アバターはマスターの化身だった
再び周囲の景色が一変する、そこは殺風景な荒涼とした荒野の真ん中だった。
「ここはどこですかい?」
その時俺は自分自身の体を知覚した、先程までは意識と視覚と聴覚しかなかったのだ。
五感と肉体の存在感を感じる、おっ手が動くぞ!?
風を肌に感じ乾いた砂埃の匂いを嗅いだ、急に世界が鮮やかになった気がした。
自分自身を確認するとデザイン用のポージング人形の様な体になっている!!
「なんじゃこりゃ!?」
『それがアバターモードだ、マスターモードと任意に切り替える事ができる、使い方は後で説明する』
しばらく体の扱いを確認していると、ルーラーがガイダンスの続きを始めた。
『後ろを振り向いて見たまえ』
体を捻り首を曲げる動作を無意識にやっていた、それは生まれたときから無意識に染み付いた動作。
後ろを振り向くと妙に現代的な建物が荒野に幾つも建っている、町からはかなり離れているようだが。
町のメインストリートには数多の人間や亜人が歩き回っている。
『あれはこの世界の管理センターの街だ、プレイヤーが選ばれた者として登録する場所、そして選ばれし者達が死後たどりつく場所だ』
町の後ろには大きな丘が見える、その丘には神殿の様な建物が幾つか立ち並んでいる。
「あの神殿の様な建物は?」
『あの山はアバロンの丘だ、神殿は英雄的な行為で死んだ者達が顕彰されたり晒される場所だ』
「晒される?」
『まあ、それは後にしよう、詳しい事は順次理解してもらう』
「へえ」
『最初に町の反対側にあるマスター情報管理センターに行こう、そこで君を登録してもらう、ちなみにアバターに慣れて貰うためにそこまで歩いてもらう』
俺は言われた通りにその町に向かう事にする。
『まずは歩きながらアバターの役割を説明しよう、アバターはマスターが現実世界に干渉する時に使用する肉体だ』
いやいやこんなポージング人形が現れたらモンスター扱いだろ?
「これでですか!?」
その場でポージング人形がフランス帰りのイヤミな奴のポーズでクルリと一回転した。
『その心配はまったく無い、アバターはいかなる種族、性別、年齢に変化可能なのだ、君がイメージすれば即それが現実になる、試しに思い浮かべて見たまえ』
その時俺は変化していた、それはエルフの女性の様な何かだった、その胸も腰も全てが巨大で肌の色は健康的な褐色だった、いわゆるボッキュンボンと言うやつ。
これは生前に知人のプレイヤーが創造した、エルフの種族特性を無視した巨乳巨尻、ダークエルフは嫌だけどエルフで黒いのがいいんだ!!と言う欲望のまま創造された日焼けしたエルフのお姉さんだった。
そもそもダークエルフは闇や死を連想させる黒か青白い肌だろ、健康的な日焼け種族では無いんだよ!!
いかんいかん今更怒ってどうする?
それ以上に問題なのがエルフが120才で成人する設定が余程気に入らないらしく、呪われて大人の体にされた17才のエルフの幼女と言う禁断のキャラになった。
キャラクタープロファイル欄を読んだマスターの気持を君は理解できるであろうか?
因みにそのプレイヤーは体は大人で中身は幼女、そんな尖った設定を生かす気もなく、設定はどこかに旅に出てしまい、普通のプレイしかしていない。
『・・・・・・』
つーかよりによってそのキャラをイメージしてしまったじゃないか!!
ルーラーが沈黙しているぞ?
だがこの欲望の塊の様なキャラに変化しているのに何故か恥ずかしいという感情が無いのだ。
直ぐにイメージをやり直す。
おっ変化していくぞ!?次に変化したのは、エルフの少女魔法剣士だった、俺がプレイヤーの時に作成したキャラだ、若い78才のハイ・エルフにして、その容姿は版権にゴリゴリ触れる程に古典的日本ファンタジーの金字塔な某キャラに酷似していた、このキャラが後世のエルフに与えた影響は非常に大きい。
ちなみに彼女の名前はエレーネ=デートリッヒ、たまにNPCとして登場させたりしていたな。
そうかアバターとはマスター操作のNPCなのか!?
『・・・・・・』
またルーラーが沈黙しているじゃないか。
『アバターの行動を自動補正する機能もあるぞ、模範的なロールプレイも可能だ』
「それはどのような?」
『コントロールパネルをイメージしたまえ』
眼の前に半透明なデイスプレイが表示された、まるでヘッドアップディスプレイだ。
『これは君の意識に投影されているのだ、他人からは見えない、他の設定は後で説明しよう、まずはコンソールにあるロールプレイ再現度を試しに50%にしてみたまえ』
「あれ、言葉がかわったわ」
『アバターの設定によっては犯罪行為も平気になる、アバターの運用には十分気をつけるように』
アバターで犯罪を犯すなんていやよ。
『マスターは犯罪行為を犯しても裁かれる事は無い、世界の理を歪め破壊する場合にはルーラーが介入するがね』
念の為ロールプレイ再現度を0%に戻すわよ。
何だ今のは!?エレーネになりかけていたな、これは禁断の感覚ではなかろうか?
『マスターの中にはアバターに溺れて戻ってこない者もいるので気をつけたまえ』
「わかるような気がします」
いやホント最初の日に焼けたエルフのお姉さんで無くて良かった。
『このアバターによりマスターは現実界に実体化する事ができるのだ』
俺はそのまま町に踏み込んでいく、周辺には人間からデミヒューマンで溢れかえっている、周りの通行人がエレーネを見て驚いた。
『アバターは複数創造する事ができる、だがマスターが同時に制御できるのは一体だけだ、制御を外れたアバターはロールプレイ再現度100%で自律的に行動する』
とんでもない話を聞いている様な気がする。
「放置した場合はどうなるのですか?」
『世界の理に従い寿命が尽きるまでアバターである事も自覚せずに生きて死んでいく』
「それで何体まで創れるのですかね」
『マスターレベルで上限が決まる、これは新しく追加された要素だ、マスターレベルはマスターモードで確認できる、詳しくは後で説明しよう』
マスターとはルーラーの作り出したルールの枠内とはいえ神に等しい力を持つようだな。
しかし雑踏の中にどこかで見たようなのが何人も歩き回っていないか?
いや人の事はいえないが、いずれも個性的すぎて悪目立ちしている、キャラの造形的に他のマスターのアバターと疑う。
現実なのでキャラの格好をしたコスプレイヤーにしか見えないのだが、前世のコスプレイヤーと違い非人間的な歪みを感じさせるスタイルをしている、むしろリアルなCGより遥かに怖い。
『そういう君も八頭身だぞ?あと髪が物理法則に従う気がないように荒ぶっているが』
「・・・・・」
先程から気になっていたがやはりルーラーはこちらの思考を読んでいるな。
その時、目の前を目のやり場に困るような姿の美少女が横切った、あれは絶対に穿いてないだろ?アニメならともかく現実化すると物理法則的に見えないはずがないのだが。
『君の予想通り彼らは他のマスターのアバターだ』
俺の予感が悪い方向で的中した。
『限りなく自然なアバターの方が遥かに多い、ここではマスターの欲望が有りのまま現れやすいだけだ』
『まもなくマスター情報管理センターに到着する』