3.僕っ娘
短いです。
「初めまして!橘渚って言います!ナギって呼んでね!恵から話は聞いてるよ!恵とは小学校からの親友なの!」
うわーナニコレ。どぎついのキタコレ。
第一印象にも驚いたのに口を開いてから更に驚いた。ビックリだ。思わず差し出された手を握ってしまうくらいの仰天ものだ。
あ!これがさっき鳴海先生が言ってた不確定用語か!
「……ただの幼馴染みだ。コイツが前言ってたヤツ」
「あ……あぁ、……うん、コレ、なんか……、イケそうな気がする……」
「だろ?」
ニヤッと口の端を上げて笑う恵くんの顔はイタズラが成功した子供のようだ。狙ってたな、コイツ。むしろこれ、適任以外の言葉が出てこないんだけど。
よくぞまぁこんな逸材が近くにいたものだ。
女である私より女子らしい可愛い顔に口調まで女子らしい。声変わりはしているはずなんだろうけどそこいら辺の男子より明らかに高いアルト声。
「ね、りっちゃん、お菓子食べない?今日から登校するって聞いて僕お菓子作ってきたの!好みがわかんないからクッキーにしたんだけど……クッキー好き?」
ナンダコレ。
可愛い袋に綺麗にラッピングされたクッキーを差し出す僕っ娘ナギくん。見た目だけじゃなくて中身も女子っぽいね!しかも手作りクッキーとかどんだけ女子力高いの!私の女子力そこまで高くないよ!
「ビックリだろ!俺も一瞬女か!って思ったぜ」
近くにいた男子に話しかけられた。
『女』と聞いてギクッとするが多分これ大丈夫だ、私のことじゃない。あ、ヤバイ、一人称がまた戻ってる。僕僕僕僕ボク……。
「なぁ俺にもくれよ。腹減ってきた」
「これはダメ!これはりっちゃんにあげるために作ったんだから!他の人はこっち……」
ガサゴソと鞄の中を漁りながらナギくんは大きめのタッパーを取り出す。
「ほら、こっち!一人一枚ずつね!」
「足りねーよ!」
「入学式にみんなにもあげたでしょー?今日はもうそれしかないよ!」
「ちぇー」
文句を言いながら受け取ったタッパを持てば、途端ゾロゾロと群衆が押し寄せてくる。うわぁ、炊き出しに並ぶ人のようだ。
「はい!これりっちゃんの!今日からよろしくね」
「あ、ありが、と。……ね、そのりっちゃんって呼び方……」
やめてほしいんだけど。
そう言ったら盛大に残念がられた。いや、不安要素は少しでも少なくしたいし。
「えー!かわいいじゃん『りっちゃん』って!恵は絶対ちゃん付けで呼ばせてもらえなかったから僕楽しみにしてたのに!イヤだ!僕絶対りっちゃんって呼ぶんだから!」
えー、なにこの子。
どうしようと恵くんを見れば、彼は無言で首を振っていた。
えー。
「諦めろ。ナギはああ見えて頑固だから」
「イヤでも恵くんは呼び捨てじゃん」
「俺は頑として譲らなかったからな。それに小学校の時だし。あいつ気に入ったヤツには大抵ちゃん付けしてるぞ」
「うん!そう!だからよろしくね!りっちゃん!」
えぇーー。
そんなやり取りをしている間にいつの間にかタッパーは空になっていた。え、まだ一時間目も始まっていない朝からお菓子食べたの?
「それから律、お前のくん付けも要らないから」
ちゃっかり自分の要求も入れてくる辺り、恵くんも抜け目ない。半眼になって見るも素知らぬ顔をしている。
ハイハイ分かりましたよ!恵には今日からお世話になるし言うこと聞きますよ!わた……僕は自分で自分のボロを出さないようにだけ気をつけることにするよ!
くそー!慣れない!
「恵のバカ!」
言葉使いも環境も、慣れないことだらけで恵に八つ当たる。でもまぁ、さっきまでの心配は確実に吹き飛んでいる。この僕っ娘ナギくんのおかげで。
このクラスならなんとかやって行けそうかな。




