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すれ違い姉弟  作者: 辻一成
第0章 一年の抱負
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第零話(姉サイド)

  私、遠峰光(とおみねひかり)は弟、(よう)溺愛(できあい)している。私のこの感情は成長とともに血縁関係の愛だけでは説明できないくらい、大きなものになってきている。もちろん、弟としても大好きなのだけれど、それ以上の感情も抱いている。だからといって恋愛感情かと聞かれるとなんだか違う気がする。どちらにしても私は本当に、心の底から影を愛している。ただ言えるのは、弟だから好きなのではなく、影だから好きなのだ、ということだ。本当に心の底から大好きだ。影LOVE。

  だが、困ったことに私はそういう感情に素直に行動出来ないという残念な人間なのだ。本当は影とイチャイチャしたいけれど、なんだか緊張してしまって上手に話せない。話そうとしてもつっけんどんな態度をとってしまう。何事も練習が大切だと思い、影以外の人に優しく接するようにしたけれど影に対してだけは素直になれない。折角(せっかく)影から話しかけてもらっても、影の方を向こうとすると異様に眼光が鋭くなってしまう。他の人から話しかけられても普通に顔を見て喋ることが出来るのに、影に対してだけは上手にできない。かといって自分から話しかけてみようと思っても、何と声をかければいいのかわからなくなってしまう。これも他の人に対しては簡単にできるのだ。なぜ私は本当に話したい影とだけは上手に接することができないのだろう。確か私が中学2年生の頃までは普通に接することができていたと思うのだけれど。

  そんな風に影に対して上手に接することができないまだったから、挙句(あげく)の果てに私は影から距離を置かれるようになってしまった。嫌われているのだと思い始めたときには三日三晩枕を泣き濡らしていた。今でも影とのそんな(はた)から見れば仲の悪い姉弟のような関係は改善できていない。実際私以外が見たら私は影を嫌っているように見えるだろう。それどころか(しいた)げているようにすら思えるかもしれない。本当はこんなにも影を愛していて、見る度に抱きつきたいくらいなのに。

  私も救いようがないほどの馬鹿ではない(多分)から、内心なんて家族同士でも、いくら愛があっても(みずか)ら伝えないことには伝わらないことは分かっている。けれど、それを胸に刻み、何度影との素直にコミュニケーションをとろうとしても全て失敗。その数は今や12876戦中0勝0分12876敗にまで(のぼ)っている。本当に何度自分の意気地(いくじ)の無さが嫌になったか分からない。なかなか初恋の相手に告白できない中学生じゃぁあるまいし。いや、中学生でも私ほど酷くはないか。私と比べてしまうと中学生に失礼だ。その上私は別に告白をしようとしている訳では無いのだ。ただ話をするだけ。コミュニケーション障害|(所謂(いわゆる)コミュ障)の方でも聞いて呆れるような話だ。本当に自分が嫌になる。影は私のことを本当のところどう思っているのだろう。いや、まぁ分かりきっている。九割九分九厘(きゅうわりきゅうぶきゅうりん)恨んでいるのだろう。(残りの一厘はもう相手にせず、諦めているという可能性。)散々(にら)みつけたり無視したり、罵倒の言葉を浴びせたりしたのだから当然だけれど。そう考えるだけで泣きそうだ。きっと同級生にも最悪な姉として伝えているのだろう。全く間違っていないし、私の学校での評価が下がることに関しては構わないのだが、そんなことを影にさせていると思うだけでも罪悪感や後悔で胸が押し潰されそうだ。姉が残念な人だからといって虐められていたらどうしよう。私はどうするべきなのだ。きっと泣いて謝っても影は許してくれないだろうし、私自身も自分を許せない。切腹(せっぷく)でもすればいいのだろうか。私はできれば接吻(せっぷん)をしたい。違う違う。私は何を考えているのだ。話もできないのにそんなことが出来るはずがない。いや、そんなことを考えていたのでもない。影が虐められていたらどうしようという話だ。そのときは私は生徒会長権限でも何でも使って影を守るとともにその虐めの犯人共全員に(おおやけ)(さら)せないような処置を取らねばならない。そしてそいつらを〇して私も...!あぁ、妄想が過ぎた。影のこととなると冷静さを欠いてしまうのは私の悪い癖だ。落ち着いて考えればそんな理由で虐めが起こるほど私たちの学校は治安が悪い訳では無いし影なら容易(ようい)に回避するだろう。私が心配するまでもない。(まぁ実際にそんなことが起こりかけたら私は自責の念に駆られて本当に腹から臓物をぶちまけることになるかもしれないけれど。)

