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ラストクエスト(2)

 この島の寂れた小さな港に寄港するのは10日に一度大陸と島を往復する定期便と、島の漁船と嵐を避ける為に入港する船ぐらいだ、パーティは小さな港町を取り囲む石垣をすぐに越えてしまった。


先頭を進むコンラートにエルフの魔法剣士のイェルドがさりげなく近づく。


「やはりクレリックを雇う気はないのか?」

イェルド小さな声で話しかけた。


「しつこいぞ?」

「まだ言わせるのか?今まで金で解決してきただけだ、この島では蘇生もできない」

エルフの魔法剣士のイェルドはクラスと種族特性で成長が遅い上に耐久力に弱点を抱えていた。

魔術師とは比較にならない高い防御力と近接戦闘能力を持っているが、食らうと一撃で戦闘不能になりかねない、彼はパーティの回復力にナーバスだった。


「ここの教会は小さい、他のパーティに抑えられる前にクレリックを抑えるべきだ、抑えて置かないとパーティの立て直しに時間がかかる」

「この島は冒険者には不人気だ俺たち以外に島にいるのは1パーティだけだ、次の船がくるのは8日後だ」

「それは油断ではないか?」

彼らが今まで活動してきた大都市には教会に属する癒し手が多くいた、他の冒険者からヒールを買う事もできた、小遣い稼ぎに癒やしを売る者はいくらでもいたのだ。


この世界では一晩寝て傷が完治するわけではない、重症を負うと自然治癒だけでは完治するまで何週間もかかる。

教会に所属するクレリックが他のパーティに契約で抑えられてしまうと、アンのヒールと自然治癒だけでパーティを立て直す事になる。

安全を期すなら癒し手は二人いたほうが良い、行動中の安全確保とパーティの立て直しに有利だ。


「わかっている、しばらくは台地の調査が続く、遺跡内部の調査が始まったらクレリックを確保するなら問題ないだろ、傭兵を雇うのは金がかかるんだぞ、何もしなくても金がかかる」

しばらく議論をしていたがイェルドは最後尾に引き下がって行った。


街の周囲に広がるわずかな畑を抜けるといよいよ密林地帯に差し掛かる、その先は登り坂で島の中央の山岳地帯の頭が見えてくる。


「またクレリックの話をしてたのね?」

イェルドの前に居たエルフの魔法使いのシーグリッドが下がると話しかけてきた。

「そうだ」


「たしかに用心深いのは悪いことじゃないけど、皆信用できる人に命を預けたいのよ、街でヒールを買うのとクレリックを雇ってパーティに入れるのとでは違うわ、それにお金もかかるしね、コンラートはプライドが高く責任感が強いアンの事気にしているのよ」

「遺跡の内部の調査が始まったら雇うつもりになってたよ、あとで皆に話すつもりらしい」

「そうか、遺跡がいつ見つかるかわからないから雇いたくないんだろうね、結局お金よね」


二人の会話は聞き取れない程小さかった、彼らが歩くたびに装備が奏でる音で会話は遮られる、だがアンは時々後ろを振り返る、彼女も何かを察しているのかもしれない。


(重い流れだわ、これはマスターの性格なのかしら?私はかなりメチャクチャな展開だったわね、プレイヤーもかなりアレだったし、手段の為には目的を選ばない、物欲の為には命を投げ出す、コボルドの軍隊に突入して半壊させたあげく自分達も全滅したのは懐かしい思い出だけど)


『マスターの個性の強い影響を受けるのだ、導かれる者たちもまたマスターに惹かれ呼び寄せられる』


(類友と言うやつね、私にはどんな奴らが呼び寄せられるかな、たのしみね)


何か起きるまで早送りをする事にした三倍速で彼らの動きを追う。

街から出て一時間程たった頃、コンラートがパーティを停止させた、そこで再生速度を通常に戻した。


(マスターモードの体感時間の加速とは違うから気楽に使える)


