ですでに死んでたらどうするんだ。関係ないやつを引っ張り出したとしても、そいつが死ぬ間際に『俺はやってない』とか言い出したら火に油を注ぐようなもんだぞ」


「それもそうか」


「ホサンス様の怒りは当然静まらず、自陣に帰ったあとはその日は一日自分の天幕に籠っていた。怖くて俺もその時はホサンス様のそばにはいなかったな。その晩、ホサンス様の天幕に一人の老人が入ってきた。なんでも『ホサンス大将軍はいずこ』と大きな声で聞きながら堂々とたった一人で歩いてきたのでホサンスの知り合いが来たのかと誰もが思ったらしい」


「誰だ?」


「エルギカ連盟の王だ」


「うそぉ!」


「本当だボウア殿。彼はホサンス様の天幕に入り、ろうそくに照らされ床几に腰かけているホサンス様を見ると一礼し、自分はエルギカ連盟の王トランだと自己紹介した。あとでホサンス様に聞いたがその時は信じられない、何かの冗談かと思ったらしい。が、そのあとトラン王がホサンス様の足元に跪き懇願した。俺が聞いた限りではこう言ったそうだ」


『ホサンス大将軍。私には娘が一人、息子が六人いました。娘はお産で孫ともども亡くなり、長男は豹人族との戦争で戦死し、二人の息子も病で失いました。この前まで生きていたのは一番下の三子たちでした。しかし、彼らも全員将軍との戦で亡くなりました。このおいぼれの親としての頼みを聞いて下され。我が息子ブライアンの遺体を引き渡してもらいたい。武人として戦場で死ぬのは運命でしょう。が、親として息子の葬式をしてあげたいのです』


「これを聞いたホサンス様は絶句した。その時は何も言えなかったそうだ。が、しばらくして従卒を呼びトラン王をアドアカムまでブライアンの遺体とともに届けたそうだ。この時からだな、ホサンス様は兵達の前であまり軽口を叩かなくなった」


「娘が一人に息子が六人って、ホサンス様の兄弟と一緒じゃないですか」


「そうなのかノックス?」


「ああ、ノックス殿の言う通りだ。世の中は不思議なものだ。まさか王太子ブライアンがクリーニャ様と同じ立ち位置の子とはな」


「なんか本当にこの戦争必要だったの?」


「ボウア殿、俺にはわからない。ホサンス様もそういうことを色々と考えたのだろう」


「なんて言っていいのかわからない」


「無理やりなんか言う必要はないよテメシス」


「そしてこのあとアドアカムで『ゾウ乗り』ブライアンの葬式があり、同時に城外では『馬乗り』シャア様の葬式があり、両者ともに三日間喪に服した」


「エルギカの王家と大王の一家か」


 サヒットも感慨深げに言う。


「喪が明けたら、アドアカムからは新たに六万の軍がひときわ大きなゾウの旗を持って打って出てきた」


「えっ!」


「驚くのも無理はない、ホサンス様も驚いたし、そのあとさらに驚いたのは出てきた兵達はほぼ全員老兵だったと言うことだ」


「うわあ」


「その大きな旗ってことはタラン王に率いられてたのですか?」


「そうだノックス殿。タラン王は赤いマントを羽織って戦車に乗り、全軍の先頭に立って進んできた。そしてこのアドアカムでの決戦でエルギカ連盟は終わった。ホサンス様の軍はまたも大勝し、トラン王は捕らえられた」


 そして捕らえられたトラン王はエルギカ連盟最後の王として、エルギカ連盟をホサンスの大同盟に参加させることを確約し、血判署名した。そしてトラン王の後継ぎとしてはもはや弟のスアドリしかいないので、スアドリにはすでに負けたらホサンスに仕えるように言ってあると。またスアドリは男色家なので、子供がいない。なので、彼の世代でエルギカ王家は絶えると。


「こうしてエルギカ連盟はホサンス様の大同盟に組み込まれ、名称も大同盟から大陸同盟に替えることでエルギカ連盟はヘルベ歴242年13月3日に発展解消と言う形で消えた」


「トラン王は?」


「彼は全てを見届けたあと自決した」


「うわあ、王族に生まれなくてよかった」


「サヒット殿、ここまで潔い王族は俺の知る限りエルギカ連盟の王族だけだ。彼の遺体は息子の隣に丁寧に埋葬した。その時にホサンス様が言った言葉を俺は覚えている。『この大陸で一番勇敢なのはトラン王、あなただ。猪人同士の戦を止めよとの遺言、俺が叶える』と。今ではエルギカ最後の王太子、悲劇の王トランと三人の息子たち、とかそういう感じでこの話は大陸東部に広まっている」


「これ悲しい話ね」


「でも、トラン王が来てくれたおかげでホサンス様は立ち直れた。ホサンス様の書記官として俺はトラン王に感謝している」


「だいたいトラン王の親が悪い、主神のタラン様にあやかって名前を付けたのかもしれないが恐れ多すぎる」


「うーん、わからん。まあお前の言いたいことも理解できるがな。俺も親父が妹たちの名前をモリガン様にあやかってつけようと言ったのを必死に阻止したからな」


「あのときは大変だったわね」


「テメシスちゃんはテメス河の女神様にあやかって名付けてもらったのかい?」


「そうよ、だから私の妹の名前はセヴリナよ」


「ああ、だからリナなのか」


「次いでに言うと叔母さんたちの名前はセカナとアンカムナよ~」


「おお、全員双子の姉妹の河の女神様たちか」


「まあ、ウチは乾季が厳しいですから」


「なるほど、ノックス殿の願いもわかるな」


 とこのあとは戦の話を一旦止めて、代わりに家族の話とかをして過ごした。そして夕方には予定通りセヴル河の河岸で船を泊め、盛大な晩御飯を食べてから陸で一泊した。



これで第三章は終わりです。次章からは大陸西部での話とその後は大陸会議の話になります。

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