プロローグ
幼い頃からいつも同じ夢を見る。知らない若い女と若い男が暮らしている夢だ。二人とも着物を着ており、この夢の舞台は現代ではなく、ずいぶん昔の時代が舞台だということがわかる。二人は食事の時も野良作業の時もいつも一緒にいる。二人ともどんな顔をしているか夢の中はぼんやりしていてはっきり分からないが、二人とも楽しそうに笑っている。きっとこの暮らしが心から楽しいのだろう、そんな笑顔だ。女の人は楽しそうに話をし、男の人は楽しそうに話を聞いている。だが、何を話しているのか聞き取ることは全く出来ない。僕は二人が楽しそうに暮らしているのを眺めているだけだ。この夢に僕の意思が入り込む余地はない。
どうしてこんな夢をいつも見るのか自分でもよく分からない。夢は深層心理が表れるもの、すなわち無意識にある願望や欲望がどんな夢を見るのか決めると何かの本で見たことがある。自分には人並み外れた結婚願望があるのだろうか。それとも、いつもこの夢をみる意味は何かの神託か、はたまた前世の記憶なのだろうか。僕にはわからない。
そして、夢から醒めると二人が暮らす夢のことも、幼い頃からいつも同じ夢を見ることも忘れてしまう。今回もまた同じだろう。ゆっくりと目が醒めていく…