現実を知る第7話
入学式を終えた教室で、喉元過ぎれば熱さ忘れるというが、失禁する者すら出そうな校長の威圧を受けたにもかかわらず私はもみくちゃにされかけた。正直子供のバイタリティを舐めていたともいえる。しかも女の子だらけだから性質が悪い。
担任の先生がなんとか全員名前順に席に座らせ、自己紹介を始めるまでに10分は優に掛かっただろう。むしろ毅然とその程度の時間で学童を仕分けた担任に敬意を払う程である。
名前だけでキャーキャー言われ、あれもこれもと質問される時間は恐らく今生はおろか前世を合わせても上位に位置するだけの疲労感を私に与えた。パンダであってもここまでは騒がれまいという確信に近い考えが頭を過る。
ぜひ一緒に記念撮影をなどと迫る母親の迫力も中々にクるものがあり、結局その日校長先生含む数名の先生に引率されて家へと帰ったのは日が暮れるほどの時間。やっと1人になれた事にほっと一息溜息をつくも、気が抜けたためにどっと疲れが押し寄せる。
正直このまま適当なところで寝てしまいたいくらいであるものの、それ以上に今必要なことがあるのも事実であった。何はともあれ常識について、この世界の事について知る必要があった。そしてその手段についても都合よく手に入れていた。
居間で椅子に腰かけながら入学祝にと送られた情報端末、前世で使っていた携帯機器に比べて格段に高い性能から最初はただの未来だと思った原因の一つ、を操作する。調べる物は簡単な歴史や社会的な常識、特に男に関しての情報である。
時間にして1時間もしない程度だろうか。デフォルメキャラクターが簡単な説明をしてくれるものから学術書のような堅いものまで、多種多様な情報が異口同音に伝えてきたことは、少なくともこの世界は元の世界とは違う世界だという事であった。
生物として種をまくだけのオスは数が少なく、実際に子供を産むメスが多くなるのは自然なことだとか、人間が幼少期女性の方が成長が早いのも狩りや戦争をするメスが出来るだけ弱い時期を減らすための自然の摂理だとか、変に共通事項があるだけに違和感が仕事をする。
太古の昔から男は大勢の女と共に過ごし、一昔前は100人単位で結婚することも珍しくなかったとか、貴重な男性の負担を減らせる人工授精の発達により法律上成人までに最低5人と結婚していれば構わないとか、もはや乾いた笑いすら出てくる。
元の世界の視点では男女比の狂った、しかしそれが自然であるこの世界では私の感性こそが異常である事実。当然だが、一人で出歩くなどもう想像すら出来なかった。