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8.間違えました

 

「あれー、ここどこだろう……」

 駅だ。間違いない、ここは駅である。駅なのだが…………知らない駅だ。

 どうしよう。

 …………どうしてこうなった?



 ようやくギプスが取れ、あんなに仲良しだった松葉杖ともさよならした先週末。じゃぁ週明けからは電車通学ねーそうだねーと母と言い合っていたのはその帰りで。


 速攻、恵に連絡を取り月曜の電車通学に付き合ってもらった。なぜかナギも一緒にいたが、普段から一緒に登校しているらしく朝が早いにもかかわらず付いてきたそうだ。

 それが昨日のことである。


 早めに来てもらい定期を購入し、路線と乗り換えを教えてもらった。一度乗り換えるだけの簡単な道順だった。

 簡単だし覚えられるだろ?と言われ、うんと頷いた自分を責めてあげたい。一人で挑戦するには一日では足りなかったよ、と。


 一つわかることは、乗り換える電車を間違えたということ。乗り換えた際の進行方向が逆だったことで発覚した。発車直後に、あ、これ違うと思ったが降りることもできず。


 昨日とは違う流れる車窓を呆然と眺め、停車した駅で降りたものの、さぁどうしよう!

 恥を忍んで恵に迎えに来てもらう一択しかないじゃないか!今はまだ早い時間帯だから、今連絡すればどうにかして迎えに来てもらえないかな!?またバカだと言われてしまうけど!覚悟の上だ。


「……あ、理人先輩にも連絡しておかないと」

 昨日は定期を買うのに時間を食い、ラッシュ時と重なってしまった。混み合う車内は物凄く窮屈で息苦しかった。これを毎日とか絶対耐えられない。無理だ。なので、翌日からは早い時間帯の電車に乗ろうと決めていた。早起きはこの二ヶ月でかなり慣れてきたし、その予定だったから理人先輩と図書部の朝の活動を約束していた。

 だが、どうしたって間に合わない。

 恵に連絡を取った後で理人先輩にも連絡を入れないと。



 あの日、理人先輩に図書部に勧誘され、恵や伯父さんに部活に入りたい旨を相談すればあっさり了承をもらえ。運動部じゃなければ大丈夫だよ、との返答に、ちょっと渋られるかもと内心していた心配は杞憂に終わった。

 その代わり、恵とナギからはあの先輩本当に大丈夫なんだろうな?と念押しされた。


 多分、その日の朝、抱えて教室まで連れて来られたことを心配しての言葉だろう。大きな声で喋れない内容だからナギと三人、頭を付き合わせての討論となったが、一時間目終了後の休み時間に言葉通り松葉杖と読みたかった本を届けてくれた理人先輩に特に変わった様子は見られなかった。


 本にテンションが上がってよく確認してなかっただろう、と恵に指摘されたがナギがまーまーとナギの見解も交えて援護してくれたお陰で、多分バレてない、そう結論付けた。


 ついでに理人先輩の苗字もそこで判明。

 佐武くんが知っていたようで、ようやく一日振りに宿題の答えを解くことができた。ありがとう佐武くん!お礼に“あまちか”を進呈した。


 そして次の日の昼休みに入部届けと宿題の答えを携え図書室へ向かった。……読み終えた本も持って行ったら、夜更かししたことがバレて軽く注意されてしまったが。


 理人先輩の名前を絶妙に間違えるという恥ずかしい出来事もありつつ、何はともあれ無事図書部に入部することができ、先輩の名前は理人先輩呼びで固定された。


 基本、部活は放課後で活動日は自由。たまに新書整理やデータ管理をする時なんかは朝出てくるらしい。と言っても、朝に活動するのはほぼ理人先輩だけらしく、無理して付き合うことないよと部長に言われている。母の車で登校している間は時間に余裕があったので無理はしていなかったが。


 そして今日もそんな理人先輩と朝の活動の約束をしていた。昨日の電車より少し早いやつに乗ったのだが、…………それがいけなかったのだろうか。


「あ゛ーーー恵のバカァーーー全然簡単じゃないじゃんーーー」

 ポケットからスマホを取り出し、一言も二言も文句を言ってやろうと発信履歴の一番上にある番号をタップする。数コールの後繋がった通話に、周りに迷惑が掛からない程度の心持ち大きな声で文句を言い募った。


「恵のバカ!全然簡単じゃない!もームリ!わかんない!」

 相手に口を挟む隙がないくらい次から次へと出てくる文句が尽きかけた頃。今まで静かだった電話口から笑いを堪える声が漏れ聞こえた。

「恵?」


 てっきり呆れたようなため息を吐かれるものだと思っていた。恵って文句を言って笑うようなヤツだっけ?なんて考えは、聞こえた声でどこかに飛んでいってしまった。


『ククッ、………………おはよ、りっちゃん』


「へ?」

 耳元で聞こえた声に思わず固まる。身体も思考も、時間さえも。


 え、誰だこれ、いや知ってる声だけど、予定していた声じゃない。あれ、ヤバイ、どうしよう……。などと混乱していたから、

「恵……じゃない……」

 ボソリと呟いた声は当然相手にも聞こえ。

『うん、俺、恵くんじゃないね』

 優しくやんわり、訂正された。


『どうしたの?朝から恵くんと何かあ「ギャー!理人先輩ごめんなさい間違えまし、いや間違ってないけど!間違えましたー!!」……うん、落ち着こうか?』

 やらかした!

