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オークの大王: ローマ式歩兵で世界を統一する  作者: リチャード江藤
第二章 大王の生い立ち
14/42

14)ヘルベ歴248年 2月26日 フェルシナ滅亡

 この日書記官室にてノックスを迎えたのは赤い髪のマンデゥブラキウスであった。


「ノックス殿、いやここはカイ殿と呼ぶべきかな? インデゥからお話は聞きましたぞ」


 ちょっとおどろくノックス。


「こういう面白いお話を知っているのなら私にもいくつか聞かせて欲しいですな」


「あ、今日はお昼前には船に乗って村に帰ろうと思っていたんですが」


「ああ、それは残念ですね。ではそれまでに出来るだけホサンス様のお話を進めましょう。ヘルベ統一までの話はされたとも聞いてます。なのでサルべ以降からのお話をしましょう。あ、ちなみに私はティグリニ出身なんですよ」


「まさかヴェラさんがフェルシナ出身ってことはないでしょうね」


「ああ、大丈夫ですよ、彼はサルべのムチナ出身ですよ」


 と今朝もまた書記官室の板敷きの間にてお茶を飲みながら話を聞くノックスであった。


 マンデゥブラキウスによるとヘルベ地方の緩やかな統一は以前にもあったことがある。ただサルべ地方の諸都市がそれを嫌がるのでいつもそれを邪魔してきた。なのでティグリニの抵抗はサルべの主要都市のどれかに後押しされたものであっても不思議ではないと。あとサルベの都市は本当に都市と呼べる大きさがあり、小さいのでも三千人規模、一番大きいのはティグリニの倍以上の五万人いるサルベと言う都市。ややこしい事にサルベ地方は都市サルベの名を取ってつけられている。


 そしてサルベ地方ではヘルベみたいに物事を住民が多数決で決めるところもあれば、都市の人口が多すぎて、少数の有力者が決める寡頭制のようなところもある。この場合の有力者はお金持ちであったり、伝統的な貴族みたいなものもいる。いずれにしてもサルベもヘルベみたく統一されてはおらず、離合集散を繰り返していた。


 群雄割拠みたいな状態になっているサルベ地方では当然ながらフェルシナと敵対している都市もありホサンス達は彼らの所にまず向かうことにした。問題は出発する前にどのくらいの協力がヘルベの各都市にとって妥当なのかを決めるのに時間がかかったことだ。


 まず非常時においてはヘルベの各町は成人男子をほぼ全員徴兵することができる。だがそれをしてしまっては地元の経済が崩壊してしまう。土地を耕し、力仕事をする男を根こそぎ外征に出すわけにはいかない。なので一旦は今まで通り傭兵を出すくらいの感じで各町に協力を要請した。ところがそうすると今度は補給の問題が沸き上がった。


「どういうことなんですか?」


「恥ずかしいことですが、ヘルベの傭兵たちの糧食は今まで略奪が主だったんです。つまりヘルベ地方で小競り合いなどがあって、ある町が傭兵を雇ってたしても、彼らへの賃金は町が払っていたにせよ、食料は敵地で勝手に奪っていたというわけです。で、今回の大同盟ですから、略奪は必然的に禁止になったわけです」


「ああ」


 ノックスがお茶を飲みながら納得する。


「そこに来てシュキア様が目の病気を患いまして、前線で戦うのを辞めました。かと言っても、ホサンス様もこの場面で弟のシュキア様が兄君の敵討ちに参加しないと言うわけにもいきませんので、シュキア様が千人隊そしてその後ヘルベ全体の兵達の補給の面倒をみることになりました。これならば前線にはいなくても敵討ちには参加してますからね」


 そしてその時にホサンスが以前考案した数字をシュキアに教えそれを利用して色々と計算することになった。


 まず兵が各町から出る数を減らす。千人町からは二十人を目安にして、三千人町からは六十人までにする。これだと働き手が少なくなりすぎるということにはならない。逆に前と比べてちょっと余ったくらいになった。カプロス同盟の最初の九町から出る兵の数は三百人となると言うだけでいかに沢山の人々がそれまで傭兵業に身を投じてたかわかる。なので当然アキオリウスの千人隊も大々的に他の町からの参加者を募り、選別した。


 そしてこれら兵たちを養うために各町からは出た兵を養う分の糧食を供出させることにした。もともとは農閑期の仕事だったのがこれでほぼ通年通じて戦える常備兵に近くなった。また食料も正式に兵になればただで支給されるので、兵の賃金も前と比べて低めに抑えることになった。幸いにもヘルベ地方では湖上での輸送や川を利用しての輸送を行えたのでこれはかなり上手くいった。シュキアには思わぬ才能があった。


 これで各町の協力の度合いという問題は解決したので、今度は新しく集まった兵達の訓練に取り掛かる。ヘルベ千人隊だけが強いと、いずれは他の町の不満が爆発するのも目に見えていたので、ここでホサンスは各町に対して大同盟は対等の町同士のものであると理解させるために今までみたいに適当に傭兵団を寄せ集めるのではなく、既存の傭兵団を二つか三つ合わせて、千人隊を沢山作ることにした。なのでイベルドンのアンビオリも自前の千人隊を募り、編成した。このとき全部で十の千人隊ができた。


「全員の千人隊長の名前を知りたいですかな?」


「あ、いえ、とてもじゃないけど覚えられる気がしません」


「ははは、わかりました。重要なのはこの十の千人隊にホサンス様がアキオの千人隊から退役した人達を派遣して、訓練を統一させたことですね。これで『確かな希望』が『ヘルベ兵』となったと言えるでしょう」


