山崎という男
「とまぁ…そんな訳だ」
俺と山崎と柚葉に関する話を一通り終わらせ、一息ついた。
今回は、沙羅さんに話したような、俺がどこまで孤立して卒業に至ったかなど心情的な部分は省略した。
そこまで話すと長くなりすぎるからな。
ちなみに俺が話をしている間、沙羅さんは俺の腕に触れながら黙って寄り添ってくれた。
もう重要な部分は皆に殆ど知られているので不安はそれほど無かったが、それでも寄り添ってくれたことで安心して話ができる心強さを感じていた。
「その柚葉って幼馴染みに最後まで強く出れなかったのは、やっぱり心どこかで憎みきれなかったってこと?」
夏海さんが疑問に思ったようで、その辺りを俺に訪ねる
「上手く説明できないです。確かに、今考えれば極端な話、警察に被害届を出すとか選択肢もあったような気がしますが、少なくとも途中までは柚葉に元に戻って欲しかった気持ちはありました。」
あいつをずっと見てきたから、歪んでしまった理由も気持ちもよくわかっていた。
だからどうしても…
「そっか、ひょっとして高梨くんその子のこと好きだった?」
「っ!?」
いきなり図星を突かれた…なんでそういうところは鋭いんだ。
速人のことは全然気付いてないのに
「やっぱね。その辺が無意識でブレーキになってたかな?」
どうだろう?
少なくとも途中からは、柚葉が許せないという気持ちはあったし。
「あ、あの、一成さん…」
沙羅さんが凄い不安そうに話しかけてきた。
多分、柚葉が好きだったという辺りのことだろう。
「大丈夫です、俺が好きなのは沙羅さんだけです。それに、俺は柚葉を…山崎と一緒に潰すと決めました。」
沙羅さんに安心して貰えるように、そして俺の決意を皆に伝える為に、俺は先程決心したことを口にした。
「潰す…ですか?」
俺の言い方が大袈裟だからか、本心を掴みかねているといった様子の沙羅さん。
夏海先輩や速人も反応に困っているようだ。
「すみません、とんでもないことを言っているとは自分でもわかってるんです。でも、俺が忘れようとしても、離れようとしても、あいつらはこうして俺に手を出してきました。
今回は俺だけだったけど、現時点で既に速人は柚葉に何かしら狙われている可能性がある。それに…もし沙羅さんに何かあれば俺は…」
俺の言いたいことをわかってくれたのか、夏海先輩や速人は頷いてくれた。沙羅さんは何か考えているようで、藤堂さんは俺をじっと見ている。
「そんなにしつこい相手であるなら、もう決着をつけるしかないんです。警察でも社会的にでも何でもいい、余計なことができないように、こちらに構うことができないくらい。」
俺だって自分が何を言っているのかわかってるつもりだ。
決して褒められた行為ではないし、こんなのは自分じゃないと話をしている今でも違和感がある。
それに自分がやろうとしていることに怖さも感じる …だからせめて、犯罪になるようなことはしない、沙羅さんに幻滅されるような…泣かせるようなことだけはしない。
俺の葛藤を感じてくれてたのか、それまで黙って聞いていた沙羅さんが、俺をそっと抱きしめてくれた。
「一成さん、私は一成さんが怖いと思うような道を無理に選んで欲しいとは思いません。ですが、その二人が今と変わらず平然と存在する場合、確かに今後も余計なことを仕出かすのは明らかでしょう。」
俺の頭をゆっくりと撫でながら、ゆっくりとした口調で丁寧に話をしてくれている。
俺はそれを大人しく聞きながら、沙羅さんの言葉の続きを待つ。
「ハッキリ言って、私は最初からその二人が許せません。一成さんに対する愚行に加えて今回のこと、そして優しい一成さんをこんなに追い込んだ二人が断じて許せません。だから一成さん…」
俺の頭を撫でていた手を離し、抱きしめてくれていた身体も少し離して、近距離で見つめあうような形になる。沙羅さんが真っ直ぐに俺の目を見る
「私は一成さんの意思に従います。私としてもその二人を野放しにすることは、今後のあなたの憂いとなることが明らかだと考えます。であれば、それを排除することに私は躊躇いなどありません。もしこれが罪だというのなら、私は喜んであなたと共に背負います」
