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ラストクエスト(1)

 丘を下っていく美しいアバターの後ろ姿を見送ってから、エレーネはふたたび丘を昇る、やがて一番低いところにある真新しい神殿に辿り着ついた。


「ここは新しいわね?」

口調や思考がエレーネの影響を受けている。


『一番新しい記憶を保存している神殿だ、神殿には容量が定められている、神殿は絶えず増やされる』

「いつか丘からあふれそうね」

『丘を拡張すれば良い、この世界を拡張する事もできる』

この世界とは世界の管理センターの事だろう。


「なんでもありなのね」


『世界が生まれた時すべてが一つの部屋に納められていた、記録の神殿もそこから別けられたのだ』


「丘の一番上の神殿かしら?」


『そうだ、だがあそこは閲覧禁止になっている』


もしかしたらβテストの頃の記録があるとか?


オンラインゲームの思考が抜けていなようね。


丘には神殿しか存在せず草木も無い荒涼とした禿山だ。

エレーネは故郷のエンシャント=グローリーの深緑の森と丘を思い出す、そこは10000年を越える古きハイ=エルフの故郷であり王都だった。


「私の故郷を懐かしむなんてあの森も現実か、でも私が作られたのは10年以上前だけど、この世界の歴史より新しい」


『この世界には数十万年の歴史があるが、この世界が作られてから君たちの時間で数年しかたっていない』

「じぁあ、過去の歴史もつくられたものなの?」

『その解釈で問題ない』


1万年の歴史があるエンシャント=グローリーも最近つくられたわけか。


『公式世界をベースに作られたマスターの設定は可能なかぎりこの世界に反映される』


やばいわね、いろいろと。


『チュートリアルはこの神殿で過去のプレイ記録を閲覧する事だ、好きな神殿を選び給え』

「一番新しい神殿でいいわ」

『それで良いのか?』


「一番新しい世界の状況を知りたいの」

『そう考えるマスターは多い、チュートリアルで選択できえる神殿は一つだけだが、マスターレベルがあがれば閲覧可能な神殿は増えていく』

「わかった、じゃあそこに入るわ」


エレーネは一番新しい神殿に向かった、白亜の大理石で作られた神殿は美しかった、未だに風化の後がまったく無い。

正面の開け放たれている巨大な扉をくぐると、神殿の奥に巨大な空白のパネルが空中に鎮座している。

縦横数メートルの巨大なパネルだ。

だがエレーネはとまどった何をすれば良いのかまったくわからない。


床の一部がせり上がり、その上にコンソールが現れる、それはマスター用の管理コンソールパネルを踏襲したデザインですね。


メニューにはマスターリスト一覧がある、マスター別に記録が管理されてるのだろう。

そこにはマスターIDとニックネームが羅列されている。

とくに特定のマスターを選ぶ理由が無いため、リストの一番上にある最新更新されたマスターを選択肢した。

そのマスターのニックネームは『しろいぬ』だった。


選択するとグランドキャンペーン配下に複数のキャンペーンとクエスト名が並ぶ、ツリー状の構成から全体のシナリオの流れが見える構造になっていた。

だがコンプリート済みのキャンペーンが一も無い、配下のクエストシナリオを見ると、最終クエストまでコンプリートされている。


これはプレイがあまり進んでおらず、プレイヤーもそれほど成長していないよね。

だが気になったのは最後のクエストシナリオのタイトル名の周りが赤く縁取りされていること。

最新のクエストシナリオの表示にしては「赤」はイメージがよろしくない、赤は警戒色だからね。


「何かしら?」


そこで他のマスター達のグランドキャンペーンを確認、でも他のマスターの最新のクエストは緑の縁に囲まれていた。

だがルーラーは先程から何も話さない。


そこで最初の『しろいぬ』のグランドキャンペーンを表示させた、思い切ってそれを指で触れてみる。

すると視界が突然変わる、チュートリアルクエストの仮想マスターモードとまったく同じ状態になった。


『これで君が選択したマスター『しろいぬ』の記録を参照できる』

先程から沈黙を守っていたルーラーが言葉を発した。


「このクエストシナリオの赤枠は何の意味ですか?」

マスターモードのはずだがアバターモードのエレーネのままなのは謎です。


『これはエレーネの視点で記録を鑑賞しているからだ、そして「赤」の意味はやがてわかる』


パネルは自分のマスターモードと同様に操作できる、だがすぐに気がつきました Read Onlyになっている事に・・・


まずはグランドキャンペーンの状況から確認する、冒険を始めたパーティがしだいにこの世界の裏で暗躍する勢力の存在に気がついていく、そんな導入部となる第一章のラストクエストまで進行していた。

