小学校だよ第4話
初めて『帰った』家は意外にもアパートの一室などではなく普通に一軒家であった。母との二人暮らしとなるその家にはどことなく生活臭が無く、簡単に言えば新築に引っ越しましたと言わんばかりの一軒家であった。
それほどの収入があるという事なのだろうか、私の前では最近さらにぽやぽやする事の多くなった、むしろ溶けていると思える時すらあるものの家族の贔屓目を抜きにしても美人の母に私だけ残したと思しき推定父の愚行に驚くばかりだと、この時は本気で思っていた。
バリバリのキャリアウーマンの如く確かに平素仕事に出ていてまるで父親のようだとは思ったが、それでも片親であるにもかかわらず(前世ありの上にほぼ施設育ちとはいえ)一人息子を養育するために一生懸命に働く姿は尊敬に値するものだった。
というわけで、今日から小学生として一般社会にデビューする私を必要以上に感じるほど心配する母に魔法の言葉を掛けて仕事へと送り出した私は、記憶の上では二度目となる学校への道を踏み出したのである。
部署の移動か知らないが今日から職場が変わるという話を聞いていたのに私に同行すると言ってきかない母に流石にそれはまずいだろうと説得を試みた結果、理性的なお話よりもおだてる感じでおねだりした方が効果が高いと分かったのは複雑であったが。
ピカピカのランドセルにじゃらりと垂れ下がるごつい防犯ブザーに大げさなものを感じつつも、片道10分もかからない通学路をのんきに歩く。入学式という事で指定された時間は普通より早く、そのおかげか他の児童を見かけない。
それどころか散歩する人間も含めて誰とも遭遇しないまま学校へと辿り着く。人の少ない地域なのかとも考えたが、それにしては大きな学校だけにほんのりと違和感を覚えるも、こちらに駆け寄ってくる先生と思しき人物に対応するために流す。
「おはようございます、安藤優です。今日からよろしくお願いします」
「安藤君ね! ……あら? お母さんは? まさか一人で歩いてきたの?」
「はい」
何かまずかったかと首をかしげるも、こちらとしては目の前の驚愕と混乱についていけそうにない。何事かをぶつぶつと呟く先生は明後日の方向を見たかと思えば再起動したのできっと問題は無かったのだと信じたい。
「じゃ、じゃあついてきてくれるかな? 校長先生とちょっとお話をしてもらうから」
「はい、わかりました」
承諾を返すものの、内心では疑問を感じていた。やはり何かやらかしたのだろうか。