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すれ違い姉弟  作者: 辻一成
第一章 それぞれの初日
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第3話

  桜舞い散る体育館裏。春一番はとっくに吹いてしまっていたが、妙に風が強い。そこに、1組の男女...否、2人の男子中学生が一方は頬を赤らめ、もう一方は狼狽しながら向かい合っている。まるで告白の現場のように。狼狽している男子...つまり僕なのだけれど、そちらが相手の申し出に答えを出すのに窮している。そんな状況だ。そして何を隠そう、これは「まるで」ではなく、実際に告白の場なのだ。一介の男子中学生はまず経験しないであろう男子からの告白を受けている僕。「なんて貴重な経験なのだろう!あぁ、生きているって素晴らしい。こんな稀有(けう)な事象に恵まれるのだから!」と、思えるような強靭が(きょうじん)なメンタルは生憎(あいにく)と持ち合わせていない。それどころか真逆、かなり精神面が弱い僕では明らかに役不足な場なのだ。頬を赤らめている男子...つまり僕と向かい合っている男子、高尾優馬(たかおゆうま)はあろうことか僕を女の子だと勘違いし、そして告白まで至ってしまったのだから。もちろん僕はそれを受け入れる訳にはいかず、かといって事実を伝えてこっぴどく振るような(したた)かさもないので、恐らくこの場で最悪手であろう、女の子を演じ続け、あくまで彼に「恋が実らなかった」というショックしか残らないような選択をし、そして彼のその申し出を断った。やんわりと、ふんわりと。胸がかなり痛んだがそこは割愛。結果彼はまた最悪手でありテンプレートである「お友達から始めませんか」を使ってきた。いや、僕の記憶、というより常識感覚が正しければそれは振った側が気まずさを紛らわすために言うことなのでは...?とはいえ、僕も高尾優馬を勘違いさせ、無駄な心の傷を作ってしまったという罪悪感に塗れているのでできればこれ以上彼に負担をかけたくない。...いやいや、まあ勘違いを勝手にしたのは彼なのだけれど。言ってしまえば彼が全面的に悪いのだけれど。まぁ感情は常識観では測れない。と、まぁ僕の感情的にはその「お友達」になることもやぶさかではないのだが、その場合問題がいくつか生じる。まず第1に彼は未だ僕を女の子だと思っているため、「お友達」になっても僕は女の子を演じなければならないのだ。第2に、彼がその「お友達から」という申し出をしてきた理由は当然恋心からだ。彼はまだ僕を恋愛対象として見ているということだ。これはまずい。記憶に残らないように徹してきた去年1年が無駄になるかもしれないくらい、目立つ可能性がある。少なくとも高尾優馬の記憶には残ってしまうのだ。それが非常によろしくない。だからといって断ってもかなり酷い振られ方をしたということで記憶に残ってしまうのではなかろうか。そうだとすればもう八方塞がりだ。解決策...脱出策がない。そして第3に、僕は彼と付き合う(通常の人間関係としての意味で)ことに強い抵抗を覚えている。何度も思っているが、彼はかなり青春を謳歌しているタイプだ。対して僕は真逆、正に真逆。逆どころかあらぬ方向にいる。自らそれを放棄しているのだから。そんな2人が相容れるとはとても考えられない。そもそも僕が中学生2年生になって普通に生活していればまず関わらなかっただろう。そもそも彼だけでなくほとんど人と関わらなかっただろうが。仮にこの「お友達」という関係を受け入れ、付き合っていくとしたら絶対に近いうち、歪みが生じる。互いの違いが浮き彫りになってしまう。そこから段々関係が悪くなっていく...。そんな未来がくっきり見える。これは好ましくない。人間関係が途中で崩れるというのはそれだけでバッドだ。