  影は現在私と同じ中高一貫の光望(こうぼう)学園の中等部に通っている。去年1年は影も私も1年生だったためほとんど関わりはなかった。そもそも中等部と高等部の関わりはほとんどないので、かなりがっかりした。影が私と同じ学校に入ると言い出したときは本当に、ほんっとうに!嬉しかった。いや、嬉しいという表現では物足りない。体中の細胞が活性化して周りの全てが輝いて見えた。ただの雑音でも天使の(ささや)きに聞こえた。そのとき触っていた箸も触り心地まで良い超高級木材でできたものかと錯覚した。落ち着いて箸を見てみたら真ん中のあたりから真っ二つになっていた。それを見た影が怯えた表情をしていた。(嗚呼、やってしまったという後悔しかない。)そんな風に周りの全てが楽園のものに見えるくらい喜んだ。狂喜乱舞した。もちろん素直に表情に出せないため全て私の心の中だけだったけれど。これは余談かもしれないが、そんな溢れる感情を抑えるために私は部屋のものを破壊してしまう癖がある。影と話をできたときによくやらかしてしまう。というより影と話をしたときだけだ。私の部屋の熊のぬいぐるみ、べアさんはもう52代目となった。(全て影の方から話しかけてもらったものだ)53代目に変えられる日が来るのを心待ちにしている。(ベアさんには悪いけれど)ただ、影が光望学園の入学を決めたときは普段影との話をするより数倍大きな感情の奔流が起こってしまったため、私の部屋はまるで床中に敷き詰められた地雷を全て爆破させたような地獄絵図になってしまっていた。そんな音が同じ建物内にいる他の人間に聞こえないわけがなく、私の部屋の惨状はあっさりとばれてしまった。そのときは、部屋の掃除をしていて棚の上のものを取ろうとしたら落としてしまい、それが偶然車輪付きの椅子にぶつかり、その椅子が転がって棚を揺らし、上のものが全て落ちてしまい...という奇跡的な連鎖による事故だという風に誤魔化しておいた。普通なら信じてもらえるわけがないのだが、それ以外の言い訳も咄嗟(とっさ)に思いつかなったためダメもとで言ったのだが、運良く信じてもらえた。本当に危ないところだった。部屋の修復には丸二日かかってしまった。色々と見られたくないもの(主に勝手に影の部屋から持ってきたものなど)もあったので全て私一人でやった。

  そんな風に影が光望学園に入学する前は大喜びだったのだけれど、中等部と高等部ではほとんど関わりがなかった。唯一生徒会は学園全体を管理できた方が良いという理由で中等部の生徒会、高等部の生徒会合同で行うことになっているのだが、影はまだ一年生だったうえ、二年生になっても、実力はあるのだが、謙遜(けんそん)して生徒会なんて重要な役割にはつけない。というようなことを言って辞退してしまうだろう。影はあまり目立った行動を自分からしない子だけど、本当はやろうと思ったことは強い意志でやり遂げ、素晴らしい結果を残せる私なんかよりもずっと優秀な人間なのだ。本当に誇らしいが、自己顕示欲(じこけんじよく)がないため将来も少し不安になってしまう。学校でも実力を出し切っていないようだ。本気を出してくれれば生徒会にでも入れそうなのに、勿体(もったい)ないし、私としては関わりがなくなってしまうため残念だ。

 

  遠峰影という人間、もとい私の愛する弟は先述(せんじゅつ)のとおり、あまり目立つことを良しとしない。いや、良しとしないというより嫌がるという表現の方が適切かもしれない。それに、能ある鷹は爪隠すという訳でもないのだけれど、自分から評価を得ようとしたり、人と競争、というより何かを比べたりすることが好きではないのだ。そのため昔習い事としてやっていたスポーツなども大会や競技会などには確か一度も出ていなかったと思う。大会に出れば優勝確実と言われるまで極めたものもあるだけれど、それすら出なかった。なぜなのか気になるが、私はその理由を知らない。影は自分から進んで教えることこそしないが、(かたく)なに教えてくれない訳ではなく、単に私が()くことができないだけだ。それ程徹底しているのだから謙遜している訳ではないと思うのだが。