 通話相手はちゃんと確認しよう、そう心に決めた朝だった。



 寝坊して出遅れてしまった理人先輩に感謝しつつ、今いる駅まで迎えに来てくれると言われた時は心底ホッとした。聞いたところでどの電車に乗ればいいのか分からないのがオチだった、きっと。


 一応遠慮して、わざわざ遠回りしてまで迎えに来なくても、と言ったところ、どうやら家もこの近くのようで。盛大に安堵し、え、遠くね?と思ったが理人先輩より遠いのでダンマリを決め込んだ。


 そこから待つこと十分。

 そこそこ人が多くなってきたホームで、理人先輩を見つけるのは簡単だった。


 うん、抜きん出ている。そして目立っている。……あれ、これって必然的に一緒にいる人も目立つパターンじゃね?ノッポとチビ。いや、イケメンとモブ?……どちらにしても目立つのはゴメンなんだけど。でもこっちから頼んでおいて理人先輩を遠ざけることは出来ない。あぁ、なんて無意味な葛藤。ごめんなさい理人先輩、僕なんかのせいでわざわざ一つ手前の駅まで出向かせてしまって。やっぱり理人先輩は優しくてカッコイイな。


「りっちゃん、おはよ」

「おはようございます、理人先輩。わざわざすみませんホントありがとうございます物凄く助かりましたやっぱり理人先輩は神ですね!」

「うん、りっちゃんが方向音痴だってことがよーく分かったよ。一人で特別棟行けないでしょ?」


 苦笑いで失礼なことを聞いてくる理人先輩にムッとしながらそれくらい行けますよーと言いかけ、そう言えば一人で行ったことあったかなと考える。

「…………行けますよ、……………………たぶん」

 あれ、ないかも?


 入学して二ヶ月余り、どこに何の教室があるのか、それなりに校内にも慣れてきた。使ったことのない教室も勿論あるが、移動教室の際に周りの教室にも目が行くため大体は把握している、ハズだ。


「一人で行ったことある?」

「……………………ナイデスネ」


 あれ、一人で行けるところって図書室と保健室くらいかも?そのどちらも教室のある棟だから、一人で動く行動範囲ってもしかして狭い?


「……なら、絶対に、一人で行かないように。必ず誰か、友達と行くこと。……いいね?」

 苦笑いから一転、真剣な顔で言ってくるものだからそこまで念押しする事かな?と思ってしまったのは事実で。だけどその顔がなんだか本気だ。心配されているのだろうけど一言一言に重みがあって、そして顔が怖い。


「律、返事は?」

「っ!ハイ!」

 思わず返事をしてしまったのは、顔が怖かったからだ。決して名前を呼ばれたからじゃない!断じて違う!ドキドキよ収まれ!


「うん、ならそれと同じで、電車も一人で乗らないこと。わかった?」

「え?……え!それは無理「あ、りっちゃんこれに乗るよ」あ、ちょ……」

 慌てて理人先輩の後を着いて行く。


 降りてくる人を待ち、理人先輩に続いて乗ろうとしたら後続の人に急かされた。

 ちょ、押さないで!足がもつれ……

「あ!っぶ!」

「りっちゃん、大丈夫?」


 理人先輩の背中に顔面ダイブしてしまった。メガネが顔に食い込んで何気に痛い。

「すみませ……」

「いいよ。ごめんね、先に乗せればよかったね」

 言って身体をずらし、背中を優しく押され理人先輩の前に押し出してくれる。

「次で乗り換えるけど、座る?」

「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」


 完治とまではいかないが、激しい運動さえしなければ通常の歩行なら違和感なく歩くことができるようになった。心配してくれているのだろうが、今まで使っていなかった分、慣らすためにも楽はしたくない。


 すぐ下車できるよう昇降口近くに立つ。ラッシュの時間が近いのか、座席は所々歯抜けに空いているだけで立つ人もそれなりに多い。これで満員になれば出入りだけで一苦労しそうだ。やっぱり早い時間帯に乗るに越したことはない。


「昨日も一人で乗ったの?」

「いえ、昨日は初めてだったので恵にお願いして、ナギと三人で。二人とも路線自体違うので、もともと今日から一人で通学の予定だったんですけど……」

 見事に間違えました。


 自分の失敗を改めて話すのって恥ずかしい。呆れられたかなぁと思ってチラリと見上げた理人先輩の顔は、予想に反して曇っていた。


「りっちゃんは一緒に登校する友達はいないの?」

「え?……あ、はい、地元の子たちはみんな近くの高校に行きましたから……。一宮ってちょっとが遠くて、同じ高校なら地元の共学にって感じです」

「……まぁ、だよね。わざわざ遠い学校選ぶなんてワケありくらいだよね」


 はははは、正にワケありですが。そう言う理人先輩もワケありの口なのかな?電車で一時間ってそこそこの距離だよね?


