領地開拓
目の前には、髪を腰くらいまで伸ばした、赤髪ロングの美女が立っていた。
「下水、ですか?」
「ええ、そうです。下水と水道、ろ過装置を作ってもらいたいのです」
彼女は、つい数日前に独立した大工だった。
前の工務店では腕を見込まれたが技術を学んで独立したようだ。
「…そのような工事は金銭的に持たないのでは?」
確かに、ついこの前まではただの貧乏貴族でしかなかったが、今は女神に貰ったマジックバッグのおかげで、余裕ではないが、工事をするだけの費用は得られる。
だが、ここで明かしてしまっては、今後誰かに狙われる危険性がある。ここは、将来的な旨みを話すのが得策だろう。
「今、この国の中で下水を作る知識を持つのは私だけです。これを最初にあなたに教えることの意味を考えれば、かなりの利益になると思いますが?」
用は、あなたの専売特許にしても良いと言っている。
「…それでは確証が薄いですね。勿論、新しい技術をいち早く得られるのは、非常に大きな利益を生み出すことも分かります。ですが、代わりのリスクもあります」
「ふむ」
なるほど。
確かに、この技術を得ても他で必要ないと言われればそれまでだ。
「では、我が領地の家などの建設もすべてあなたの工務店を通しましょう。ここは未開の地です。建てるところなどいくらでもあります」
「…やはり、金銭的問題ですね。そちらが解決しなければ我々も働けません。今時、お金なしでは何もできませんから」
と言っても、彼女の工務店は彼女ひとりだ。
彼女の場合、ギルドや組合で力仕事をするものを雇って、指示を出す感じだ。
受ける側も、最初のころは大工仕事がほとんどの為、技術は有るのだ。
「なるほど。ですが、私も決して工事費を払えないというわけではないんですがね。ここはどうです?一つ私の部下になってみてはいかがですかな?」
「あなたの部下ですか?」
「ええ、いざとなった時には国が処々を保証しますし、もちろん給料は一定額出ます」
「一定額、ですか?」
貴族付きの執事やメイド、コックや部下には、いざとなった時、お家がつぶれたり当主が死んだりした場合でも、国が数年は保証するし、腕が良ければ宮殿で雇われることも有る。
「ええ、そうです」
「…あなたのデメリットが大きいように見えますが?」
そう、それは貴族と言う名の後ろ盾と力を手入れられるが、逆に犯罪行為や不正、借金をしている場合でも領主の下に責任が来る。
用は、彼女にはメリットが大きいように見えるわけだ。
貴族と言う名の後ろ盾、国からの保証、領主からの保護。
「その代わりに、あなたには領地の発展に力を貸してもらいたい」
「…なるほど、良いでしょう。その話、受けさせていただきます」
「それは何より。ではまず、屋敷にあなたの部屋を設けましょう。何分、領地に民家がないんものでね」
こうして、技術者一人を手に入れた。