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ラストクエスト(3)

 彼らは翌朝はやく起きると昨晩の作り置きを加熱して食事を取り、重い炊事用具だけキャンプに残して台地の探検を始めた。

天気は薄曇りで動きやすい一日になりそうだ。


「まずは、この記号のある場所を調べる、今日中に地図に記された三箇所すべて調べたい、一番近いところに向かおうか」

コンラートの計画に特に異論は出なかった。


周辺に道らしき跡が見つかった、獣道なのか別の探検隊が切り開いたものかわからない、だがこれにそった方が確実なのだ、道は必ずどこかにつながっているものだ。


昨日と同じ隊形で探索を始めた、ゆっくりとした移動速度だが周辺の調査を慎重に進めながら進んでいく。


(すこし早く再生させようか)


記録の再生速度を適当に加速させる。


しばらくすると先頭で見張りのを努めていたドーグが何かに気づいたようだ、そこで再生速度を通常にもどす。


「何か臭いのが近づいてくるぞ」

背が低く野外での視力があまり良くないドワーフのドーグは聴力や嗅覚に優れていた。


藪を払う手をやすめてコンラートが叫ぶ。

「静かに!!」


茂みをかき分け枝がへし折られる音と共に重い足音がこちらに近づいてくる。

パーティはリーダーの指示を待つまでもなく迎撃体制を取る。

やがて灌木が押し倒され、そこから二本足で歩く巨大なトカゲのような生物が現れた、地面から頭の上までニメートルを越える高さがある、そいつは足を止めこちらを伺っている。


「なんだこりゃ!!」

アイモが呆れたようにこぼした。

こんな生き物は大陸にはいなかった。


(これはなんだったっけ?アニマル(動物)ディノサウルス(恐竜)の一種なのはわかるけど、恐竜はアニマル系では最悪の敵、でもアロサウルスにしては小さいかな、ついでにこいつは肉食です)


前衛のコンラートとドーグがトカゲの化け物を封じ込め、イェルドとシーグリッドがマジックアローを叩き込む。


「こいつはしぶといぞ」

イェルドが思わず叫ぶ、二人が数発のマジックアローを叩き込みコンラートとドーグが打撃を加えたはずだがいまだに倒れない。


「初めての敵だ、全力でやってくれ」

コンラートが指示を出す。


「どんどん行くわよ」

それにシーグリッドが応じマジックアローを更に連続で叩き込んでいく。


(そういえばD&Eの魔法は単純な攻撃魔法は意外と種類が少ないのよね、水を作るとか、浮遊とか、物を軽くするとか、変身や隠蔽とか、屍体の視点で物を見るとか。

これがあれば全て解決できる魔法は無い、微妙で使い所が難しいけどハマれば面白い魔法が多かったわね、プレイヤーの創意工夫が評価される世界だった、テーブルトークだからレベリングが存在しない、水を作る魔法も飲み水だけじゃあ無い、熱い鋳鉄にぶっかけて脆くするとか、薬品を台無しにするとか頭の柔らかさが試されるのよ、おっと)


ドーグは凶悪な顎の攻撃を回避することに気を取られ、トカゲが体を半回転させドーグにしっぽを叩きつけると回避しきれず吹き飛ばされ地を転がる。


「ぐっ!!くそ」

ドーグは罵声を浴びせたがドーグの顔色は悪い、骨がおれたのかもしれない。

アイモがスリングで石をぶつけて敵の注意を引きつける。

イェルドがドーグを支え下がった、仲の良い二人ではなかったが状況が状況だ。


「ドーグ!!大丈夫?」

アンが声をかける。


「あまり大丈夫じゃねえ!!」

「わかったわ」

アンがドーグにかけよりヒールをかけた、とにかくドーグを戦闘に復帰させなければならない。

「たすかる」


イェルドもマジックアローの攻撃に加わった。


そしてコンラートがトカゲの化け物の頭突きを食らい吹き飛ばされた、

「コンラート!!」

ドーグが叫びを上げた。


そこに戦線復帰したドーグが傷ついた敵の首に戦斧を叩き込む。

血が吹き出し大出血が始まった、どうやら動脈に達したのだろう、動きが衰えやがて大きな音を立てて崩れ落ちる。


「やっと倒れたか」

アイモがやれやれと言った仕草で死骸に近づいた。

「こいつは何だ、たしかギルドの報告にあったやつか?」


ドーグが短い足で蹴飛ばす。

「それだ恐竜だな」


シーグリッドがその巨大なトカゲのような怪物をおそるおそる観察する。

「恐竜は爬虫類に近い種よ、大陸では滅んでいるけど、南方ではもっと巨大な奴が生き残っているらしいわ」


「こんな奴倒しても1銅貨にもならんぞ、ここから動かす事もできねえ」

アイモが忌々しげに吐き捨てた。


(そうね、剥製でも作れば好事家に売れるかもでも傷が多くてむりか、ここで加工できなきゃ肉にもならないわね、おきのどくさま)