コンラートとマッパーのアイモが何やら相談している。

「この先に小川がある、ここからこの斜面にそって進む」


隊列を組み換え草木に埋もれた古い道を進む、コンラートとドーグが交代で先頭を務めながら、邪魔な枝や灌木を切り払う、イェルドは周囲の警戒と後衛の護衛、アイモも何かしら手がかりをさがすため忙しく周囲を観察していた。


この斜面の上の台地に目指す遺跡があるはずだ、それは三年前に行方不明になった探検隊の残したメモから想定した場所だった、まずは台地の上で彼らが目標としていた遺跡を探さなけばならない。

台地の広さは東西4キロ南北三キロほどだ、だが原生林に覆われ調査はけして楽なものにはならないだろう。


「アイモ、何か見つかったか?」

「三年もたっているんだ、何もみつからねえよ、キャンプ跡ならわかるかもしれねーがな」


「しかし暑いな」

ドワーフのドーグがぼそりとつぶやいた。

この島は熱帯では無いが高温で雨が多い島と知られていた、閲覧者のエレーネには彼らの五感は伝わっていない。


やがて長い斜面を昇りきった彼らは台地の上の原始林の中を進み始めた、ちなみにここの石灰岩の台地の地下深くに数多くの自然洞窟がある。

それらは他のマスターが創造したものだ、まあとりあえず今回は関係ない。


台地の上も密林に覆われ視界が悪い、道を切り開きながら進むためなかなか前に進めない、慎重に枝葉や背の高い草を切り払いながら進む。


「そろそろ川があるはずだ」

アイモと地図を確認していたコンラートが後ろを振り返った、地図には小川をさかのぼると湧き水らしき物が記されている、そこがキャンプ予定地だ。


水源の近くにベースキャンプを設営して台地の探検を進めて行く予定だ、水源の近くにキャンプを作るのは良くある事だが、行方不明になった探検隊のキャンプが見つかるかもしれなかった。


行方不明になった探検隊の残したメモもベースキャンプの跡から発見された物だろうと彼らは推理していた。


「みて!!」

シーグリッドが叫ぶ、彼女は下草が払われた跡を差している、そこに矢が落ちていた。

草に紛れて見分けがつかなかったのだ。


「イェルド、この島の原住民の矢かな?先が石だわ」

「この矢じりは狩猟用だ」

エルフのイェルドは弓矢に詳しかった。

ドーグが矢を見て唸る。

「最近の矢だな新しいぞ」

コンラートが覗き込んでから首を横に振った。

「冒険者ギルドの奴が言っていた、山岳地帯に住んでいてほとんど下には降りてこないそうだ、ここは彼らのテリトリーなのかもしれないな」


「気をつけましょう、刺激をさけるべきね」

アンのこの意見に全員が賛成した。



やがて小川が見つかりそこをさかのぼる、やがて小さな岩場の近くで湧き水が見つかった。

地図の通りの場所に湧き水が見つかり、メンバーの顔は明るくなった、メモの信頼性があがったのだ、それならば地図に記入された記号のある場所に調査を絞れる。


「皆聞いてくれ、ここを少し切り開いておこう」


ここまで街から6時間近く経っていた、帰りは道が出来ているので半分以下の時間ですむ。

ここを起点に台地の上にあるはずの遺跡をさがす、キャンプの周りの草や背の低い木を切り払い場所を作って行く。

キャンプ地の整備が進んだところでコンラートは作業の中止を決めた。


「このくらいでいい、今日はこの周囲を調査する、明日から地図に記された地点を一つずつ調べる、とりあえず休憩をとろう」

パーティは30分ほど休息をとり周囲の探索に入る、日は傾き始めているので日没まで3時間程だろう。


ふたたびコンラートとドーグが交代で森を切り開きながらキャンプ周辺の調査を始めた。

「この近くに奴らのキャンプ跡がありそうなんだがなあ、水源の近くと言うのは便利だしよ」

アイモが周辺を観察しながら誰ともなくしゃべった。


「キャンプ跡は炊事用の石積みの跡が残りやすい、遭難しているからテントやバックパックが残っているかもしれないぞ」

そこにコンラートが補足した。

そして一時間もしないうちに先頭で藪を切り開いていたドーグが大声を出した。


「おい!!何かあるぞ!!」

それは古びたテントの厚手の布だった。


「よし、この周辺を切り開くんだ、イェルドは見張りをたのむ」

「わかった」


エルフの魔法使いがクレリックに近づいた。

「アン、もしかしたら・・・」

「シーグリッド、三年前よあっても綺麗になっているわ」


(そうかこの世界では死ぬとリアルに後に残るわね)