このクエストの孤島の調査から次の展望へつながる重要な情報が手に入る。


キャンペーンの履歴から、彼らはホームランドの大陸で多くのクエストをクリアし、そこから得た情報を元にこの島にやってきたところだ。

彼らは今まで手に入れた情報から、孤島の失われた神殿の一つを探索し、3年前に行方不明になった探検隊の足取りを追い彼らが探していた物を見つけ出し持ち帰る事を依頼されている。


クエストガイドを参照すると、どうやらある島の奥地にある遺跡の探索がクエストになっている。

その孤島はホームタウンの迷宮都市から東に100キロ程の地点の海岸から50キロ沖合の島だ、それなりに危険な旅になる。


彼らのレベルは平均8~9といったところ、冒険に慣れる頃だが一番事故が起きやすい危険なレベル帯域ですね。

使える魔法の数とその質が上がり、冒険者達はそれに酔い始める、そして魔力を帯びた武器や道具を手に入れはじめ頃だ。

手に入れた魔法や武器を使ってみたいと言う欲求、効率の追求それが『せっかくここまで来たのだから少し先に進もう』『戻るのがめんどうだまた来たくない』それが落とし穴になる。


そして罠が問題になってくる、罠と言っても機械的なトラップも危険だが、それはプロがいて運が良ければ突破できる、でも悪意を持った知的な敵が作る「状況」こそ一番おそろろしい罠。


レベルが低い頃は人里に近い地域で行動する、下等な動物や亜人が相手で、そこにはあまりずる賢く行動する敵はいない。

冒険者の活動範囲が広がるほど頭の良い危険な敵と遭遇するリスクが増大していきます。


そうそう頭の良い敵は余力の無い敵を狙うものよ、これは当たり前の事ね。

盗賊団のリーダーなら、何も持たないピカピカのパーティと戦利品を担いだ疲れ切ったよろよろのパーティどちらを狙うのかは決まっているでしょ?

マスターが動かすNPC盗賊団がどう行動するかなんて決まっている、盗賊に関して街の冒険者ギルドで事前に警告されていたのに、哀れな人達・・・


スリープが余っていたから雑魚に使い切るとかありえないわ。


『家に帰るまでは冒険は終わらない』

『もったいないより命を大切に』


これは忘れないことね。


ちなみに最悪の敵は高レベルNPCです、私もNPCとして数多くのシナリオにいくども現れ、神託や標識や警告灯がわりに活躍してきたけど。

高レベルNPCは文明圏の中で組織の指導者である事が多いのよ、結社や宗教や国家や同盟の要人を務めていたりする、ラスボスが高レベルNPCと言う話はよくある事です。

高レベルの魔法より軍隊や冒険者ギルドを動かす権力の方が恐ろしい事もあるのよね。



今度はクエストに関連する詳細な情報をパネルに呼び出した、この島には中央の嶮しい山岳地帯に古い遺跡が集まっています、今も新しい遺跡が発見され続けていて、神の試練が集中する島と知られているようね。

クラシックD&Eにもこの島は存在していたけど、この世界ではダンジョンそのものがリポップするのだから凄いわね。


『原因は複数のマスターのシナリオが交差するからだ、複数のマスターのシナリオが重なり合うほどそれが現実に固定化され自由度を失っていく、複数のマスターが島の環境を作り上げたのだ』

ここでふたたびルーラが介入してきた、自分がチュートリアル中だった事を思い出す。


『マスター達が世界の歴史を作る、時に国家すら生み出すのだ、世界の理に反しない限り不可能はない』


(マスター同士で派閥とかあるのかしら?)