  ここで軽く僕の信念をはっきりさせておこうと思う。端的に言って、僕の信念、モットー、信条は


  「全員が幸せになれること。そこにいかなる犠牲も許さない。ただし遠峰影、自分自身は含まれない。」


 だ。僕が今、学校で誰の記憶に残らないようにしているのはしっかりこの信念に基づいての行動だ。僕が考えた思考の途中式を提示すると、

 遠峰影が他人と関わる→そのうち何か僕は失敗をする、つまりマイナスなことをする→他人には遠峰影、というマイナスの記憶が残る→マイナスなものそれ自身がマイナスで、損で、嫌なだけでなくプラスを侵す危険性さえある→他人の青春、つまり人生におけるプラスの塊が害される→ならば僕は他人と必要以上他人に関わらないようにし、記憶に残らないようにすべき

 といったものだ。これで僕の信条には背いていない。

  そして今、この場合僕が高尾優馬と「お友達」になるとこの信条に背く危険性があるのだ。だが困ったことに僕がここでその関係を持つことを拒否した場合にも彼にマイナスの記憶が植え付けられてしまう。最善策を模索する。ほとんど使われない脳が珍しく仕事をするというので気怠げにその腰を上げる。脳なのに腰を...なんて言うと揚げ足をとっているみたいだな。止めよう。慣用句とかことわざとかは結構好きな方だ。言ってしまえば日本語全般が好きなのだけれど。

  あぁ、そうだ。思いついた。灰色の脳細胞が活性化した。たまには使えるじゃないか。とはいっても最良の策ではなく、最善の策だ。出来の良い僕ではないが、その僕にしてはなかなか良い策だろう。

 なに、簡単なことだ。まずお友達としてスタート。そして僕はできるだけ嫌な奴を演じるのだ。そして彼から嫌われ、段々と仲が疎遠に...という。自然消滅を人為的に起こさせる。これならばそのうち勝手に記憶から抹消される、青春によくあるちっぽけな事象の一つになるだろう。

  長々と考えたが、そうと決まれば即行動。高尾優馬は未だに緊張した面持ちで僕の返答を待っている。僕は今から彼の前では「嫌な女の子」を演じなければならないのか。はぁ...僕には荷が重すぎる...。演劇なんてやったことないよ...。「お友達になってくれませんか」と言われたのだったか?ならばこう答えよう。僕の考えが正しければ嫌な女の子ならばこう答える...!

『仕方が無いのでなって差し上げます。感謝してください。』

 こんな感じ。そう、こんな感じ。おっと、勘違いしないで頂きたい。まだ僕は答えていない。脳内シュミレーションだ。さて、深呼吸して...息を吸い込み、目を見開く。少し驚いた高尾優馬の表情が見える。いくぞ...

「仕方がなひっ...」

 やらかしてしまった。先程考えた筈なのに...。セリフを読もうとすると失敗するのだと。高尾優馬はきょとんとしている。あぁ、まただ。顔が紅潮していく。湯気が出そうだ。

「し、し、仕方が無いのでお友達にっ...いえ、ごめんなさいもうムリです、えっと、はい。喜んで!」

 あぁ、もういいや、無理だ。僕には無理だった。演じるのは不可能だった。だがこんなに挙動不審な女の子のことなら嫌いに...なっていないようだ。嬉しそうに満面の笑みを浮かべる高尾優馬。今にも飛び跳ねそうだ。対して僕。顔を真っ赤にし、今すぐこの場から逃げ出そうとしている。正に対照的。もう嫌だ...。帰りたい...。もう帰っていいかな...。

「ありがとう!遠峰さん!これからよろしくお願いします!」

 そう言って僕の手を取り、ぶんぶんと振る高尾優馬。そして手を繋いでいることを意識したのだろうか。慌ててその手を離し、顔を紅く染める。そしてチラリとこちらの様子を浮かべてくる。止めて、そんな熱気をを僕に当てないで。溶けてしまう。どうしようもないので微笑みかけると、また表情が明るくなった。この子、感情が顔に表れやすすぎはしないか?心配になる。危ないことに巻き込まれでもしないだろうか。って、僕は母親か。

