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2.高校生のお守り

 

 四月も半ばを過ぎれば、あれほど綺麗に咲き乱れていた桜はすっかり青々とした若葉に変貌を遂げた。できればもう少し花の時期を堪能してみたかった。たった一日しか見れなかったなんてとても残念すぎる。

 入学式自体には参加できなかったけど、折角だからとこっそり保護者席の隅で母と式は見ていたのでなんとなくどんな雰囲気なのかはわかる。

 言うなれば、むさい、臭い、華がない。

 さすが男だらけの男子高だ。


 もう既に回れ右して家に帰りたくなったくらいには抵抗感が半端ない。そこをなんとか押しとどめ、私は玄関前に佇む先生こと伯父さんに声を掛けた。

「おはようございます」

「はい、おはよ…………ん?律ちゃんかい?あ、いや……、律くん……、いや、片瀬くん……の方がいいのかな?」

「呼びやすい方でいいですよ、伯父さん。……じゃない、喜多川先生、今日からよろしくお願いします」

「あ――うん、そうだね……。公私混同になりそうだから片瀬くん、だね」

「……はい」

 公私混同って……恵くんがいる時点でそれは成立するのか?しない気がする。ま、指摘はしないけど。

「前も言った通り、最大限、協力はするから何かあれば直ぐ声を掛けるんだよ?」

「はい、分かってます」

「うん、じゃぁ行こうか。下駄箱はこっちだよ」

 最初の難関である下駄箱までの数段ある階段を伯父さんの手を借り登る。……これは帰りも誰かの手を借りないと不安かもしれない。後で恵くんに相談してみよう。


「それにしても化けたね。一瞬誰だかわからなかったっよ」

 職員玄関で靴を履き替えた伯父さんと合流し、二階にある職員室へ向かう途中。

 松葉杖を使う私の歩調に合わせてゆっくり歩きながら、伯父さんは周りを気にしつつ心持ち小さな声で私に話しかけてきた。

 そう言えばこの姿を伯父さんに見せるのは初めてかも。

 学校側の計らいで同じクラスらしい恵くんには少しづつ進んでいる授業を教えてもらっているのでこの姿は披露済みだ。前回のごとく、前回よりタチが悪いことに大爆笑を巻き起こしてくれた恵くんには前回同様、拳骨をお見舞いしてあげたのは十日ほど前のことだ。

 コンセプトは内気なモブである。この姿でとにかく一年を乗り切る予定だ。


「恵くんにも絶対大丈夫って言われました。メガネも黒縁にして顔隠すようにしてますし」

 もともとメガネっ娘ではあったのでメガネに違和感はないものの、初の黒縁なので視界の隅に映り込む黒いフレームが存在を主張していてそれに違和感を感じる。……慣れるしかない。

「そうだね。第一印象が眼鏡に取られて女っぽさが薄らぐ感じはするね。それでも気をつけるに越した事はないからね。わたしから提案しておいてアレだけど、本当に気を付けて。恵にも言ってはあるけどあいつは高校でも部活に入るみたいだし、ずっと見てる事は難しいだろうから」

 わかってますとも。

 一応それを考慮して、もう一人私の事情を知る同級生を今日恵くんに紹介される予定である。何でも小学校から付き合いのある幼馴染みらしい。

 私は首だけ動かして頷き、恵くんも不憫だなぁと思った。実は親戚といっても血の繋がりも随分と薄い、遠縁も遠縁、辛うじて法事なんかの集まりで数年に一度会う程度の関係でしかなかった。なのでまともに顔なんて覚えていなかった。

 それがまさか高校に入って親戚だからと私のお守りをさせられるなんて誰が思っただろう。私だったらびっくりだ。高校生が高校生のお守りをするなんて。

 伯父さんに連れられて病院で事情を説明された恵くんの何とも言えない顔が、毎朝私の髪をいじる父の無言な顔と同じでなんだか申し訳なかった。

 今のところ、こんな足だから部活に入る予定はないけど放課後はだらだら残らず直帰してあげたほうが恵くんのためか。でも行きと違って帰りは父も母も仕事のため基本電車で帰ることになる。今まで電車もバスも人任せで一人で乗ったことがない私が果たして一人で家まで帰れるのだろうか。……不安しかない。ここはやっぱり恵くんに頼るしか道は残されていない。お守り決定だ。ゴメン。


 そんなこんなで私は校長と教頭に挨拶をし、クラスの担任である教員歴四年の女性教諭と額を付き合わせて口裏合わせの確認をし、その後に今後お世話になるだろう保健室の場所を教えてもらい校医の先生に挨拶をして教室へ向かった。

 ちなみに、校医の先生はスタイル抜群の美人先生だった。胸がでかかった。羨ましい。自分の寸胴と比較して……悲しくなった。

 担任の鳴海先生はどちらかと言うと可愛らしい愛嬌のある女性だ。二人が並んでいると目線は校医の奈々湖先生にいってしまうが、決して私みたいなぺったんこな胸でも太っているわけでもない。まぁ、私みたいなモブと比べるなんて痴がましい、清楚でキレイな先生だ。奈々湖先生が目立ってしまうだけで。

「喜多川くんと親戚なのよね?席替えはしてないけど席は喜多川くんの前よ。席替えは月末にする予定だけど、その時も席は近い方が良いわよね?」

「はい、ついでに言うと目も悪いので前の席が良いです。できれば端っこ希望です」

 まだしばらくは松葉杖生活が続くことを考えると通路側の一番前がベストかな。

「わかった、考慮するわ。それから私お昼は大抵保健室で食べてるから良ければ来て?保健医のナーコとは同級生なの。まぁしばらくはクラスに馴染んどいた方が良いかもしれないけど」

 なんと。それは良いことを聞いた。是非とも入り浸らせてもらおう。慣れるため数日前から着ている胸を潰すためのこの特殊なシャツ、一日中着ていると苦しくはないものの結構キツいものがある。昼休みだけでも息抜きならぬ胸抜きできるならしておきたい。


 でもまずはクラスの雰囲気を知ってそこそこ味方を作っておかないと。今まで女子の友達しかいなかったから、男子の友達作りってどうなんだろう。女子と変わらないのかな……。

「頃合いを見て入り浸らせてもらいます。四六時中わたし……僕の世話を恵くんにさせるのも可哀想ですし。って言うかわた……僕、恵くんとまともに喋ったの今回のことがあってからなんですよね。今まで親戚の集まりで会っても挨拶程度の関係で。わた……僕がこんな状況だから絶対迷惑かけそうでそれが心配です。わt……もう、これ以上喋らない方が良さそうですね……」

 ヤバイ、一人称が安定しない。昨日恵くんに指摘されてから慌てて意識しだしたけど、意識して使っていかないと全然慣れる気がしない。無意識に私って言っちゃったらどうしよう……。

 そんなわt……僕の内心の焦りに、鳴海先生は苦笑いを浮かべる。

「ふふっ、慣れるまでは大変そうね。無理して墓穴掘るのもアレだし、程々にね。でもきっと大丈夫よ、多分あのクラスなら」

「……」

 そんな不確定用語、信用できないよ。

 当分は無口なモブ、これで行くしかない。



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