アンが苦しげに唸るコンラートにかけよって負傷の度合いを調べ決断を下した。

「肩の骨が折れているわ、これは使うしか無いわ」

アンがヒールを詠唱するとコンラートの怪我がみるみる癒えていった、腫れ始めていた肩もおさまり肩の歪みも矯正されていく。

「助かるよアン」

負傷後に初めてコンラートは口を開く。


だが完全に癒えたわけではない、ヒールを節約している。

行動や戦闘に支障のないレベルまで回復させ、あとは自然治癒に任せる。

キャンプに戻った時点でヒールする余力があればそこで完全治癒させるのが定石だった。

重傷を追うものが出ても、自力で歩けるまでしか回復できない時もあるのだ。


「みんな魔力の残りはどのくらいある?」

コンラートの問いかけにまずアンが答えた。


「ヒールがあと8回程かな」

「マジックアローが7回ね」

「俺はマジックアローが4だ」

この回数を基準にすれば他の魔法の使える数も想定できるのだ、マジックアローが4回ならばスリープが2回使えると計算できる。


パーティの状況を確認する為に再生を止めた、だいたい魔力の4割近くを消費していた、アニマル系はタフな割に見返りが少ない、運が悪かったとしか言いようがない。


またクエストを確認する、このアロサウルスは若い個体で、ワンダリングモンスターとしてこの島の大地で低い確率で遭遇する事になっていた、だが設定自体は長いあいだのシナリオの累積でこの島の大地の環境になっていた、このクエストのマスターが設定したわけではない。


(これが公式ワールドの拘束と言うわけか)

ふたたび再生を再開させた。



「小休止をとりたいが、こいつから離れてからだ」

コンラートは恐竜の屍体を指差す、全員がその意味を察した、これに屍体あさりの動物が招き寄せられる怖れがあるからだ、全員一刻も早くここを離れたかった。

ふたたび地図の記号を目指して道を切り開きながら進み始めた。


(また速めるわね)


私はここで再生速度を加速させた。






「この地図ならこの近くに記号のある場所があるはずだよな」

地図を覗くコンラートとアイモが顔を突き合わせている、周囲ではドーグとイェルドが下草や灌木を薙ぎ払っていた。


「おい何か見つかったか?」

コンラートが声をかけた。


「何も見つからない」

イェルドが忌々しげに返した、そして剣で草をまた薙ぎ払った。

魔力を帯びた剣だが初めての実戦が雑草相手になったのだ、彼は不機嫌になっていたがその切れ味は信じられないほど良い。


「向こうに何かある!!」

見張りをしていたシーグリッドが叫んだ、だが彼女の指差す先を見てもよくわからない。

「あそこの木を見て、あれは柱に植物が絡みついているのよ」


「たしかにね、リッド良く気づいたわね」

アンが感心したように魔法使いが指差す方向に数歩あるいた。


その柱まで30メートル程だった、全員で高さ5メートル程の柱を中心に周囲の草を薙ぎ払うと石畳みが現れた。

そして草むらの中に大きな砕けた大理石の破片が幾つも埋もれていた。


「ペルージャ文明の遺跡だな、少なくとも1000年前のものだ」

博学のイェルドが砕けた大理石に刻まれたレリーフを確かめてから断定する。


「ならばここが目的の遺跡の可能性がある」

コンラートが誰ともなく口を開いた。


「おい、ここに下に降りる階段があるぞ、誰かが掘り返した跡がある」

アイモが階段の跡を見つけたらしい。


「1000年放置されていたら入り口など埋もれておるわい、これは既に盗掘ずみだな」

ドーグが鼻で笑った。


「忘れてない?私達は行方不明になった探検隊を調査しているのよ?むしろありがたいわ」

シーグリッドが不機嫌にドーグを睨んだ。


「ふん」

ドーグはそれを鼻であしらう。


(お約束のドワーフとエルフの仲のわるさね、でもあまり良い感じがしないわね、ドワーフが一人でエルフ二人なのが良くないのかな)


「中に入って偵察しよう、見込み無しなら別の記号に向かうぞ、深入りはしない」

コンラートは決意を固めたようだ、他のメンバーもそれに異論は無かった。








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