「あっ、もう結構遅くなっちゃいましたね。呼び出しちゃってごめんなさい。今度またゆっくりお話しましょう!」

 そう言って彼は場をあとにした。顔を赤らめたまま。照れ臭かったのだろうか。

  ...はぁ、疲れた。僕ももう帰ろう。あの40分かかる道をそのまま逆戻りだ。幸いここは1階だ。玄関まではすぐ着くだろう。気づけばもう風は止まっていたが、花びらが1枚、頭の上に乗っていた。取ろうとしたものの風圧で飛んでいってしまった。辺りには桜の花びらが散らかり、どれが僕の頭の上に乗っていたのかは皆目見当がつかなくなってしまった。



  流石に今日はもう何も起こらないだろう。さっさと下駄箱に向かい、靴を履き替える。朝と変わらず古ぼけた下駄箱だ。だが木の香りが生きている。どこか懐かしさを覚える匂いだ。靴を履き替え、外へ向かって歩き出す。やけに自分の足跡が響いているようだ。一人になるのがとても久しぶりに感じる。あぁ、素晴らしい。なんと気が楽なのだろう。この40分の帰路も1人ならばつまらないが心に波は立たないものだ。もう200回を優に超えて往復しているこの道だが、今日ほど愛おしく思えたことは無い。もうこの時間に人通りは多くないし、そもそもこの街は大して人がいない。学生がいなければそもそもこの辺りにここまでの活気はないのだろう。だが、その活気のなさが今の僕にはとても心地好い。物思いに耽る時間が与えられるというのはなんて素晴らしいのだろうか。聞こえるのは自分の足跡と優しく吹く風の音だけ。目に見えるのは鮮やかなピンクの花びら、申し訳程度に道脇に建てられたガードレールなど最早新鮮味も何も無い。だが、それ故安らげる空間。僕1人には広すぎるけれど、だからこそ安心できる。今日の盛り沢山の出来事などなかったかのようにただふらふらと、できるだけ体の力を抜いて歩き続ける。家まで残り30分くらいだろうか。延々とこんな光景が続いていく。住宅地でこそないが、ちらほらと家が見受けられる。商業施設は家の近くにはほとんどない。なんと不便なのだろう。当然学生も立ち寄ることは少ない。家がこちら側の中高生は嘆いているのだろうか。勿体ない、こんなにも静かで安心できる場所なのに。家まで残り25分。このあたりから緩やかな坂道に入る。と同時に木々も増えてくる。僕の家はこの田舎の中でもかなりひっそりした地域にある。特に買いたい物ができたり、ゲームセンターに行ったりという学生らしい趣味がない僕なので全く支障はないのだが、周囲を見るとそういうことをまるで生き甲斐にしている同年代は多いようだ。まぁ今更それ自体に疑問は感じないが、姉はどうなのだろう。姉は僕のようにひねくれてひねくれて、ねじ切れてしまいそうな僕と違って真っ直ぐ、真っ直ぐ少しくらい曲がった方が良いのではないかと思うくらいに成長している。その真っ直ぐさは決してただ息苦しいだけのものではなく、その場に合わすこともできるという万能なものだ。なので、そういった俗っぽい趣味もあると思うのだが、こんなに町の中心部から離れた場所では何かと不便ではないだろうか。この坂だって緩やかとはいえかなり長いし、隣にはすぐ森林が広がっているので虫も多いだろう。ストレスが溜まってしまいそうだ。あぁ、おいたわしや。何か助けになれることはないだろうか。...残念ながらないな。金銭的なことに関してはまだ何も出来ない非生産年齢の悲しさ。かといって精神面では逆にストレスを溜めてしまうという。まぁ結局は何も出来ないのに出しゃばるなということか。無力だなぁ。

