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オークの大王: ローマ式歩兵で世界を統一する  作者: リチャード江藤
第二章 大王の生い立ち
16/42

16)ヘルベ歴248年 2月27日 妹の願いと母の願いに傭兵としての立場

『お兄ちゃん、私もお父さんみたいに傭兵になりたい』


『何を言ってるんだ、お前は奇麗なお嫁さんになるんだ』


『兄さん、私もお父さんみたいな傭兵になる』


『親父が死んでこんな忙しい時に何言ってる。傭兵になるのはオンシィだけで、お前も俺と一緒に母さんやみんなのために働かないといかんぞ。そうだな、馬の世話でもしてくれ』


『兄さん、馬に乗れるようになったから私も伝令兵でもなんでもなってオンシィ兄さんの敵を討ちたい』


『だめだ、あんな鎧無しの危険な仕事をさせるわけにはいかない。馬が鎧付きの兵に堪えられるようにでもならきゃだめだ』


『兄さん、鎧を着けて馬に乗れるようになったわよ。もう何を言っても無駄よ。私は傭兵になるわ』


『……』


「と言う会話が何年にも渡ってシャア様とホサンス様の間にあったと私は本人から直接聞いているわ」


 朝ご飯を食べたノックスはまた書記官室の板敷きの間にいる。そして今朝はインデゥチオマから話を聞いている。


 ホサンスは可愛がっていた妹を戦場に出さないために難題を長年言っていたが、その妹は幼少のころから父に憧れ、ついに長時間鎧を付けて馬に乗ると言う課題をこなして傭兵になった。


「長時間に渡って馬に乗ることは可能なのでしょうか? 馬が潰れませんか?」


「そこを解決したからスゴイのよ。背も高い彼女が鎧を付けて馬に乗るのよ。滅茶苦茶かっこよかったわよ。ただの元気な黒髪の美人では無いわ。従来の鞍は乗る人の事しか考えてなかったのよ。だから人の都合のために乗りやすいようになっていたんだけど、シャア様とルクタン様は馬が大好きだったから、馬のことを考えた鞍を考案したのよ」


 つまり馬の背中の一か所に体重がかかるから馬もつぶれるわけで、馬の背中のなるべく広い範囲に体重を分散して乗ることが出来れば馬もつぶれないということであった。


 当然ながら娘から傭兵になるという話を聞いた母は猛反対した。


「私の聞いた話では泣いて辞めてくれって頼んだそうよ。戦はすでに夫と長男を奪い、そしてこんどは生き残った子供達が全員傭兵になるなんて耐えられないって言ったそうよ」


 ノックスもこの気持ちはわかるのか何も言わず、静かにお茶を飲む。


「でもみんなやりたいことしかできないものね。最後にはルクタン様まで兵になるって言ったわけだし。でも彼は本当になりたかったのかちょっとわからないわ」


「なぜそう思うのです?」


「彼の場合は馬の世話とか馬の話をしている時のほうが楽しそうだったからね。シャア様は違うわ。あの人、初陣の後なんて言ったと思う?」


「さあ?」


「『こんな楽しいことをずっと私に内緒にしてた兄さんはズルイ!』よ。ホサンス様は戦で人が死ぬんだから、こんなことを楽しんだらダメだ、とシャア様には言ったけど、私、本当はホサンス様も戦争を楽しんでるとは思うのよね。まああの人達の場合は人が死ぬのを楽しむというよりも生死をかけての駆け引きを楽しんでいると思うけど」


「ヴェラさんが『好戦的な連中』って言ってました」


「まあ、否めないわね」


 で、シャアが傭兵になったころにはまたサルベ地方はきな臭くなっていた。アキオン河上流の諸都市は千人隊の武威に驚きほぼ全部同盟に加わったので、これで平和が訪れるとホサンスは当初思ったらしい。が、すぐにまたヘルベ統一と同じことが起きていることに彼は気が付いた。


「つまり、同盟に加盟した都市がアキオン河中流の都市たちとの間にあった過去の因縁を片付けようとしたってことですね?」


「そうよ。でもホサンス様は今回は出来るだけ外交的努力で片付けようと奔走したわ。色々な都市と交渉したりしてね。私もこのころにはサルベに流れてきて、さるお金持ちの子供の家庭教師をしていたからこのころの雰囲気は知っているわ。でもね、やっぱり外交だけでは解決できないこともあるのよ。だからついにボノニアの町がアンビオリの千人隊を雇って、トレリウムの町を攻めようとしたわ。当然トレリウムのほうもカランの千人隊を雇ったわ」


「あれ、ホサンス様は彼らに行くなと命令できなかったのですか? 一応将軍になったのではないのですか?」


「この当時ホサンス様の意向に従ったのは七つの千人隊だけだったの。アンビオリもカランもカウディン盆地の戦いが終わる前に戦場を離脱したからホサンス様も彼らの兵からの忠誠を受けて無かったわね」


「ということは千人隊同士の激突ですか」


「凄惨なものになったらしいわよ。両方の千人隊はほぼ壊滅。汚名返上、と必死になったお互いの兵士たちが死に物狂いで戦った結果よ。そしてその結果得をするのは雇い主だけ。傭兵が得られるのは僅かな賃金と名声だけ。この時にホサンス様は傭兵業に見切りをつけたようね」


