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鎧を脱いで  作者: C・ハオリム
第8章 春
97/342

90 ラスコーの狙いと宿代

書いている期間に対して、お話しの時間の進みが遅いです。

物語が一応の結末を迎えるまであとどれぐらいかかるのか・・・、

それ以前に結末を迎えるまで続けられるのか・・・

それまで続けていきたいものです。

 宿の食堂兼ホールの大きなテーブルの上にネアがマスなどを書き上げた紙を広げ、その上にフォニー特性のコマを配置して侍女たちはその出来を再確認していた。

 「これ、私ですね」

 ラウニはコマの1つをつまみ上げてしげしげと見つめた。それは、黒い耳に小さな尻尾、米粒位の真っ黒の目、胸元にはきれいなフェルト製の三日月の文様がきれいにあしらわれていた。熊族の特徴をコルクの栓に詰め込んだような可愛らしいものだった。

 「これが、私・・・」

 ネアのコマは頭の部分をきれいにハチワレの模様に塗り、黒い大きな耳と黒い長い尻尾が付いていた。そんなコマの出来にネアとラウニが感心していると、フォニーは嬉しそうに自分のコマを2人に見せつけた。それは、黄色の大きな耳に、先が白くなった大きな尻尾をもった人目で狐族と分かるものだった。