  姉といえば、始業式のスピーチ、あれはやはり見事だった。いつもいつも不思議なのだがなぜあんなに人を引きつけることが出来るのだろう。天賦の才という部分もあるにはあるだろうがそれでも並々ならぬ努力を重ねなければあんな技術は身につけられないだろうし。本当に尊敬するしかないな。姉さんがいる限り光望学園も安泰だな。本当に光を望む学園だ。...つまらない洒落を言ってしまった。人には知られたくないな。特に姉には。それはそれとして帰ったらすぐに映像を焼かなければ。永久保存版だ。将来姉が世界の宝となった時に万人が喉から手が出るほど欲しがることになるだろう。絶対に渡さないが。そんな未来は楽しみではあるがこの関係性のままでその未来を迎えることになると思うとゾッとする。国家権力でもなんでも使って消されてしまうかもしれない。それほどまでに苛烈に嫌わているのだから。まぁ消されること自体は構わないが姉に出来の悪い弟がいてそんな弟との仲が悪いなんて情報がどこかから流れたら姉の尊厳に傷がつく。それは阻止せねば。去年は一応僕が姉の弟...つまり高等部生徒会長、遠峰光の弟であるということは伏せておいたが改めて考えるとその選択は正解だったらしい。今後も隠しておこう。

  家まで残り5分。これは断言できる。ここには申し訳程度の公園があるのだ。こんなに子供が少ない、言ってしまえば過疎地域でもあるここになぜ公演を作ったのかは分からないが、僕にとっては思い出の場所だ。中央に桜の木が植えられており、その根本に2人用のベンチがある。そしてそれを囲むようにしてシーソー、滑り台、ブランコなどの遊具が置かれている。ここには幼少の頃、姉と一緒によく来ていた。普段であれば素通りするのだが今日はなんとなく立ち寄りたくなった。いつぶりだろうか、ここに足を踏み入れるのは。ゆっくりとベンチに腰掛ける。一応真ん中ではなく端に。なんとなく上を見上げる。この桜、記憶の中ではとてつもなく大きかったのだけれど、今見るとそれほどではない。僕の身長が伸びたのだろうか。それとも別の何かが理由だろうか。枝の間にほんの少し青空が見え隠れしている。それでも視界の端まで大体がピンク一色に染まっている。ここは家から近いということもあり、特に咎められることなく子供だけで来て良いことになっていた。そのため姉と僕の遊び場は専らこの公園だった。今思えば片手で数えられる程度の遊具でよくあんなに遊べたものだ。あの頃はずっと姉と一緒だったな。あんなに仲良く遊べていたのも今となっては信じられない。幻想だったのかな。なんとなく弱気になってしまうけれど、それが幻想だったとしても今から姉と仲良くなろうという気持ちと目的は変わらない。と、不意に風が吹く。今丁度見ていたピンク色の花弁が散る。そんなに花を散らしていてはすぐに見頃が終わってしまうだろう。まぁ、桜の見頃が終わっても特に桜に思い入れがある訳では無いし、誰かと花見をすることもないので僕には関係ないのだが。それに今年の見頃が終わってもまた来年桜は咲くのだから。それにしても今日はやけに風が強いな。ふと時計を見ると学校のホームルームが終わった11時からもう2時間ほど経っていた。そろそろ家に帰らねば。そういえば昼食もまだとっていなかった。

  ...しまった、昼食の当番は僕だった。それに気づくと同時に僕は駆け出していた。スタートを切る踏み込みの風圧で辺りの花弁が散ったがしったことではない。高等部も今日は始業式だけだったはず。まずい、まずい、まずいまずい。関係を改善しようというのにいきなりこの失態。先程高尾優馬との約束で体育館に向かっていた時よりきっと何倍も速く走っている。風を切る音すら聞こえない。全神経を走るということだけに集中する。とにかく速く足を回転させる。身長と脚が短い分、僕は足の回転数で速度を上げるしかない。歩いて5分のこの距離、少しでも早く家に着かねばならない。歩いて5分というのは荷物を持っての状況、そして身体能力もほとんど活かしていない場合だから今とは話が違う。この速度で向かえば1分足らずで着けるはず。僕の家は人目を隠れるように周りに気が生えた場所にある。とはいえ森の奥深くという訳では無い。それに表札も道路側にちゃんとあるので本気で隠そうとしている訳では無い。一気に駆け抜け、門の前まで着くと同時に跳ねた。約2メートルはある門だがこれだけ速度が付いていれば僕の身体能力ならば容易に飛び越えられる。ただしこれにはデメリットがある。飛び越えることには飛び越えられるのだが、如何せん着地が上手くいかない。なのでまぁ、着地と同時に転がるのが定石だったのだがしまった、今は制服を着ていた。傷をつけるわけにはいかない。せめてもの配慮として前回りで衝撃を受け流す。制服は傷ついてしまっただろうか、しかしそれを気にしている暇はない。立ち上がる前に(すが)りつくようにドアに手をかけ、そのまま開ける。今度は誰も出てこなかった。今日初めてまともにドアを開けられた。じゃない、だだっ広い家だが、大声を上げれば全体に届くはず...