「わかります」


「あとご母堂の声も大きかったと思うわ。これは私が直接ご母堂から聞いたわけではないのだけど、複数の人から聞いてるから確実だと思うわ。彼女は『もう私みたいな母親を作らないと約束するのなら、兄弟全員で好きなようにやれ』って」


 このあとホサンスはサルべ地方の統一に乗り出した。ヘルベ・サルべ地方の戦を無くすという大義を掲げて、ヘルベ歴240年22月に八つのヘルベの千人隊はアキオン河中流に侵攻した。こうして母の個人的な願いは公的な願いに昇華した。


 この時ルクタンは後方に残り騎兵の育成に専念し、シャアは騎兵の運用について試行錯誤を繰り返していた。そして戦争を楽しいとまで思う彼女は戦に天賦の才を発揮した。まずは騎兵による威力偵察。当たり前だが走る兵よりも馬は遥かに早く、そのため遠くの情報を得ることができるホサンスの軍はシャアの偵察だけで有利になった。次に新しい鞍とあぶみを利用することで以前の伝令兵も鎧を着用することにより彼らの死傷率がぐんと下がった。


 馬上からの攻撃でもすぐに実験の結果が出た。シャアは最初は弓や弩を射るということを考えたが、難しすぎてこれらは断念した。このあとすぐに馬上から槍を投げるということを思いつき、これは思ったよりも効果があった。馬の速度も合わさりこの投げ槍は盾や鎧を楽に貫くこともできた。なので敵の側面を突いたり背後にまで回り込んで攻撃をすると敵は一気に動揺した。これの難点は投げたあと一旦陣地に戻り新しい槍をまた取りに戻らないといけないことであった。これを避けるためにシャアは槍や剣を持って敵に肉薄することをも進言したが、それはホサンスに却下された。いずれにしても戦場に馬上の兵がいるということそのものが珍しいのでたった数名でも敵の意識はそちらに向き、それだけでも歩兵の仕事は楽になった。


 当然ながら軽い体重の人の方が馬も疲れにくいのでルクタンとシャアはなるべく若い人たちを中心に騎兵として育てていった。この騎兵は以前には無い兵科だったのでホサンスは騎兵を完全な志願制にした。もっとも馬に乗れると言うだけで裕福な家庭出身なので、必然的に騎兵はお坊ちゃんの集まりみたいになった。彼らに囲まれたシャアもまんざらでは無かったと言う。


「結婚してなかったのですか?」


「ホサンス様は若い頃に結婚して子供も一人いるけど、死にかけてから以来、家族にはほぼ会って無いって聞いてるわ。なぜかしらね。シュキア様は結婚して子供も四人いるわ。クリーニャ様とゴルミョ様は結婚してないわね。あ、シャア様は『兄上ほどではなくとも、せめて弟たちくらいな男でないと結婚する気にはなれないな』って言って結婚せずに独身のまま亡くなったわ。まあ家庭の事情はそれぞれだからね、あんまり私も聞いてはないわ」


 シャアとルクタンの努力の結果ついに戦場に戦術的規模の百人の騎兵が登場したのはアキオン河下流、いわゆるサルベ南部地方での戦闘が初めてであった。記念すべき初の騎兵の投入はピルグス郊外での戦いであり、ここで騎兵が敵の後方に現れたことにより敵は恐慌を為し、戦いとは言えないような状況になり、敵はすぐに四散した。このように22月の侵攻以降破竹の勢いでサルベ南部にまで迫ったホサンスはついにサルベ地方中心の都市、アキオン河の河口にあるサルべまで来た。そしてサルベにはこれまでの情報が伝わってきていたのか、降伏を宣言し、ここにヘルベ・サルべ地方の統一が完成した。


「これで傭兵業は無くなったとも言えるわね。同盟各都市からの食料とお金で食べていく普通の大きな国家の兵隊さんみたいになったのよ。またこの時からホサンス様は大将軍になり、ヘルベとサルベ両地域の軍事を仕切るようになったのよ。あと、ヘルベからの兵はほぼ全員歩兵になって、サルべからの兵が長槍兵になったわね。」


「それがどうして大陸統一になるのですか?」


「まあ、今度はサルベ近辺でのいざこざにまた巻き込まれたとも言えるけど、今回の本質はそれでは無いでしょうね。私が思うにこの強大な軍事力を使ってどこまでやれるかやってみたいと言うホサンス様の野心が大きいと思うわ。あと、この軍事力がヘルベ・サルべにこのまま残ってもホサンス様の死んだあとまた内紛が起こるかもしれないから、そうならないようにこの地域一帯の政治構造を変えようとも思ったんじゃないかな」


「野心ですか」


「恐らくね。大義名分は大陸統一によって猪人同士の戦争を無くす、だけどね」


「アペルドナル王国は平和だったんですけどね」


「そうらしいわね。でも私の生まれ故郷のナルボとかヘルベやサルベそしてアキタの方や母なるモドルン江流域は戦争が絶えなかったわよ。いずれにしてもこれで終わったのよ、色々と」


 インデゥは少し感慨深げに言った。


 そしてその後ノックスは昼の船でセージ村に帰った。


グーグル翻訳によると「槍」の綴りは一応 「slea」で「盾」は「sciath」になります。これらの単語を現地の人の発音を録音したサイトで聞くと「シャア」と「シュキア」に聞こえました。


これで第二章は終わりです。次章からは大陸東部での戦争の話になります。


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