『存在する』

詳しく聞きたかったが、ルーラーは詳しくは教えてくれない、そんな予感がした。


『いずれ知ることになるだろう、今は言えぬ』


(やっぱり)


気を取り直してクエストの確認をする、この島のクエストは中堅冒険者の入り口向けだ、最深部に上級拡張セットの迷宮が用意されている、この迷宮をチラ見せして今後の伏線にしていますね。


マップなどを確認するとメインの迷宮を数度の攻略でギミックを解除し先に進む事を期待した設計、むしろ力攻めは死を招く。

安全地帯を作りながら慎重に進めば壊滅する事はまず無い、拠点の街と何度か往復する事を前提としている。

そのほかにジャングルの中には危険な爬虫類や巨大昆虫の巣などがあり、島の山岳地帯に住む原住民もいる、人口100人に満たない部族だがパーティには深刻な脅威になる、彼らの呪術師(Lv8 Wiz)が特に危険ですね。


パーティ情報を呼び出します、パーティはバランスの良い構成だ、神のお導きかと疑うぐらい、まあルーラーが紡いだ世界の強制力でしょう。

あえて言うなら盾役と比べて回復が弱いかな、でも歪な構成と言うほどでもないか、僧侶があと一人欲しいなら僧侶を雇うなどして補強したいですね。


パーティの概略は以下の通り、詳細情報は必要になったら見ましょう。


Lv9 戦士 コンラート (人間男Low,Neutral)

Lv8 戦士 ドーグ (ドワーフ男Neutral,Neutral)

Lv7 魔法剣士 イェルド (エルフ男Low,Good)

Lv10 盗賊 アイモ (ハーフリング男Chaos,Good)

Lv9 僧侶 アン=マリー (人間女Low,Good)

Lv9 魔法使い シーグリッド (エルフ女Neutral,Neutral)


今冒険者達はその島の唯一の文明の足がかりである港町ハービィのギルドに集結していた。

他にパーティが居ないか確認すると、難易度の割に交通が不便な為か彼ら以外のパーティが1つしか島にはいないようだ。


だいたい概要がわかったのでとりあえず記録を再生しましょう。

アバターを通して他のマスターのマスターモードを参照するからかなり混乱している、エレーネのロールプレイ自動再現機能の強い影響を受けていますよ。


視点がパーティ自動追尾モードに移行した、いよいよ冒険が始まるわ。








ハービィの冒険者ギルドに彼らは集結していた、そこに真新しい金属鎧を着た二十を越えたぐらいの女性が入ってきた。

「コンラート、アンが戻ってきたぞ」

繊細な面立ちのエルフの魔法剣士らしき男の言葉で、若い戦士が顔を上げた。

エルフの魔法剣士がイェルド、人間の戦士がコンラートだね。


「アン、どうでしたか?」

コンラートにはアンへの敬意が感じられる。


アンは長身で逞しく頑強な女戦士に見える、だが装飾品とマントの記章が聖職者である事を示していた、

彼女は重い装備と武器に負けない力と体力の持ち主ですわ、戦う聖職者は教会の修道女とは人種が違うわけよ。


「良く聞いて、ここの教会は蘇生は無理」

「田舎の島にそんな高位の僧侶がいるとは思わないけどね」

魔法使の細身の少女がボソリと口を開いた、彼女の体格と耳がエルフ族だと主張している、見かけより遥かに長く生きています、でも私より少し若いかな、彼女が魔法使いのシーグリッドね。


「ふん、いないなら慎重に行けばいい」

髭もじゃで背が低いが胴回りが身長ほどもありそうな男が憮然として吐き捨てた。


この男がドワーフ族のドーグ。

見かけはおじさんに見えるけど本当は若いの、ドワーフ族の特徴として人の目から男も女も老けて見える、可愛そうな人達だわ。


小柄な子供のような体格の男が我関せずと装備の手入れをしている。

彼がハーフリングの盗賊のアイモですね。




「じゃあいこうか、今日はルートの開拓と偵察が中心だ」


人間の戦士コンラートが立ち上がった、濃いブラウンの髪に同じくブラウンの瞳をしている、容姿は地味だが非常な長身で優に190に近い、使い込まれたハーフプレイトの鎧が鈍く光る。

武器は腰に差したバスターソードで両手でも片手でも仕える剣だ。

小型のラウンドシールドをくくり付けた背嚢を背負った。


ギルドから出ていく彼らを追うように視点が移動していく、これは記録なので自由に視点は変えられない。



もしかして仮想マスターの時みたいに早送りできる?

見ると同じ場所にコントロールパネルがある、それも停止やバックアイコンまでありますね、過去の記録だから一時停止も戻る事もできるのでしょう、しばらく感動に浸っていた。








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