「ただいま!!姉さん、いる!?」

 .....果たして、返答はなかった。開け放ち、いつの間にか閉じたドアを背もたれにしてそのまま座り込む。ドッと鈍い音がした気がするがどうでもいい。なぜだ、なぜやってしまった。確かに不運ではあった、初日からこんなに色々なことがあるなんて普通では考えられない。けれど今日から、今日から始めようとしていたのになぜこんなに意識が甘かったのだろうか。「駄目だなぁ、僕は。」で済ませられる話ではない。本気で自分という存在に失望する。そもそもこんな簡単な失敗をしてしまうのは僕が実は心の底から姉と仲良くなりたいなんて思っていないからではないか?いや、そんなことはない。きっとただ、自分の為にそんなことを思っていたからだ。自分のことなら自分で責任を取れるからと、自分だけで話が済むのだと、どこかでそう思ってしまっていた。そうではないだろう、人間関係には必ず相手がいるのだから、ではどうやって責任を取れば...?いっそのこと自殺まではいかないまでも3階くらいから飛び降り...

「そんなに大声上げなくても聞こえるわよ、うるさいなぁ」

「ぁ...」

 細い声が漏れてしまった。何だろう、絶望的な状況に追い込まれてヒーローが助けに来てくれたらこんな感情になるのだろうか、いや、もちろん現れたのはヒーローでもなんでもなく、姉なのだけれど。

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい(以下省略)」

「うるさい!しつこい!もういい?部屋戻るよ!」

 軽く泣いてしまった。声が震えていたのは姉にバレてしまっただろうか。...そういえば、今日はなんだか当然のように口を開いてくれた。なぜだろう、こんな失態を晒しておいて。そんなことをしてもらう資格があるのだろうか。下を向くのと同時、自分の置かれている状況に気づく。制服がかなり傷んでしまった。少し破れている部分まである。脆いなぁ、なんて悪態をつきかけてしまうけれど扱いが悪かった僕に100%責任がある。どうしよう、今度変えてもらおうか...じゃない!!そうだ、事態は何も好転していない、昼食を作らないと...!

「姉さん、お昼ごは...」

「もう食べた。」

  あ、終わった...。もう利用価値なしだ、僕。死にそう。姉はそのまま階段を上り、部屋に戻ってしまった。直後、轟く音。もちろん姉の部屋から。鳥が騒いで逃げていく音も聞こえた。どうしよう、こ最悪の事態だ。確実に怒ってる。なんであの轟音の矛先が僕に向かなかったのか分からない。なんとか抑えていた感情が堰き止め切れず、溢れる。涙が流れてしまった。涙なんていつぶりだろう。止め方がわからない。しかし、声は意地でも出さなかった。泣いているところなんて見られたらもう、ただでさえ関係修復不可能な関係がこれ以上酷くなってしまう。と思っていたのだがドアが開く音がして、姉がそのまま階段を降りてきた。やけに息が荒い。...泣いているところまで見られてしまった。本当にもう終わってしまったのだ。仕方ないさ、僕にはどうにもできなかった。やはり僕は酷く矮小で愚かで利用価値もなくて、そして本当にどうしようもない人間なのだ。姉は僕が泣いている姿を見てか、聞こえるか聞こえないかギリギリの小さい息をつくとまた部屋に戻ってしまった。



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