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鎧を脱いで  作者: C・ハオリム
第7章 英雄
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81 出会い

彗星君のお話です。今回は少し短めです。彼が頭角を現していくお話になる予定です。

 それは、人の集団と言うより群れに近いものだった。ヒグス率いる野盗の集団は当初の数名から既に3倍程度の規模に膨れ上がっていた。縄張りが競合する、やり方が気に入らない、顔つきが気に喰わないなどの理由で盗人同士の喧嘩は後を絶たないのがこの世界の常であった。そして、強いヤツが縄張りを拡張し、美味しい思いが出来るシステムであった。ヒグスは彗星という力を手に入れ気に入らない連中を片っ端から潰しにかかっていた。大概の場合、敵対するグループの親玉を仕留めればその配下は自ずと倒した者の灰化になるのが普通であった。この理論から行くと、潰したグループの数に比して構成人員が少なすぎるのであるが、ここは彗星という有り余る力を投入したことと、一度敵対した者は許さないというヒグスの信念の相乗効果、つまり敵対グループの皆殺しによるものであった。そして、現在配下になっている者は、敵対する事無く、自らヒグスの元に集った者たちであった。さらに、ヒグスの穢れの民嫌いが功を為していた。当初は追いはぎもどきの仕事であったが、最近はちょっとした隊商まで襲うことができるようになっていた。

 ヒグスたちが活動しているコデルの郷は巨大な領地を抱えているが、郷主の椅子にしか興味を示さない郷主一族が互いに地で血を洗って担ぎやすい暗君を次々と擁立させたものだから、郷内の統治はグダグタになっており、それぞれの街や村が半ば独立運営状態になっていた。このため、ますます郷の運営は苦しくなっていったが、郷主とその取り巻き、次の郷主を狙う勢力にとっては、どんなに椅子がボロボロになっていても、その椅子に座ることが何より優先させているので、郷の首脳陣は現郷主を担いだ者とその親しい連中で占められおり、郷の民の心を掴むことなどできもしないし、しようとも考えていなかった。そのおかげでヒグスのような野盗がのうのうと活動できるのあった。もし、ケフでヒグスのような活動をしようものなら、あっと言う間に討伐されているであろう。そんなコデルの郷の辺境の荒地で、ネアたちが年迎えの行事の準備をしている頃、ヒグスたちはちょっと困難な状況に陥っていた。


 「最近、獲物がみあたらねぇな」

 酒と女と博打ですぐに金を使ってしまうヒグスが野営地で退屈そうに焚き火を突きながらこぼした。

 「ベッドで寝たい」

 最近、やっとこの世界の言葉に馴染んできた彗星が妙なアクセントまじりの言葉で愚痴った。彼らの状況は獲物にめぐり合えない肉食獣の群れに似ていた。獲物の捜索に出した連中はどいつもこいつも「なんにもいません」とバカみたいな報告をするだけであった。ヒグスのイライラは時間とともに募っていった。


 「これで、馬車に乗せてもらえませんか」

 黒髪の粗末な衣服を纏った少女が肩から下げた鞄から巾着袋を取り出し、その中身を兎族の若い夫婦に見せて言った。コデルの郷の都から三日ほど放れたサープナの街で様々な行商人達が隊商を組むために朝から準備し、護衛の傭兵数名と打ち合わせをしてとバタバタしていた。そんなバタバタが落ち着いた夕暮れの出来事であった。兎族の若夫婦は所帯を持ってから初の行商のため少々緊張していたが、年齢的に近い真人の少女の申し出に少し戸惑っていた。

 「いきなり言われてもね・・・」

 夫がちらり横に佇む妻を見た。妻は夫をみるとニコリとして頷いた。

 「そっか・・・、仕方ねぇーな。じゃ、アンタも入用だろうから、これぐらいでいいよ」

 兎族の商人は少女の手にした巾着袋から中銀貨を2枚取り出して明日の朝には出発する旨を告げた。

 「ありがとうございます。これで・・・」

 少女は辺りをさっと見回した。その動きは、何かから逃げているようにも見えた。

 「・・・」

 そんな少女と行商人のやり取りを物陰からじっと見つめている黒い人影あったことを当の行商人は気づいていなかった。


 「その話は本当か?」

 手持ちの酒を今しがた全部飲みつくしたヒグスが最近配下になった浅黒い肌の男からの報告に身を乗り出した。

 「嘘を言っても始まりませんぜ。明日の朝、行商人が6組ほど馬車をしたてて、サープナからコデルの都に向いやす。その護衛は傭兵がたったの6人、美味しい獲物だと思いやす」

 その男からの報告を聞いてヒグスはニタリと笑った。これで寒風に曝されながらの野宿とはおさらばできる。しかも、女つき、酒も呑める。しかも難しい仕事とは思えない。これを見過ごすなんてことはできない。ヒグスは立ち上がるとあちこちで気ままに寝転がっている配下たちを見回した。

 「仕事だ、明日の朝は早いぞ。でかい隊商だ。今までの鬱憤を思う存分発散できるぞ」

 ヒグスの声に配下たちは喚声を上げた。それを聞いてヒグスは満足そうな笑みを浮かべた。

 「彗星、傭兵が6匹だ。おまえさんなら容易いだろ?頼んだぜ」

 ヒグスは毛布に包まって横たわる彗星の肩を軽く叩いて声をかけた。

 「分かった・・・」

 彗星はそう言うと面倒臭さそうに寝返りを打った。


 「お嬢ちゃん、揺れてすまんね」

 サープナの街を出てからずっと黙っている少女に兎族の商人が声をかけた。

 「お気遣い無く」

 様々な荷物が詰まれた荷馬車の荷台で、荷物と荷物の間の隙間に挟まるように座り込んでいる少女が何の抑揚も無い声で応えた。少女は幌の隙間からそっと外を見ると、自分の荷物の入った袋を開き、そこから木製の手かせを取り出し、そしてそれを己の手にはめた。