  容姿については、影はパッと見ただけでは男の子が女の子かわからないほど中性的な顔たちをしている。今は髪が長いことも相まって女の子に見える。それも美少女に。髪が長いと言っても私のように背中の真ん中辺りまで届くほど長い訳ではなく、男の子としてはかなり長いほうだということだ。それでも女の子の髪型と言って通じるくらいではあるか。側頭部の髪は耳を覆うまでまで伸びている。前髪も目が完全に隠れるまでとは言わないが、視界に髪が入るくらいまでには伸びている。特に髪型をセットしている訳でもないが、そこまで伸ばしているのに関わらずそうとは思えないほど整っている。あえて例えるならショートボブに近い髪型だろうか。よく知らないが、男子の髪質でそこまで伸ばしていると癖が酷くなりそうだがそれも全くない。サラッサラだ。目は大きく、くりくりしている。という表現が適切そうだ。それに加え、声も男の子としてはかなり高い方で、女の子の声だといっても通じるだろう。それに、身長は未だ160センチメートルをこえておらず、かなりと言わないまでも低い。それに、体の線も細い。そのため本当に、一度話しただけでは美少女としか思えない。これは私が影のことが大好きだという姉バカを差し引いても言えることだ。影のことを知らない人に写真を見せれば十中八九女子だという結論を出すだろう。だが、私と似ているかと言われるかと問われるとそんなことはないと思う。影は可愛いらしいという感じの美少女だ。(本当は男だが。)まだ中学二年生なので顔にはあどけなさが残っている。可愛いといっても派手な訳ではなく、性格と比例して落ち着いた印象を受ける。それに比べ私は自分の容姿に自信がある訳では無いが、友人の言葉を借りるなら綺麗という感じらしい。私も、影のこととなると我を失ってしまうが普段は落ち着いている(と思う)ので、私と影は見た目の差ほど性格に大きな違いがある訳では無いだろう。散々影が女の子のようだと表現してきたが、趣味嗜好(しゅみしこう)は極々一般的な男子のそれと大差ない。華奢(きゃしゃ)な体つきなため力は同級生と比べると少し劣るだろうか。だが、特に部活動もしていないので、力をつけるのは成長に任せているという感じだ。

 

  女の子のような見た目をしていて、けれど中身は年相応の男の子として成長している弟にどう接して良いのか分からなくなってしまったというのも私が影と上手に接することができなくなってしまった要因なのかもしれない。だが、私は大好きな影と楽しくお喋りしたり、出かけたり、勉強を教えてあげたり、遊んだりしたいのだ。ずっと前からそうだった。だが私はこれ以上関係が崩れることを恐れて行動に移すことが出来なかった。その長い時間を今、酷く後悔している。なぜただ話しかけることすら出来なかったのだと。酷く自分を責めてしまう。だけどそれももう限界が来てしまった。関係を崩したくないという恐怖よりも、なぜ今まで話をできなかったのかという後悔よりも、そんな自分を責める気持ちよりも、影との時間を、二人っきりの時間を笑いながら過ごしたいという単なる欲が上回ってしまった。それにもう影が関係することで嫌な感情になりたくないという気持ちも強くなっている。毛頭そんなつもりはないが、それではまるで影に問題があると責任転嫁してしまっているように、しかもそんな独りよがりな責任を一方的になすりつけているように感じられるのだ。私は、少しはダメなところがあるのも人間的で良いと思っているが、そんな責任転嫁は少しどころではなく、七つの大罪に数えられても良いくらい酷い罪だと思うのだ。だからそんな私の中だけでは確かに大罪となっているそれから逃れるためにも、自分の単純で、けれどその分大きく純粋な欲を満たすために今年一年で影との関係を良いものに変えるのだと、ようやく決心した。


  長く考えた気もするが、要はこの一年で影とイチャイチャできるようになりたいのだ!絶対に!そのためならば手段を選ぶつもりはない。何としてでも私にとって最高な日常を手に入れようではないか。やってやろう。私の弟への愛の大きさを見せつけてやろう(本当に人に見せる訳にはいかないが。逮捕されてしまうから)。もう一度神にでも仏にでも誓おう。私はこの一年で影とのイチャイチャライフを手に入れる!

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