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オークの大王: ローマ式歩兵で世界を統一する  作者: リチャード江藤
第二章 大王の生い立ち
12/42

12)ヘルベ歴248年 2月25日 百人長

 クリーニャとダゴマロスに会ったノックスはそのあと大人しく客室で寝て、起きてコメの粥を食べた。そしてそのあと書記官室に出向いた。


 で、部屋に入ってすぐ。


「昨日執務室で言ってた『三顧の礼』ってなんのこと?」


「え」


「あ、自己紹介もまだだったわね、ノックスさん、私は書記官のインデゥチオマ、インデゥでいいわよ」 


 いきなり板敷きの間にすでにいるぽっちゃりとした明るい茶色の髪の書記官から尋ねられるノックスであった。


「とにかく早くこっちに来て、冷めてるけど、お茶もここにあるからあなたの話も私は少し聞きたいのよ。大王様の話はそのあとでもいいでしょ」


 と手招きされて、ノックスも草鞋を脱いで板敷きの間に上がる。


「で『三顧の礼』ってなんのこと?」


 興味津々と言う感じでインデゥが聞く。


「あー、そんなこと言ってました?」


「何とぼけているのよ、ぼそっとだけどちゃんと私には聞こえたわよ」


 するとノックスは少し考えたあとに話し出した。


「えーと、そうですね、遠い国のお話なんですけど、とある君主が絶対に欲しい素晴らしい人材を得ようとして、その人の家を三回尋ねて、その結果、その人が君主に仕えるというお話なんです」


「ほー、ではノックスさんは自分はそのように素晴らしい人材だと思っているってわけね」


 インデゥがにやにやとしながらノックスを見る。

「滅相もない。そんなことは微塵も思ってませんよ。ただ三回も呼び出されて仕えろと言われるのはその逆だなあとちょっと思っただけでして」


 ノックスが右手を顔の前で左右に振る。


「大体なんで俺がそこまで必要なのか未だにわからないんですよ」


「でも、自分のことを重要な人物と思ってなければそんな考えは浮かばないわよ」


 とインデゥに言われると、ノックスが少し静かになった。そして、その後にゆっくりとこう言った。


「その遠い国には『隗より始めよ』と言う言葉もありまして」


「ふんふん、それで」


「このお話では、ある君主に平凡な男が仕えようとして出仕するのですが、王様が『でもお前みたいに平凡なやつを雇う利点が無い』と言ったそうです」


「まあそうね」


「で、この隗が答えます、『もし私みたいな平凡な男が王様に高給で雇われるならば、私よりも優秀な人がこぞって王のもとに集うでありましょう』と、そして、事実、隗を雇ったあとには優秀な人材がその王のもとに集まったと言うお話です」


「じゃあノックスさんはどっちなのかしらね、その素晴らしい人材なのか隗なのかな」


「いやあ俺はせいぜいが隗ですよ」


「ま、大王様がノックスさんを欲しがる理由の一端が見えた気がするわ」


 そして二人は冷めたお茶を飲んだ。


「さてと大王様のお話ね。どこまで聞いたの?」


「お兄様が殺されて傭兵になったところまでですね」


「ああオンシィの死ね。あれはね~、まあ今から真実を知るのは無理ね」


 インデゥが文官にあともう一杯のお茶を頼んでからホサンスの話が始まった。


 アキオリウスの傭兵隊に入ったホサンスは率先して危険な任務を引き受けるようになり、周りからは危ない人、死にたがりとも思われていたらしい。実際に「ほのかな希望」として敵に突撃したときは死にかけるほどの重傷を負った。この「ほのかな希望」は敵の長槍隊の陣を崩すために突っ込むアペルドナルの税金兵みたいなものである。そして、死線をくぐり抜け生き残ったホサンスは十人長に選ばれ、今のヘルベ兵の原型を作り上げた。


 それが長方形の大きな盾を持ち、長槍を捨て、短剣で武装する方法だとインデゥが言う。ノックスもここまで聞いてなにか感じたことがあったのか大きく頷いて話をもっと聞きたそうにする。


 文官から淹れてもらったお茶を飲みながらインデゥは続ける。


 ホサンスはそれまでの敵に向かって槍と盾を持って遮二無二突撃するという方式をとりやめ、隊列を組んで、並べた盾と短剣で長槍をはじきながら、敵にゆっくりと肉薄する方式にした。このためホサンス指揮下の「ほのかな希望」は一気に死傷者が減り敵に恐れられる部隊になったと言う。


 幅半歩に長さ一歩の盾は重いが、全面の兵がそれを横一列に並べ、後方の兵がその盾を頭の上に掲げることで亀の甲羅のような陣形を組むことが出来、肉薄するまで誰も傷つかない。そして一旦敵の懐に入ると長槍隊は武器の長さが邪魔をして、「ほのかな希望」の敵ではなかった。逆に短剣で武装した「ほのかな希望」は敵を的確に突いたり刺したりして倒した。