 「手はず通りだ」

 街道の脇の草むらに身を隠しながらヒグスは彗星に告げた。彗星は何も言わずただ頷いた。暫くすると荷馬車の軋む音と馬の息遣いが聞こえてきた。それを合図に彗星とヒグスは街道に飛び出した。

 「通行料を払ってもらおうか」

 ヒグスは先頭の馬車の御者ににこにこしながら声をかけた。それを合図にしたかのように、荷馬車の中から武装した傭兵達が飛び降りてきた。それを核にしたヒグスはポンと彗星の肩を叩いた。

 「全員、ぶっ殺せ」

 「分かった」

 彗星は腰に佩いていた剣をすらりと抜いた。それを合図にしたかのように傭兵たちが斬りかかってきた。最初に大上段で突っ込んできたヤツには腰を屈めてから伸び上がるように振り下ろそうとする両腕を斬りおとし、次の短槍でついてくるヤツには槍をつかんで引き寄せてそのまま構えた剣に突き刺さらせた。これはヒグスが一回瞬きするかどうかの間に速やかに行われた。両腕を斬りおとされた男が苦悶の声と切断面から派手に出血しながら転がると、ヒグスがさっさとソイツに手にした剣で止めをさした。

 「えっ」

 あまりのことに他の傭兵は剣を構えながら驚愕の色を濃く滲ませていた。しかし、仲間がやられた以上黙っているわけには行かない。それぞれが上段、下段、なぎ払い、突きとバラエティに富んだ攻撃を同時に仕掛けてきた。この辺りは流石に統制されていたが、彗星は突っ込んでくる傭兵の頚動脈を切っ先で引っ掛けるように切っていった。これも僅かな時間であった。戦う者がいなくなった隊商の始末はヒグスの配下たちが気の向くままに始末していった。ある者は一刀両断され、ある者は五体を切り刻まれ、例外なく女は犯された後に殺された。そこに年齢が考慮されるということは一切無かった。あちこちに死体が散乱する中、お宝の山分けが始まった。配下たちがそれぞれ荷馬車に乗り込み、金目のものを乱雑に外に放り出していった。不思議なことに己のポケットにそっとしのばせるヤツはいなかった。何故なら、そんなヤツをヒグスが見つけると生まれたことを後悔するような目に合わされて殺されるからであった。

 「女がいるぞ」

 兎族の商人の荷馬車に乗っていた少女が浅黒い男に手を引かれて馬車から引き摺り下ろされてきた。それを見たヒグスが顔をしかめた。

 「この、兎が、人間様を奴隷にしやがって」

 血塗れになり、下手な合体ロボットの合体前の状態になっている兎族の男の頭をサッカーボールのように蹴飛ばした。

 「奴隷・・・?」

 首を傾げる彗星を横目にヒグスが少女の手かせを指差した。

 「この手かせが証拠だ。コイツ、この女を売ろうとしてやがった。しかし、これだけ上玉となると・・・」

 ヒグスがいきなり鼻の下を伸ばして少女に近づいていった。何をされるか察知した少女は身を固くしてすがるような目つきで彗星を見つめた。

 「助けてください・・・」

 それは、ダメもとのような、万が一の確立にかけるようななんともいえない目であった。

 「ダメだ、それは俺のものだ」

 ヒグスは首筋に冷たいものを感じた。いつの間にか彗星が手にした剣が首筋に当てられていた。

 「おい、じょ、冗談はよせよ。俺が味見してからお前に・・・」

 彗星の剣は首筋に徐々に食い込んでいくのをヒグスは感じた。

 「分かった、分かった、こいつはお前のものだ。それでいいな」

 「・・・手を出したヤツは殺す・・・」

 彗星は少女をじっと見つめた。きれいな真人の少女である。自分より少し年下のように思われた。

 「ありがとうございます。め・・めてお・・・様・・・」

 少女は助かった安心のためか、彗星にすがり付いて身を震わせた。彗星は彼女の手には待っている手かせを力任せに叩き割った。手をさすりながら少女は彗星に跪いた。

 「どうせ、誰かの奴隷になる身でした。良ければ、彗星様にお仕えさせていただけないでしょうか」

 今まで、女性から甘い言葉一つかけてもらうことが無かった彗星はこの言葉に混乱していた。確かに、金で甘い言葉や女の身体を買ったことはあるが、まさか、気持ちだけでこのようなことになるなんて、嬉しいと戸惑いが微妙に同居している感じがした。

 「分かった。これからよろしく」

 彗星は跪く少女の前にかがむとその細い手をとってこの世界に来てから始めて心のそこから微笑んだ。

 「「野辺の花」のハイリ、全身全霊で彗星様にお仕えいたします」

 少女はそう言うと、彗星が気絶しそうな微笑を見せてくれた。彗星は始めて自分が女性に必要とされていると思った。前の世界でとうとう訪れることが無かった春が漸くめぐってきたようだった。


 この襲撃があってから、常に水星の傍にその少女、ハイリの姿があった。さすがのヒグスも自分の命が惜しいのでハイリには手を出さなかった。これは賢明な判断であった。それを理解していないのが数名、その場で瞬殺されるのを見てそれは確信に変わっていった。

 

前の世界で、何一つ良い思いが無い彗星君にやっと春らしきものが訪れようとしています。良く考えると、彼の方が異世界転生モノの主人公らしいような気がします。チートな能力も持っていますし、ハーレム状態への第一歩らしきものを歩き出していますので、ただハーレムになるかは怪しいところですが。

毎度、駄文にお付き合い頂き感謝しております。

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