 「フォニー、貴女の隠れた才能ですね。尾かざり好きは伊達じゃなかったんですね。細工もデザインもステキです」

 ラウニは己のコマを大事そうに両手の平の上に乗せてフォニーを賞賛した。

 「特徴が捉えられていて、かわいい・・・」

 ネアもしげしげと己のコマを見つめながら呟いた。この言葉は、最近心の中で勢力を伸ばしてきている女の子の部分が上げた言葉であった。

 「気に入ってもらえてうれしいよ。で、早速はじめようか」

 ニコニコしながらフォニーがサイコロを手にし、投げようとした、ラウニはそんなフォニーの手をそっと持って動きを止めると真面目な表情でネアとフォニーに提案してきた。

 「まず、このゲームの名前を決めませんか?ただ決めるだけじゃなくて、一番良い名前を付けた人からサイコロを振ると言うのはどうですか」

 「面白そうだね。じゃ、えーと、そうだ。『かけっこゲーム』ってどうかな?」

 フォニーは少し考えてからゲームの名前を披露した。フォニーの提案に対してラウニはちょっと渋い顔をして見せた。

 「何か、その、そのまんま的でインパクトに欠けると思います」

 「いい名前だと思うけどなー」

 フォニーは不服そうにちょっと口を尖らせた。

 「サイコロダービー・・・」

 ポツリと呟いたネアの意見に対してラウニは首をかしげた。

 「可愛さが足りないですね。なんとなく、おっさん臭いですね」

 ラウニの言葉にネアは人知れずダメージを受けていた。

 【自分の中のおっさんの部分が憎い・・・】

 ふと一瞬考えてしまっていた。

 「ダメ出しばかりしているけど、ラウニは何か良いアイデアがあるわけなの?」

 両手を腰にあて、不満であることを表明しながらフォニーはラウニに問い質した。

 「ふふん、いいですか。私の考えは、『人生は賽の目が如し、出た目を楽しんでこその人生』です」

 ふふんと胸を張って、得意げにラウニは自分のアイデアを披露した。それを聞いたフォニーは渋柿を知らずに思いっきり齧ったときのような表情を浮かべた。

 「なにそれ、長いし、親しみにくいし、私たちみたいな子供が楽しむものだよ。簡単な名前にしないとダメだよ」

 思いもよらぬフォニーの的確な突っ込みにラウニは先ほどの勢いが見る見るしなびて行くのを感じていた。

 「可愛い名前がいいなー」

 難しい表情を浮かべながらネアがポツリとつぶやいた。

 「可愛い名前・・・ですか・・・」

 ラウニがそう呟くとうーんと考え込んでしまった。

 「私は、『かけっこ』って入るのが良いと思うよ。そのゲームってゴールに速く入ると勝ちだよね。そうすると『かけっこ』って言葉があるといいなー」

 侍女たちが難しい顔でゲーム盤となる紙を見つめている背後から覗き込むようにレイシーが話しかけてきた。

 「そうですよねー、『かけっこ』は外せないということで・・・」

 フォニーはレイシーからのヒントを元に頭の中で『かけっこ』の前と後に様々な言葉を付け足してみていた。

 「これは、このセットがあればどこでも楽しむことができますから、『お家でかけっこ』とかがいいのでしょうか・・・」

 ラウニも考え込みながらふと頭に浮かんだ言葉を口にした。

 「いい線な感じがするよ。・・・『どこでもかけっこ』とか・・・」

 フォニーがラウニのアイデアにかぶせるように思いついたことを口にした。

 「『お部屋でかけっこ』・・・」

 ネアが深く考えもせずぽつりと思いついた言葉を吐き出した。それを聞いたラウニとフォニーは互いに顔を見合わせて頷いた。

 「ねあ、それいいよ。じゃ、このゲームの名前は『お部屋でかけっこ』にきまり、それでいいよね」

 フォニーはネアとラウニ承諾を貰おうとした。フォニーの言葉にラウニは「いいですね」と一言賛同の意を表明し、ネアは大きく頷いて同じく賛同を示した。

 【随分と行き当たりばったりの会議だけど、案外効率がいいな、資料を作らなくて良いのがなにより魅力的だよ】

 ネアはフォニーが手にしたノートに『お部屋でかけっこ』と書き込むのをみながら思っていた。

 「では、ネアが1番目、ウチが2番、ラウニが最後ね」

 フォニーが仕切る中、ゲームが開始された。それぞれコマを進めながら、難しい表情を浮かべていた。その時、外から買出しを終えたシャルが扉を開いて入ってきた。そのシャルと同じように冷たい風が入り込んでゲームの盤である紙を吹き飛ばした。勿論、その上のコマも同様であった。吹き飛んだコマを捜して、再度セッティングしながらラウニが何かを思いついたらしく、いきなり口を開いた。

 「そうだ、この盤をもっと厚いモノにしたら、こんなことにならないかもしれません」

 やっと元の通りにすると、ゲームは再度仕切りなおしとなった。

 「・・・2つ進む、・・・何かワンパターンでじゃないかな」

 ネアがコマを進めながらポツリと呟いた。

 「こんな紙に書くから、好きにデザインできるけど、厚紙や板にしたら、簡単に変えることも出来ない・・・」

 ネアの言葉に、先ほどのアイデアの問題点を悟ったラウニはうーんと唸った。侍女たちが頭をつき合わせてうーんと考え込んでいた。

 【なんで、何も思い浮かばない・・・、人生経験ならラウニやフォニー以上にあるわけだし・・・、発想か?子供の発想は自由だと聞いたことがあるが、そうすると俺のおっさんの部分がそれを阻害しているのか?】

 ネアは複雑な気分を味わいながら、粗末なゲーム盤を睨みつけいた。その時、いきなりネアの背後から声がかかった。

 「ネアさん、ちょっといいかな?」

 声をかけてきたのはラスコーであった。彼は何故か上機嫌に見えたが、その理由をネアは知る由もなかった。

 「何でしょうか?」

 「実はな、ボルロ・・・、つまりご隠居様からネアに昔話やこの国の歴史なんかを教えてやってくれ、と言われててな。なーんも難しいことじゃない。ネアさんが忘れたり、知らないことが多すぎるらしいと言う事でな。ラウニさん、フォニーさんちょいとネアさんをお借りするよ」

 ニコニコしながら、ラスコーはネアに声をかけ、ヒルカにお茶とお菓子を持ってくるように頼むとネアに付いてくるように手招きした。

 「ネア、お勉強頑張ってね。こっちはウチ等が考えておくから」

 盤を睨みつけながら顔を上げもせずにフォニーが言うと、ラウニも頷いて同意を示していた。彼女たちは、ネアが即興で造り上げたゲームをさらに洗練するという今までにない新たな作業に夢中になっていた。


 ラスコーは宿の離れにある自宅の1室にネアを招きいれ、暖かいお茶を自ら淹れネアに勧めた。そして、書棚を開くと大きな書物を取り出してテーブルの上に置いて開いて見せた。そこには、多少歪で誤った場所があったが、それは明らかに旅客機と思しき絵が描かれていた。

 「すまないが、ボルロから、君のことについて教えてもらったよ。これについては俺の一家以外は口外しないことを約束している。ウチのヒルカも魂の色からネアさんがまれびとである可能性が高いと言っておったから間違いないことだろう。ちがうかな?」