パーティは遭難した探検隊のキャンプ跡を切り開いていく、テントが放置されたままでここに遺体が無いと言うことは、遺跡かほかの場所で遭難したと言う事になる。

もしくは何者かに持ち去られたかだ。


「テントが6人分か、頭数は合うな、他に何か手がかりがあるかもしれない、詳しく調べよう」


朽ちかけたテントを崩して調べていたシーグリッドがそれに答えた。

「炊事道具が見つかったけど、バックパックが無いわね・・・日記やメモが見つかれば良かっけど」


地下の遺跡の場合は普通レーションを食う、酸欠や危険なガスが出ているかもしれないので火は使えない。

普通は食材や炊事道具を運ぶより保存食料を持ち運んだ方がペイロード的に都合が良い、ここは辺境の街が近い、だが冒険者向けのレーションがここでは十分確保できない、ちなみに冒険者向けのレーションは軍用のレーションを高級化しただけのものだ。


半日で街にでれるなら一日潰して補給する事ができる、街で食材を買いここで調理して貴重なレーションを温存していたのだろう、炊事道具をわざわざ持ち込むという事はそういう事だ。


クエストによって人の街まで最低七日とかだと、狩猟採集しながら人跡未踏の地を進む事になる。

必要な物資が運べないので現地で調達するしかない、そうなると炊事道具が必須となる。


「これじゃあ遭難した探検隊のキャンプだと確定できない、もうすこし周辺を調べるコンラート?」

少し離れたところでキャンプ跡を調べていたアンが立ち上がり声を上げた。


「いや、日が落ちる前に食事をとって休もう、焚き火の灯が遠くから見つかるかもしれないからな」

昼間に見つけた原住民の矢を思い出し、その場にいたものはそれにハッとなった。


彼らはキャンプに戻ると早めの食事の準備を始めた、港町で仕入れた食材を調理する。

調理と言っても野菜やイモ類と海産物の干物などを鍋にぶち込み煮込むだけだ、調味料は岩塩しかなかった。

それでも冒険者ギルド謹製のレーションより遥かに美味い。

パーティの口数も少なく静かな食事となった。


やがて陽が落ちあたりが暗くなりはじめる、焚き火の火を消すとあたりはすでに暗くなり始めていた、夜空の星が瞬き始める。


どこからか猛獣の咆哮が遠くから聞こえてきた、それは狼とも違う聞き慣れない咆哮だ。

全員が不安げに聞き耳を立てた。


「あれをみろ!!」

イェルド小さな声で山を指差した。


台地の東側に聳える山岳地帯の三合目あたりにオレンジ色の光が灯っていた。


「あれは大きな篝火だわ、この島の原住民の村があるのかな?」

シーグリッドの声が震えていた。



(さて、クエストの詳細情報を確認したくなったわね、再生を停止するわ)




マスター視点からアバター視点に戻った、まるで夢を見てた見たいね。


コンソールを操作してクエストの詳細情報を確認する。


なるほど移動中に調べながら移動すると、あの矢が見つかる可能性があったわけね。

でも調べる能力が低いシーグリッドが見つけたのは皮肉ね。

矢が見つかることでプレイヤーに原住民の存在が意識される、他にも石器や加工された骨もあった様だけど見つからなかったか。

骨は加工された人間の骨なのでより強い警告になったわけか・・


焚き火を消したのは良い判断だったみたい、夜間の焚き火は原住民に発見される可能性があったみたいね。

これを毎夜くり返すといつか発見されるわね。











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