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アバロンの丘

 世界の消滅!!それを俺は目撃した。


その衝撃に言葉の無い俺に応える様にルーラーが解説する。

『チュートリアルクエストの世界は現実の一部を複製したものだ』

「消えたのですか?」

『完全に消滅した、チュートリアルには幾つものパターンがあるがこれもその一つだ』


俺はまだ衝撃から覚めない。


「セアド達はどうなったのですか?」

『前にも説明した通り、世界の管理センターで受けた学習は意識の表層から消え彼らは現実世界に復帰した』


「セアド達はパーティとして現実に復帰したのでしょうか?」

『彼らはここに召喚される直前の場所に復帰した、ここでパーティを組んだ者同士は相性が良い傾向がある、因果が巡り合えば共に力を合わせる事もあるやも知れぬ』


あの世界の住民達はどうなったのだろうか?世界と共に消えたと言うのか・・・・・・




気が付くとマスターコンソールの操作も完全に自分の意識下にあるようだ、あの仮想マスターは今どうなっているのだろうか?


『さて最後に行くべきところに案内しよう』


その一瞬で俺はアバターモードに変わっていた。


『あの丘に向かいたまえ、あそこがアバロンの丘だ、総ての選ばれしもの達の記憶が眠る場所だ』

「記憶が眠る?」

『マスターが創造したクエストで起きたすべての出来事が記録保存されている』


俺はエレーネ=ディートリッヒとしてアバロンの丘に向って歩き始めた。


ロールプレイ再現度は30%となっている、これがマスターの制御下で完全に支配できる上限らしい。

これ以上は徐々にアバター影響を強く受けはじめ、ロールプレイ再現度は90%以上でアバターとほとんど同一化してしまうとされる。


『安全策としてタイマーを設定する事ができる、アバターコンソール上にタイマーがある、設定時間後に強制的にロールプレイ再現度が0%になるのだ』

「なるほど、ロールプレイ再現度を上げなければならない時は使った方がいいですね」


管理センタータウンを抜け郊外の小高い丘を目指す、丘の中腹にはギリシアかローマ風の建築が立ち並んでいた。

その丘の上に壮大なギリシャのパルテノン神殿のような壮麗な建物が立ち並んでいる。


さっそくここで実験する事にした、タイマーを5分に設定しロールプレイ再現度を70%にまで引き上げた、たちまち俺の意識が薄れて遠くなりエレーネの自我に塗りつぶされていく、だが俺が消えたわけではない、池の底から空を見るように朧気に俺自信を見ているような感覚だった。

これならばアバターコントロールパネルの制御がかろうじてできそうだった。


エレーネは丘の斜面の上り坂を登りはじめた、後ろを振り返ると世界の管理センターの町並みを見下ろす事ができる。

風が丘の下から吹き上がって来た、エレーネの長髪が物理演算式を無視して荒ぶり始めた。


そしてアバロンの丘を降りてきた女性が目を見開き朗らかに笑った。


その女性はブルネットの長い髪を後ろで三編みにした20代半ばの清楚で美しい女性だった、薄い白に近いベージュを基調としたメイドドレス、同色のメイドキャップとエプロンに白い編み上げショートブーツを履いて白いフリルがアクセントになっていた。

そして不釣り合いなまでに血まみれで巨大なナタを軽々と片手で持ち歩いているのだ。

彼女もどう見てもマスターのアバターだった、そしてその姿に強い既視感に襲われた。


「今の風は貴方が起こしたのね、うふふ」

突然話しかけられて驚いた、彼女の声は魅力的で色気のある丸みのある豊かな美声だった。


「え、あの・・」

俺は意識の奥でエレーネの設定を思い出していた、エルフの上位種族のエレーネは風の精霊と親しみ、エレーネの気分を察した風の精霊達が色々いたずらをするんだった。

今のもシュチエーション的に風があると絵になるから風の精霊達が忖度して風を吹かせたのだ。

泣いた方が良い時には風が吹いて目にゴミが入り、ここぞと言う時には風が吹き短いスカートがめくれ上がる、だがそれを決めるのは総て風の精霊達の思いつきなのが問題だった。


「ええ、風の精霊たちの気まぐれなの」

エレーネは透明な心の底が見えない微笑みを浮かべた。


「貴女は新しいマスターですね?うふふ」

柔らかくそのアバターは笑った、


「・・ええ、そうなのかもしれません・・」

エレーネは何か昔を懐かしむ様な思い出すような困惑した表情を浮かべ、目の前の先輩アバターの表情が驚いた様に変わり、そして何かを察したようだ。


その瞬間ロールプレイ制限タイマーが切れてエレーネの意識が消え去り俺が戻ったのだ。

エレーネはしばらくの間なにもできずに立ち呆けていた。


「ロールプレイ再現度を上げていましたね、危険ですから気をつけましょう、うふふ」

朗らかに先輩マスターが忠告する。

「ええ、ロールプレイ再現度を上げる実験をしていました」

「新人さんですね?私は今ロールプレイ再現度40なのよ、なれたらこのくらいがいいわね」


「アバターを動かす時はロールプレイ再現度をあるていどまで上げた方がいいですわ、今の貴女は仕草や表情があっていません」

俺はロールプレイ再現度を40に上げてみた、俺の意識が薄れエレーネの自我が広がっていく。


「ところで貴女は新人では無いのですか?」

「5年はマスターをやっているわ」

私は驚いたそのアバターから見ても5年もマスターをやっているはずが無い。

彼女は私の驚きの意味をすぐ察したようだ。


「元の世界とこの世界では時間の流れが違うみたいね、後から来たマスターの皆様の記憶と先に来たマスターの時間の流れにズレが有りすぎるの」

ここは元の世界より時間の流れが速いのでしょうか?


「あなたはマスターチュートリアルね?」

「あ、はい」

「じゃあもうチュートリアルも終わりですね」

「貴女は何をしにここへ?」


「この先の神殿にマスタークエストのプレイ記録が完全に保管されているのよ、でもここを訪れるマスターはあまり多くはないの、なぜかわかりますか?」

私は首をふった。


「すべてのクエストがプレイヤーにとって成功した結果に終わるわけじぁないのよ、中にはプレイヤーが死んで失われたりパーティが全滅する悲劇も起きるの、愚で無謀な判断からそうなることもあるし、不可抗力でそうなる事もあるの」

「私達マスターは結果に対して世界の理に反しない限り責任は無いし問われる事もない、でも私達にも心はあるから、たまに私はここに来ることにしているのよ」


「すべてのマスターがプレイヤーの死を悼むのですか?」

その美しい女性アバターは顔を横に振りそれを否定した。

「マスターそれぞれね」


私ならセアド達がもし全滅していたらそれをどう想うだろうかと想像した、この世界でプレイヤーの死はリアルな死を意味していた、単なるキャラクターシートのデーターではない。


「私は行くわ、久しぶりに他のマスターと話ができてよかった」

その美しい女性アバターは世界の管理センターの街に向って坂を降りていった。


風の聖霊達が風を吹かせ、エレーネの長い金髪が風になびいた。






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