 疑問丸出しの顔で見ていたのが分かったのか。

「俺はダチに誘われて。まだ会ったことないと思うけど、そいつも図書部」

 理人先輩はあっさり暴露してくれた。


 え、これって自分も暴露しないといけないヤツ?さっきに引き続き自分の失敗を話してばかりなんだけど。


「りっちゃんもワケありでしょ?でないと一人で電車乗れないのに電車通学の学校なんて選ばないよね?」

 今回のことで一人電車が苦手……と言うより出来ないとバレて(乗り継ぎ前までは一人で乗れたけど!)しまい、さらにワケありだと気付かれてしまい。

 これ以上の身バレは防ぎたいものだ。


「僕は……受験に失敗したと言いますか……そもそも受験すら参戦してないと言いますか……、二次募集しか残されてなかったんです……足のことがあって……」

「あぁ、今年の雪は酷かったもんねー。俺の兄も屋根から落っこちたし。りっちゃんよりは軽傷ですぐに完治したけど、若さを過信して休まず隣近所の雪掻きしたのはバカだったね」


 自分家の雪掻きに加え隣近所もですか。それって若くても体力的にどうなんだろう。そもそも雪掻きすらしてない身としては見当もつかない。


 体力あるんですね、と当たり障りのない言葉を掛ければ、筋トレが趣味のお兄さんらしく理人先輩もたまに付き合わされているとか。だから軽々と抱えて運ばれた訳ですね。納得です。とんだとばっちりだ、まったく!


 その後すぐに着いた次駅で乗り換え、やっと気持ち的に落ち着くことができた。

 選り取り見取りとはいかないが、空いていた出入り口横の端席に理人先輩と二人で陣取りため息をつく。疲れた。焦りと不安からくる気疲れだろう。理人先輩には感謝しかない。今度“あまちか ”を進呈しよう。


「理人先輩、今日はありがとうございます。理人先輩が寝坊してくれたおかげで迷子にならずにすみました」

 寝坊の理由はわからないが、たぶん夜更かしだろう。電車に揺られながら眠そうにあくびをしている。


「いいよ、それよりも明日からはどうする?一緒に行く友達とかいないなら一緒に行く?俺はいつも一人だから全然構わないけど」

「……理人先輩って、面倒見がいいですよね。まぁ、僕が鈍臭いってのもあるんでしょうけど。いつも助けられてます」

 初めて会ったときから理人先輩には助けられている。これで歳が一つしか違わないのだからビックリを通り越して自分に呆れてしまう。どんだけ子供なんだ、自分は。


「……俺、三兄弟の末っ子でさ。兄と姉がいるんだけど、二人とも歳が離れてて、小さいときから構われまくってたんだよね。それを見て育ったからか、小さい子とか見るとついつい構いたくなるんだ。たまに甥っ子姪っ子が来るんだけど、ちょーかわいい」

「…………」


 あれか、僕はその甥っ子姪っ子と同等の立場というわけか。小さい子がかわいいというのは下に十一歳年の離れた弟がいるから分かるし構いたくなる気持ちも分かるけど。


「あ、もちろんりっちゃんもかわいいからね?」

「かわいくないのでそれは置いといて、理人先輩の負担になりませんか?て言うか、すでに負担になってませんか?これ以上迷惑掛けるのは……」

「さっきも言ったけど、一緒に行くのは全然構わないし、むしろ話し相手がいる方が俺は嬉しいよ。それとも、りっちゃんはどうしても一人で行きたいの?乗り間違える心配をしながら一人で行くのと、一人で乗れるよう覚えながら俺と行くのと、りっちゃんはどっちがいい?」

「…………」

 ……正論だ。僕の遠慮からの言葉に、理人先輩は正論で返してきた。くそぅ、言い返せない。二択を提示しているのに、これは実質の一択じゃないか!


「りっちゃ「理人先輩ッ!」……うん、どうぞ?」

「あ、すみません、あの、明日からもよろしくお願いします!」

「……うん、よろしく。ちなみに今日の帰りは大丈夫なの?」

「…………」


 訂正、今日からご指導のほどよろしくお願いします!




 追伸:

 途中で乗車してきた恵とナギに出くわし、理人先輩と一緒にいたことで察した恵に「お前、バカだな」と呆れられました。

 違うんです、方向音痴なだけなんです。




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