 実際にこの新しい歩兵の活躍を戦場で見ているインデゥは今でもそれは信じられないと言う。


「長槍隊と長槍隊の間にわざと十歩くらいの隙間を作って、そこの隙間のちょっと後ろにヘルベ兵を配置させるのよ」


「え、なんでわざわざ隙間なんて作るんですか? 戦争って一列に並ぶものだと思ってたんですが」


「そうすれば軽装兵も弓兵もその隙間を通って後ろに逃げれるからギリギリまで敵に槍を投げたりや矢を射ることもできるし、敵の部隊もどっちかと言うとその隙間の方に集まるのよ」


 とここでノックスが納得する。


「そして、集まったところにヘルベ兵がゆっくり進んで行ってほぼ犠牲無しで敵をずたずたにしちゃうのよ。そこまで来たら両脇の長槍隊が止めを刺して終りね。初めて見た時は魔法でも見てるのかと思ったわ」


 盾の幅は約半歩でヘルベ兵は横十人、奥に九人で密集隊形を組むことが多いのでヘルベ兵の百人隊の実際の幅は七歩ぐらいしかない。でもこの幅七歩の百人隊を止めることの出来る軍はこの大陸に存在しなかった。


 この「ほのかな希望」の圧倒的能力にアキオリウスも兵達に押されてホサンスを百人長として認めた。ヘルベの各町では町の重要なことを決めるときは住人全員が意見を言ってから最終的には多数決で決める。それと同じように百人長も兵達が選ぶ。普通は戦闘経験が豊富な者がなるのだが、若きホサンスが選ばれたのは本人が率先して敵に当たり、勝つからであった。先頭に立つ指揮官は兵達からの信頼が厚い。勝つ指揮官は兵から信奉される。


 もともとは数十人の規模で、ほぼ確実に全員死ぬと言われた「ほのかな希望」はホサンスの下で百人隊になった。そしてますます威力を発揮し、ついには「確かな希望」と呼ばれるようになった。


 こうして連勝を続けた傭兵団の人気は高まり、アキオリウスの傭兵隊も四百人規模から往年のヘルベ千人隊以上の規模にまで膨らんだ。アキオリウスと彼の元同僚たちのケレトリウスとボルギオスは旧来の長槍隊を二百人ずつ、計六百人指揮し、ホサンスは彼を慕って集まった兵隊たちを「ほのかな希望」方式で訓練させ、彼の成人した弟たちつまりシュキアとクリーニャとゴルミョとで新しく編成された四つの歩兵の百人隊を率いた。かくしてホサンスは若干九歳で傭兵団の実質的な副長にまでなった。


 ヘルベでの小競り合いでもサルべでもこの傭兵団は異様に強かった。新生ヘルベ千人隊の布陣は一番左に歩兵百人を率いるシュキア、そのすぐ右に長槍隊二百人率いるケレトリウス、その隣にゴルミョの歩兵百人、そして中央にアキオリウスの長槍隊二百人、その右にクリーニャの歩兵百人、さらに右にボルギオスの長槍隊二百人、そして一番危険な右端にホサンスの歩兵百人。若年兵や鎧を持っていない者は軽装兵や弓兵としてその布陣の全面に配置される。


 この布陣だと正面から衝突してもすでに説明したように強い突破力があり、また、地形が長槍隊に不利なでこぼこでは歩兵が威力を発揮した。また敵が千人隊よりも少ない時は、長槍兵よりも機動力のある右端と左端の歩兵が相手の側面を突くことができた。


 そして連勝を重ねたのち、ついにホサンスが兄の仇を打ちたいとアキオリウスと兵達に打ち明けた。まあホサンスの入隊の動機が敵討ちなのは秘密でもなんでもなかったから、皆それはある意味予想していたらしい。


「と、この話を続けたいけど、もうお昼の時間ね。私と食堂に行く?」


「あ、できれば部屋で食事を取りたいのですがよろしいでしょうか」


「いいわよ、じゃあ今のうちにだれか呼ぶから食事を頼んでおくといいわ」


「よろしくお願いいたします」


 とノックスは昼食を頼んだあと、自室でお昼を食べたあとにまた書記官室に戻ると言い残して部屋を出ていった。


挿絵(By みてみん)

完全なローマ軍団にするには訓練された兵が足りません。

帝政時代のローマ軍団は大体三千人(半個軍団)か五千人強で運用されてたようでした。これに同盟国から参加した歩兵と騎兵が支援するという形を取ります。

ローマ軍団も各百人隊の間に少しの隙間を開けてました。市松模様みたいに互い違いにして並んでいたそうです。

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