 これらの千人隊は以前の傭兵隊とは違って長槍兵とヘルベ兵だけで編成され、軽装兵や弓兵は志願制になった。つまり若い男でお金も無ければ土地も無い、鎧も武器も無い、それならば千人隊の軽装兵や弓兵として志願する。給料は払われるし鎧も武器も千人隊から支給されるが、食料は自前で買わねばならないし死んだら鎧も武器も千人隊に返還される。ただし、千人隊で人員の欠員があれば優先的に千人隊に入隊できる。また略奪の機会があれば参加もできる。この軽装兵や弓兵の数は各千人隊長の裁量に任せてある。なのでアキオリウスの千人隊は以前と同じで二百人の軽装兵と二百人の弓兵がいた。


 この編成と訓練をするのに約半年、その前に準備の整った千人隊はサルべで普通に傭兵業をやっていた。またこの編成と訓練によってホサンスの影響力が強大なものになり、いつの間にか全軍のまとめ役的立場になってしまった。なにしろ各千人隊で最強のヘルベ兵を鍛えている者は全員ホサンスかその弟たちの活躍を目に見ていた者たちであって、ヘルベ兵の信頼と信奉はブレノスの息子達に向けられていた。一応この時各千人隊は各千人隊長の指揮下の下にあったが、彼らはもうホサンスの意向を無視できなくなっていた。


「そしてヘルベ歴240年17月を以って、ついに準備を整えたホサンス様は八つの千人隊を率いてサルベのフェルシナに向けて侵攻しました」


 アキオン河を下りサルベに侵攻した時にはさすがにサルベの方もこれはただの傭兵団ではないと気付き、サルべ北部の対応も真っ二つに割れた。一つはフェルシナを擁護し、ヘルベに対抗するという意思を見せる都市。彼らはこのヘルベからの侵攻を見過ごせば次は自分達の番になると危機感を持ってしまった。もう一つはこれを利用してフェルシナを叩き潰して自分達の利権の拡大を狙う都市。彼らは積極的にホサンスに協力を申し出た。この時の侵攻で中立を保とうと思った都市はほぼ無かった。


 ただし、ホサンスの軍事行動は早かった。アキオン河を下り、支流を上りフェルシナに向かったホサンスにはヴェロの町の軍勢が案内を兼ねて付き従っていただけであった。対する迎え撃つフェルシナにはプラセンの軍だけがなんとか間に合い、駆け付けていた。このため兵力差は大きく、人口約二万のフェルシナの町は総力を挙げて五千の兵を繰り出すも、訓練された兵は少なく、プラセンも約三千の兵を送ってきたが、彼らもよく訓練されているとは言えなかった。これに対するのは八つの訓練の行き届いた千人隊にヴェロの千の軍勢。


 最初は整然と進んでくる千人隊を見て籠城策を取っていたフェルシナであったが、ホサンスの軍が町の周辺の作物を刈り、町の外にある家を焼いたりしてるのを見てフェルシナ兵はついに城外に打って出た。城外の戦闘はあっけなかった。


 両軍ともまず軽装兵や弓兵が敵に槍を投擲し、弓を射る。そして長槍兵がお互いに向かって進む。この時の千人隊の方は比率が四百の長槍兵に六百のヘルベ兵なので長槍兵は全部で三千二百しかいない。これならなんとかなると思ったのであろうフェルシナとプラセンは序盤必死で抗う。そしてそこに四千八百のヘルベ兵が敵を襲う。敵の両側面を攻撃し、長槍兵がわざと開けた隙間を通って攻撃もする。これで一気にフェルシナ軍とプラセン軍は崩れ、ほぼ無傷でホサンス率いる軍の最初の外征は成功に終わった。


「かのように見えた。ヴェラはこれは失敗だと今でも言い切ってますな」


「なぜです? 話を聞いた限りでは完勝ですよ」


「このあとが不味い」


 もともとはオンシィの敵討ちから始まった戦であったので、ホサンスはかなり気が立っており兵達にもそれが伝染していた。なので戦場でフェルシナ兵が降伏を叫んでもそれを無視して殺す兵がかなり多かった。そして、フェルシナの成人男子がほぼ根こそぎ徴兵されたこの戦でその男性は半分以上死んだ。プラセンに恨みは無かったので逃げだしたプラセンの兵は追いかけず、そのまま逃げ切ったプラセン兵は多かった。


「ここまでやったら今度はフェルシナに恨まれることは確実であろう。この時千人隊長たちが集まり協議の結果フェルシナの町を破壊することに決定したと聞いておる。自分達の死後この恨みが息子や孫達に引き継がれるのを嫌がったというのがこの時の見解ですな。だが、カシヴェラヌスは兵達への報酬の意味合いでの略奪だと言っておる。まあ真相はわかりませんな。ホサンス様はこの事についてはあまり話したがらないですし」


 そして一応籠城戦では無かったので住人の奴隷化などはなかった。ただホサンスは生き残ったフェルシナの住民に対して町から財産を持てるだけ持って行ってよいと宣言したあと、次の日兵達にフェルシナの町の略奪を許した。この時にフェルシナは徹底的な略奪に合い、その後町は焼かれ、フェルシナという町は滅んだ。


「あの、お話中すみませんが、もうお昼をかなり過ぎてます」


「えっ」


「なんと」


 ノックスが絶句し、マンデゥブラキウスがうーむと唸る。


「まあ、ここは明日帰るということにして、午後また話を聞きに来たらいかがですかな?」


「はあ、そのほうがよさそうですね。では自室に戻るのでお昼を頼めますか?」


「もちろんですよ」


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