面談もどきの第5話
「校長先生、安藤君を連れてきました」
「どうぞ入って」
連れてこられたのは本当に校長室であった。どことなく豪華というか荘厳というか、流石にそれは言い過ぎであるものの何となく雰囲気の違う部屋であることは理解できると思う。まさか新入生全員と面談するわけでもあるまいし、何故呼ばれたのだろうか。
「初めまして、おはようございます」
「あら、初めまして。私が校長の恵美です。えみ先生でも校長先生でも好きなように呼んでね」
「じゃあ安藤君、そこに座って頂戴」
とりあえず挨拶してみた後、言われるままにソファーに腰掛ける。ほとんど反発せずに沈み込みそうになるところをなんとか倒れないように抑え、失礼のないようにキリっとした姿勢を保つ。きっと高いソファーなんだろうなぁなどと考えていれば、校長先生が微笑んでいた。
机を挟んで対面して改めて見てみれば、先ほど私を案内してくれた先生は副校長か担任か、基本的には校長が簡単に物事を頼める関係なのだろう。こそこそと耳に何かを話し、それを聞いている内に一瞬校長先生の顔が青ざめた気もした。
「ひ、一人で学校まで来たの? お母さんとか一緒に来てくれなかったの?」
「どうしても着いて来ようとはしてましたけど、お仕事に行ってもらいました」
その顔を言葉にするなら何言ってんだこいつ、もしくはマジかよこいつ、といった辺りだろうか。砂漠の真ん中で水筒の水をぶちまける人間を見る目つきである。それほどまでに常識はずれなことをしたつもりはないのだが。
「男の子が一人で出歩くのはとっても危ないから、明日からは他の人についてきてもらいなさい」
「? はい、わかりました」
言っている意味が正直わからないが、ここで下手に反抗したところでメリットもないし、実行するかどうかは別としてとりあえずはいはい返事をしておく。
「ところで、どうして僕は校長先生に呼ばれたんですか?」
「そのお話の前にちょーっと言いたい事もあるのだけれど……まあいいわ、それじゃあ安藤君に質問があるのだけれど」
お小言の気配を匂わせつつもどうやら本題に入ってくれるらしいと身構えた私に投げかけられた質問は、正直私にとっては意味のない質問であったが。
「小学校のクラスなんだけど、他の女の子も居るのと1人で授業とどちらが良いかしら?」
「他の人と同じクラスでお願いします」
「そうよねぇ、やっぱり1人のほうが安心……あら? 今なんて?」
「他の人と同じクラスでお願いします」
即答である。むしろ若干食い気味ですらあった。何が悲しくてボッチにさせられなきゃいけないのだろうか。施設っぽいところ出身だからってそれはあんまりな処遇であろう。精神年齢的に対等な友人とはなかなかいかないが、さすがにそれは心が病む。
更に数回の問答があり、私は普通のクラスに入ることになった。校長先生はいったいどれだけ私を隔離したかったのだろうか。その答えがわかるのはそれから程なくしてのことであり、真の意味で気が付くのはそれよりも後の事であった。