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ラストクエスト(4)

 コンラートを先頭に階段を下りおりる、地下遺跡は神殿の地下構造物のようだ、倉庫や書庫らしい部屋の入り口が高さと幅が3メートル程の通路に沿って連なっている。


「ここはただの神殿の廃墟だな、ならば罠の様な物はあるまい」

ドーグは通路の先を眺めながら持論をのべる、赤外線視野持ちのドワーフやエルフは地下でこそその本領を発揮する。

もっとも盗掘済みダンジョンは罠があったとしてもすでに解除されているものだ。


階段付近をしらべていたアイモが何かを見つけたようだ。

「壁の色を見てくれ、階段近くが崩れ長い間土に埋もれていたのさ、罠があるとしたら最近のものだ」


(普通は何かを守る為に罠がはられる、意味もなく罠なんてないのよね、まれに頭のおかしな奴が罠をしかけるけどね)


彼らが少し進むとすぐにアイモが何かを見つけた。

「ここにキャンプの跡があるぞ!焚き火の跡だ壁のところも焦げている」

全員いそいで集まり周囲の調査を始める、もちろん探検隊の手がかりを探すためだ。


「入り口から近いな」

アイモが階段のほうを見た、コンラートは焚き火の後を観察しながら誰ともなくつぶやく。

「雨宿りをするには良い場所だ、俺たちも利用できる」


「ここなら空気が汚れる心配もいらないわ」

アンは鼻をひくつかせ空気を確認していた。


だが彼らの期待が落胆に変わるのに時間はかからなかった。

「だめだキャンパーを特定できる物が見つからん」

ドーグが舌打ちをした。

「奥に行くかい?」

アイモがコンラートを見上げる、ハーフリングと人間では身長差があるので真上を見上げる様になる。

「いこう」


ふたたびパーティは神殿の通路に沿って奥に進みはじめる、そして両側の部屋をしらみつぶしに調べていく。


「妙に綺麗だと思わない?」

しばらく進むとシーグリッドが一言つぶやく。

「あら?リッドも気づいたのね」

アンが感心したように床を眺めまわす、彼女もおかしいと思い始めていたのだ。


「そうだねなんだろう?」

アイモも引っかかる物があったのだろう、部屋の中には椅子やテーブルなどの家具も扉もなく、朽ちた木屑の様な物すら無い。

「全部もちだされたのかしら?」

アンが首を傾げた。


「これは扉の鍵の部分じゃないか?」

暗闇で目が効くドーグが通路に落ちていた金属の塊を拾い上げた、ドワーフは金属製品や細工に長けた種族なのですぐに用途に気づく。


「見てその先に何か落ちている」

シーグリッドが通路に落ちている何かに気づいた、魔法剣士のイェルドが後衛なので、ドーグとシーグリッドがパーティの目の役目を果たしていた。


「確認しよう」

パーティは慎重にそれに近づく、それは廊下の石畳みの上に散乱した金属製の防具だ。

ハーフプレートと小型の金属盾に片手剣にガントレットがバラバラになって散らばっていた。


「なんじゃこりゃ?」

装備を調べたドーグの声が呆れたような声を上げたが、その声はこころなしか震えていた。


「どうしたのドーグ?」

「アン、見てみい、鎧の繋ぎの皮ベルトが無くなっておる。盾も腕を通す処がキレイに無くなっておるぞ」


「金属だけ残っているのか?」

コンラートが身を乗り出して来た。

「イェルド何か思い当たる事あるか?」

博学のイェルドに全員が注目する。


「金属すら溶かす化け物は知っている…スライムやオーズだが」


(スライムは酸を出すから普通の金属だと溶かされちゃう、オーズもそうだけどオーズは酸を分泌するスポンジみたいな生物で動かないからあまり怖くないわね、さっそく再生を一時停止してマスターシナリオを確認と、それを見てエレーネは納得しました、この遺跡ではこいつしか生存が許されません)


「お前もしらんのか?」

ドーグの声には僅かに嘲る様な響きがあった。


「手がかりなし!!」

アイモが降参するように両手を上げる。


装備を調べても特に遭難者の手がかりは見つからなった、運が良いと装備に名前が刻まれている事もある、そんな事をする変わりプレイヤーもたまにいたりする。


「進もう」

コンラートが決断すると、パーティは再び前に進み始める。


通路の両側の部屋を調査しながらゆっくりと奥に進んでいくが、通路の先を監視していたイェルドが叫んだ。


「何かおかしい皆んな通路に集まってくれ!!」

装備の鳴る音と足音が慌てて彼の周囲に集まってくる。

「何が起きた!?」

「コンラート奥に壁が出来た、いや少しずつこちらに向かってくる」

素早く戦闘隊形を整える。


「動く壁なら退路を確保するんだ」

アイモが叫ぶ。


(動く壁のトラップだと両側の部屋に逃げられてしまうわよ)


「何かしら?石や金属には見えないわ」

同じく暗視野持ちのシーグリッドが叫んだ、半透明なブヨブヨとした壁が通路を塞いでゆっくりと押し寄せてくる。


「スライムに似ている?アン松明を投げつけて!」

シーグリッドが叫んだ、アンが手にしていた火の付いた松明をそのブヨブヨとした動く壁に投げつけた。

松明は音を立てて一瞬だけ壁を焦がす、壁は僅かな間だけ動きを止めたが、ふたたび動き出し松明を飲み込んだ、彼らの目の前で松明が見る間に溶けて消えていった。


「コイツが犯人だ!!」

アイモがダガーを一本ブヨブヨとした壁に投げつけた、それは確かにぶよぶよの壁に突き刺さったがそのまま巻き込まれてしまった、だが消えることも無くしばらくの間は壁の中に姿が見えていた。