だから怖がらずに進んで下さい…
そう沙羅さんの目が言っている気がした。
勿論してはいけないことをするつもりはないし、沙羅さんを悲しませるようなことは絶対にしないと心に固く誓う。
俺が頷くと、沙羅さんは笑顔を浮かべてもう一度俺を抱きしめた。
「まぁとどのつまり、一成さんにしたことが許せないから二人に仕返ししてやりたいでけです」
と、場の空気を和ますようにおちゃらけた口調で言うのだった。
それで話しやすい感じになったのか、夏海先輩や速人、藤堂さんも表情を崩した。
「全く、あんたらは隙あらばイチャつくんだから! でもそうだね、その二人は許せないし、一泡吹かせたいかな。」
「ええ。それに、一成を抜きにしても俺だって関係がある訳ですし、佐川の一件に山崎が関わっている可能性があるとわかった以上、黙っている訳にもいかないです」
「私は友達のことがあるんで、全面的に協力しますよ! 山崎を潰すというなら望むところです!」
皆が俺の決意を肯定してくれたようで、少し安心した。
でも可愛い藤堂さんから潰すという言葉が出ると、少し違和感というか何というか。
…そう言えば藤堂さんも話があるって言ってたよな。
「みんなありがとう。ところで藤堂さんも何か話があるんだっけ?」
「はい、でもその前に洋子…私の友達の立川洋子のこともお話しします。本当は友達のことだから余り誰かに言うべきじゃないと思うけど、今回は必要だと思うから。」
そう言って少し表情を陰らせた藤堂さんが、友達のことについてぽつりぽつりと話し始めた。
「私が山崎を初めて注目したのは、洋子が告白して彼氏が出来たと報告された後でした。山崎は有名だったので名前は知ってましたけど、最初はよくこんなイケメンを捕まえたと冷やかしたこともあります。ですが、もうその頃には山崎には最低でも数人程度の付き合いのある女性がいたらしいです。」
俺は具体的な数字は聞いたことなかったが、確かに2人やそこらのニュアンスではなかったと思う。囲うなどと言うくらいだから、それなりの人数がいただろう。
「ひょっとしたら、遊びで適当に付き合って、飽きたら他の男に…なんて可能性はあるかも。現に柚葉は、それをされそうになっていたから」
「最低だね。なんでそんなに…」
夏海先輩が嫌悪感を露に呟いた。
多分、学校が違ったり、社長をやっている親経由で知り合うとか、色々ありそうな気がするな…
「ハッキリしているのは、山崎はデートでお金があることをアピールすることが多かったようです。ブランド物を学校に持ってきたりしていたようですし。」
「確かに、それは俺も見たことがあるな」
教室で見せびらかすようにしている光景を目にしたことがあった。
無視していたが、よくよく思い出すとしょっちゅうだったような気がするな
「うわー、イヤらしい男」
「お金や容姿で靡くような程度の低い女なら、屑男にお似合いでしょうね。恐らく学校の外で普段会えない相手はその手口で囲っていたのでは?」
沙羅さんの言う通りだと思う。
恐らくそういう囲いやすい女性が外に複数いたのだろう
「とりあえず洋子はそれに気付いていなかったんです。デートは必ず運転手付きの車で迎えにきて、場所もそれなりに離れた場所だったそうです。でもたまたま笹川柚葉と鉢合わせになったらしくて…」
同じ学校だった故に、誤魔化しきれなかったってことか…
そこであの日の朝に繋がるのか
「あとは高梨くんの話の通りかな。洋子側からすると、笹川柚葉の目の前で、お前はただの友達だったのに彼女顔した身の程知らず〜みたいな感じ。」
「あのとき柚葉は、ちょうどクラス中の女子からちやほやされていたからな。可哀想だなんだと騒がれていたから、天秤にかけられて柚葉をとったんだと思う。」
自分のクラスだった柚葉を優先したのは間違いないだろう。そして洋子さんが勝手に勘違いしていたというレッテルを貼って、責任まで押し付けたってことか…
申し訳ありません、連休が仕事で忙しく、執筆が全く進みませんでした・・・