出会い
私はふと、廊下の奥に立っている人影に気付いた。さっぱりと小柄で、袖の広い木綿の服を着ている。ここの宿の子なのかな?じゃなきゃ、そんな従業員と似たような服は着ていないはず。しかしその子は私をじっと見て、動かない。私は何か嫌な予感がして、階段に目を戻した。戻ろう、部屋に戻ろう。身を引こうとした矢先、廊下の奥の方から声がした。
「風呂、入ってきたの?」
生身の、少年の声が聞こえて私は少し安心した。なんだ、人間だ…。
「うん、」
少し考えて、
「気持ちよかったよ。」
と付け足す。
「そうか。じゃよかった。」
なんだか物をよくわかっているような口の利き方をする。やっぱり、この子が従業員の子どもだろうという私の説は濃厚のようだ。
「女湯って男湯と違って、露天の岩で崖の上から見れないようになってるのな。」
「なに??」
ハレンチなことを言っておきながら、男の子は涼しいものだ。赤くなって「それってどういうこと?」とパクパクしている私を横目に、
「そういうこと。」
と、廊下の奥に付いている小さい窓によって外を覗いた。
「海にはおりた?」
「まさか、おりれないよ。」
私は驚いて答えた。今日の海は大しけで、とてもじゃないけどおりられるという感じではなかった。それに、海が荒れていなかったにしても、岩が突き出している崖からはそもそも立ち入り禁止なんじゃないか。
「俺はおりられる。」
「へえ。おりれるの?私も?」
「うん。連れてってやる。」
静かに笑いながら、男の子は私に近づいてきた。薄暗い廊下を照らすランプで、その子の顔が浮かび上がる。丸刈りにしたかたちのいい頭に、アーモンド形のくっきりした目をした子だった。とてもきれいな顔立ちなのだけれど、それはなぜか血の気がない人形みたいだった。私は知らずに息をつめて見ていた。この子、やっぱりやばいかも…
するといきなり手首をつかまれた。さっきまで冷凍保存されていたかのような冷たさに包まれて、おもわず短い悲鳴が上がる。反射神経で飛びのくと、その子はにやにやして、
「どうした?連れてってやるよ。」
一言も返さず、私は猛スピードで階段をかけのぼった。怖すぎて声も上げられなかった。振り向きもせずに家族のいる部屋番号にすっ飛んで行って、すごい勢いで入り込んだ。
部屋で布団に寝転んでいたお姉ちゃんが、スマホから顔を上げる。
「どしたん?そんなあわてて。」
私はハッハッと短く呼吸しながら、しばらく答えることができなかった。――やっぱり、人じゃなかったじゃん!
目を通していただき、ありがとうございました!
まだ、、続くと思います。