(こいつはグレーター・ゼラチンキューブ、対処を間違えなければ十分対応できるけど、一歩間違えると全滅します、見張りを立てずに通路の両側の部屋に分散していたりすると確実に死人を出す設計になっていますね、理不尽に強いモンスターじゃないけど、プレイヤーの怠慢で強敵に変わる下等生物です)


「みんな下がれ距離を保つ、奴はそう速くはない」

コンラートの指示に従い後退を始めた。

「コンラート、こいつスライムに近いなら火が効くかもしれないわ」

「まかせたシーグリッド」


彼女は一人だけ大きく後退すると詠唱の準備を始める、パーティは彼女の邪魔をしないように下がっていく。

「ファイヤーウォール」

動く不定形の壁を巻き込む様に広がり通路を封鎖する分厚い炎の壁が出現する。

魔法の炎は松明の炎のように簡単には消えない、ゼラチンキューブを焼き尽くしていく、だがゼラチンキューブは停まる事無く前進した、少しずつ炎の壁が侵食されて薄くなって行く。


「みんな下がれさらに距離を保つんだ」

コンラートの指示で更に後退していく。


「私はもう余力がないわ」

シーグリッドが警告すると、イェルドがその場で停止した。


「俺はあと一回ならファイヤーウォールが使える」

「やってくれ」

コンラートの声もうわずっていた。


「やるぞ!!」

ゼラチンキューブは燃えながら炎の壁を食い尽くして更に前進してきた。


「ファイヤーウォール」

イェルドの詠唱と共にふたたび炎が通路一杯に広がり分厚い炎の壁が出現した。

だがゼラチンキューブには恐れも痛みもないのか、燃えながらも留まる事もなく前進する。


「まさかだめなのかよ?」

アイモが呟いく。


「出口はそこだ駄目なら逃げられる落ち着け!!」

ドーグの声には絶望は無かった、そこから走れば地上への階段までそう遠くはない。


「みろ奴が停まったぞ!!」

コンラートが叫んだ。

ゼラチンキューブがついに停止して溶け崩れて行く、向こう側の通路の闇が見え始めていた。

やがてそれは溶け崩れ消えていった、そして魔法の炎の壁も消えていく。



「倒したが他にいないとは限らん、どうする一度引き上げるか?」

ドーグがコンラートに向かって声をかけた。

「イェルド、シーグリッド魔法の残りは」

「私はもう無い」

イェルドは首を横に振った。

「マジックアロー3発といったところかしら」


(さっきの恐竜との戦いが痛いわね、あんな遭遇率の低い奴を引くなんてついてないわ)


「こいつと遭遇した場所まで戻り、その先があるようなら無理をせずに引き上げよう、それにこいつが何か落としているかもしれない」

それがコンラートの判断だった。


ふたたびパーティは進み始めた、やがてアイモのダガーが見つかった、そして何かの宗教的な臭いのするネックレスが見つかる。

あのゼラチンに飲み込まれた犠牲者の物だろう、ネックレスは当然回収する。


そして最初にぶきみな動く壁に遭遇した場所に戻ってきた。

その先を確かめながら進み始める、その先には部屋が無い、廊下がまっすく伸びていたがすぐ廊下が終わる。


「おい行き止まりだ」


一番奥の壁の両側に部屋の入口が見える、目の前を本物の石壁が行方を塞いでいた、その壁際に無数の金属の残骸が散らばっている、武器や防具からマジッィアイテムから呪物らしきものまで。

その合間に洗われた様に綺麗な白骨が散らばっていた。


両脇の入り口の中はかなり細長の広い部屋になっていた、パーティは部屋を探索したが部屋の中には同じ様にガラクタと人骨が散らばっているだけだ。


アイモが隠し扉がないか調べ始めると、パーティはそれらの残骸を手分けして調べる。


雇い主から渡された調査団の特徴を記したリストから持ち物などを探す、しかし有機物を消化する生物のせいで紙や羊皮紙などの記録や衣服は完全に消滅しているようだ。

それでもいくつか発見したアイテムはすべて回収した、雇い主に見せればそこから何かわかる可能性もある。


「この先は見つからない」

アイモがギミックの調査を諦めたようだ、ちなみに無い事と見つからないはイコールではない。


「決定的な証拠は見つからなかったが成果はあった、明日は他の印の場所に行こう、今日はキャンプに引き上げる」

それに反対する者はいない。


(微妙な問題はあるけど良いパーティね、でもシナリオが重い感じがするわ、私のシナリオはお馬鹿でかなり軽いのよ、プレイヤーの注文に引きずられたせいだけど、あの日に焼けた巨乳エルフのお姉さん実在していないでしょうね…)


パーティは帰還時にまったく敵と遭遇しなかった、そしてキャンプ地に無事たどり着くと、まだ日が高いが今日の調査はそこで打ち切りとなった。

アンがヒールを使いパーティのコンディションを整えて明日に備える。


もう彼らにできる事は無い。


(さーて明日の朝まで早送りと)


みるみるジャングルの木々の影が伸びて夜になる、やがて中央山地の麓にまた謎の灯りが灯ると、満点の星が凄まじい速度で天極を廻りはじめた。






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