 いきなりの事に驚きながら、ネアは小さく頷いた。それを見てラスコーは満足そうに微笑んだ。

 「この絵が何か分かるかな?」

 ラスコーは旅客機らしきものの絵を指差した。

 「これは、飛行機、旅客用か貨物用・・・、なんでこんな絵があるんですか?この世界の移動手段って馬車ぐらいじゃ・・・」

 戸惑いながら、ネアはラスコーを見つめた。ネアの答えをその絵の横に書き添えると、ラスコーはネアを見つめた。

 「これは、海の向こうにある『死人の国』と言われる所で発見されたもののを絵にしたモノと言われている」

 「シビトノクニ?」

 尋ねるネアに頷きながらラスコーは今度は地図らしきものを取り出してテーブルの上に広げた。

 「これが、現在知られている世界だよ。ここが俺達が住む、ターレの地、そして海、ここには小さな島々は海洋諸島連合王国だ。そして、この大洋を越えた、ここが死人の国と言われる島・・・なのか大陸なのか、まだ不明な場所だよ。ここには凶悪な呪があるらしく、踏み入れた者の多くは早く死んでいる。それだけじゃない、踏み入れた者が立ち入ったところで疫病が広がったと言う話しもある。そんな場所が死人の国だよ。俺は長年死人の国について調べているんだよ。そこにまれびととの関係性があるかどうかも研究対象でね。昨夜、君が食べた料理の調味料、あれは味噌だよ。野菜も君が知っているモノに近いはずだよ。あの具材の殆どはまれびとが伝えたものだよ。その書物を俺が紐解いてやっと完成させたものだ。その具材を君は知っていた。そして、この絵が何であるかも答えられた。君はひょっとして死人の国から来たのではないかと思ったのだよ」

 ラスコーは一気に己の考えを開陳して見せた。ネアはラスコーの勢いに押されながらも広げられた地図を凝視していた。しかし、その地図に描かれている大陸や島々の形は見たことが無い物だった。

 「多分、私は死人の国からは来てないでしょうね。この地図は私が覚えているモノと違います。それと、私の前の世界の記憶は・・・、自分の名前すら覚えていないのです、ラスコーさんが思っているまれびとと違うかもしれません」

 ネアの言葉にラスコーは言葉を失った。そして、暫く経って漸く口を開いた。

 「全く違う世界から来たのか・・・、時間軸を飛び越えた存在ではなく・・・、すると、この知識は・・・」

 ラスコーは頭を抱えて暫く呻吟すると、いきなり立ち上がり、ポケットから鍵を出すと本棚の一角に設えられたロッカーのような扉の鍵穴に差し込んで開けると、両手できれいな文様が刻まれた箱を両手で持ってそれをそっとテーブルの上に置いた。

 「それを開けてみてくれないか。危険なモノじゃない、私は昔から扱っているが呪われたこともない」

 ラスコーは手でその箱を指してネアに開けるように促した。ネアはラスコーに言われるままその箱を開けた。そこには赤いビロードの上に横たわる黒っぽい物体があった。ネアはおそるおそる手にした。

 「・・・拳銃?」

 それは、樹脂が多用されているいるもののオートマチックの拳銃であった。残念ながら弾倉も実弾もなかったが、それは正しく武器であった。

 「ケンジュウ?それは一体何に使うモノなんだ?」

 慣れた様子で拳銃を手にするネアにラスコーは身を乗り出して尋ねてきた。

 「前の世界にもこれと非常に似たモノがありました。火薬の力を使ってモノを狙った方向に発射して、その力で倒すものです。本来ならここに、弓矢で言うところの矢となるモノが詰まった箱を入れます」

 ネアはグリップの底面に空いている本来なら弾倉を入れる穴を指差して、そしてスライドをガチャンと引っ張った。それは子供(と言っても獣人であるが)の力でも引くことができた。そして、薬室に弾丸がないことを確認すると、スライドストップを操作して撃発状態にすると床に向けて引き金を引いた。それはカチャンと音を立てて動作機構がまだキチンと動作することを主張した。

 「随分と手馴れているね。前の世界と何か関係があるのかな」

 ネアの動作を見つめてラスコーは感嘆の声を上げた。

 「多分、これを使うような仕事をしていたのでしょうね。覚えてはいませんが・・・、ただ、ここに書いてあるMikasaってメーカーは知りません」

 ネアは手にした銃の側面に彫ってある文字を見てラスコーに説明した。

 「その文字が読めるのかね、それはメーカーを意味している・・・、しかし、君はこの世界とは違う世界から来ている。類似点があるのはなんでだ・・・?」

 ラスコーはネアの言葉を聞いて頭を抱えた。彼の仮説では過去の人間が何らかの作用により現代に来たものだと考えていたのであるが、その仮説はネアの言葉により瓦解していた。

 「それに、前の世界では人種は真人だけでした。私みたいな獣人もエルフ族も、ドワーフ族もいませんでした。もし、あったとしてもそれはお話の中でしかありませんでした」

 ネアは悩むラスコーに自分の知っていることを投げかけ、手にしていた銃を元の箱にそっとしまった。ネアの言葉がさらにラスコーを混乱させているとは知らずに。

 「ま、待ってくれ、今、整理しているから・・・、これは、新たに仮説を考える必要がある・・・、これは後回しにしよう」

 ラスコーは何とか気持ちを切り替え、やっとの思いでネアに正対した。

 「何故、私にそんなことを尋ねるんですか、まれびとも種類がいろいろとあると聞いていますが、何か重大なことがあるんですか?」

 ラスコーの態度に只本人の好奇心からだけなのかと訝しみながら尋ねた。

 「ああ、そのことか、半分は俺の研究のため、後半分は・・・、もう1人いるとされるまれびとの対策のためだよ」

 ネアの疑問にラスコーは隠す事無く答えた。そね本音らしき答えにネアは逆に安心を覚えた。

 「ボルロから聞いたが、もう1人いるとされるまれびとはどうも歓迎できないような人物らしいからな。簡単に考えるならまれびとにはまれびとをぶつけるのが良いのかも知れないが、その人物以外のまれびととされる君は前の世界から記憶、と言うか魂と言うか、それを持ってきただけだ。しかも、それは完全じゃない。噂に聞くともう1人のまれびとは完全な状態でこちらの世界に来ているらしいじゃないか。いくら君でもこれではどうしようもない。では、まれびとと大きく係わっていると思っていた死人の国にまれびとに対処できる何かがあると見ていたのだが・・・、見当違いだった・・・かも知れんが」

 そう言うと、ボルロはため息をついて頭を抱えた。

 「・・・どんな強いヤツでも、お腹も減るし、眠たくなります。食べない、眠らないでは潰れると思います。生きている以上、歳もとるし、病気もするし、怪我もします。潰せないことはないと思いますよ」

 ネアは当然と言えば当然のことを口にした。生きている以上殺せないモノはないと言うのがネアの持論の1つであった。

 「ネアさんの言うことは最もだ。もし、死なないなら今でもあちこちにまれびとがいるはずだ。味噌のレシピを伝えたまれびとも百年ほど前に亡くなったそうだからね。しかし、それが凶悪なヤツだったら、それが年齢でくたばるまでどれだけ血が流れるのか・・・、それを考えると」

 ラスコーは渋い表情を作った。まれびとのことを知るにつれて、まれびとが世界に与える影響を無視できないことに気づいたからであった。

 「・・・そうですね。歓迎できない者であれば、早いうちに安全にしないとダメですね」

 ネアもラスコーの憂慮している事項に賛意を示した。

 「俺が最も恐ろしいと思うのは、それみたいなのをまれびとが手にした時ことだよ。死人の国で見つけられる今では作ることが出来ない技術でつくられものを死人の(すべ)と言うんだが、これは存在自体がまれびとみたいなのだからな。ネアさんに聞きたいのは、世界が違うかも知れないが、類似していることも多くある、それのように」

 ラスコーは箱に収まっている自動拳銃を指さした。

 「死人の国について現在知られていることから、これ以外にどんな死人の術があるのか、呪がなんであるか知りたいんだよ。もし、回避する手段があれば死人の術をもっと手に入れることが出来る、できなければ、まれびとが死人の術を手にする最悪の事態は回避できる。折角の休みなのにすまないが、協力をしてくれないか」

 ラスコーは深々とネアに頭を下げた。

 「え、そんなこと急に言われても・・・」

 ネアはラスコーの申し出に戸惑ってしまった。そんなネアを見てラスコーは一言呟いた。

 「この宿泊料が激安なのも君の協力があってこそ実現するものなんだが・・・」

 「そうきましたか・・・、では喜んで、協力します。でも、もっとサービスをお願いしますよ」

 ため息つきながらネアは答えると、頭を上げたラスコーはニタリとしながら

 「なかなかの悪よのう」

 と呟いて、楽しそうに笑い声を上げた。 

ちょっと前に出てきた『死人の国』について説明的なお話しになりました。

まれびとは同一時間上を時空を越えて移動したモノではないようです。

今後、この『死人の国』やら『死人の術』を絡めて行きたいと思っています。

今回も、この駄文にお付き合い頂きありがとうございます。

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