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鎧を脱いで  作者: C・ハオリム
第6章 事件
83/342

78 やらかしたことと、これからやらかすこと

次の展開に持っていこうとしても何故か日常が続いていきます。お茶の間ファンタジーもどきと化してしまったようです。

 ケフの街に馬車が着いた頃、もう日はとっぷりと暮れており、大抵のお店は閉まっていた。

 【24時間営業なんて、普通は有り得ないのかもなー】

 夜目が利くネアたちにとって街の暗さは然程苦にはならないが、真人なら普通に歩くのも辛いであろうと馬車からバトに降ろして貰ったネアは麻痺した尻を撫でながら街並みを見渡していた。

 「ロクさん、ナナさん、ありがとね」

 「お気をつけて」

 「ありがとうございました」

 バトが大きく手を振り、その横で丁寧にルロがお辞儀し、ネアは子どもらしさを装い元気良く手を振りながら二人に別れを告げた。

 「嬢ちゃんたちも気をつけてな」

 「この季節、脱ぐと風邪ひくからね」

 侍女たちの挨拶に応えるようにロクとナナは手を上げるとゆっくりと馬車を発信させ、街の暗闇の中に消えていった。

 「じゃ、黄金の林檎亭に行くよ。お腹減ったでしょ」

 バトがネアを覗き込むようにしながら尋ねてきた。

 「うん、バトさんたちは大丈夫?」

 頷きながらネアは答えるとバトを見上げた。

 「私もペコペコだよ。でも、ルロは食べるよりお酒が呑みたくてうずうずしているもたいだけど」

 「私もお腹は空いています。私の主食はアルコールじゃないから」

 バトの言葉にむっとした表情を作りながらルロが返した。

 「言い争っていてもお腹は膨れないと思います」

 いつもの掛け合いが始まる前にそっとネアが二人の間に割って入った。

 「ネアの言うとおりだよね。さ、行こ、ルロ、もたもたしていると置いていくよ」

 バトはネアの手を取るとさっさと歩き出した。背の高いバトがネアの手を取るとどうしても身体を傾けるような形になるし、ネアは思いっきり手を上げて、バトの足にくっつくような姿勢になってしまう。この体勢は非常に動きにくいことは互いに経験則で知っているが、夜の街のように治安が確実に良いと言い難い場合はやはり、幼子の手を取って安全を確保しなくてはならない。この事はネアもバトも納得済みのことなのであるが、やはりどうも動きづらいのが現実であった。

 「バトは警戒、ネアは私が」

 ルロの言葉にむすっとしてバトがネアの手を離すと、すかさずルロがネアの手を取った。

 「ーっ、この肉球の感触って、いいですね。程よい弾力と柔らかさ、温かさ・・・、こんな感触のベッドがあれば・・・」

 ネアの手を握ったルロは握った手に力をこめたり、弛緩させたりしてネアの肉球の感触を味わっていた。

 「・・・」

 このルロの行動にネアは敢えて何も言わず、いつもの恩返しだと思って我慢することにした。

 「背がネアに近い私のほうがネアの手を取るのには向いていますね。これから、このポジションは私のものです」

 半歩先を行くバトにルロは楽しげに宣言した。

 「肉球の独り占めはダメだよ」

 ルロの言葉にバトはすぐさま言い返した。しかし、ルロはそんなこと気にかける風にも見せなかった。

 「何も、肉球を独り占めしようなんて思ってません。ラウニちゃんやフォニーちゃんは二人で見れば問題ないでしょ」

 「そんな問題じゃないよ。肉球は世の全ての人に満遍なく分け与えられるものなの」

 バトがしれっとしているルロに言い返した。

 「この肉球は私のもの・・・」

 言い合っている二人の間にネアはぼそりと割り込んだ。ネアの言葉に二人はふと我にかえった。

 「そうね、肉球はその人のものだよね」

 「勝手に盛り上がっていました・・・」

 バトとルロはちょっと静かになったように見えたが、暫くするとバトが意外なことを口走った。

 「人を惑わせるような肉球を持っているとは、けしからんと思うけどね」

 このバトの言葉をルロが否定するかと思っていたら

 「こんなステキなモノを手にして正気を保てなくなるのは不思議ではありません。人の正気を失わせるなんて・・・、怖い子ですね」

 ルロまで明後日な理屈をこね始めていた。そして、いつしかネアが二人の槍玉にあげられていた。

 いつの間にか身に覚えのない罪らしきものを被せられ、肉球の感触を楽しむルロに手を引かれながらもやっとのことで黄金の林檎亭に辿り着いた。こんな時間であるにもかかわらず店内は明かりが灯され、人の話し声や笑い声が通りまで転び出ていた。

 「流石は宵っ張りの楽園、遅くまで開けているからイロイロと安心」

 店の扉を開けながらバトがにこやかに独り言のように呟いた。

 「貴女の言う、イロイロと安心に内容は聞きたくないし、ネアにも悪い影響をあたえるますから話さないように」

 バトの後に続きながらルロが釘を刺した。

 「バトさんだから、エロエロと安心かと思った」

 ポツリとネアがこぼした言葉にルロが目を丸くした。

 「ネア、なんて事を口に・・・、バト、これは貴女の悪い影響です。もし、この事を奥様がお知りになられたら・・・、バト、短い付き合いでしたが、楽しかったですよ」

 「ち、ちょっとー、こんなの普通でしょ?それとね、この子、男の子のおチンチンを見ても顔色一つ変えなかった子だよ」

 バトの声が少々高かったため、店の人々の目が一斉に彼女達に向いた。

 【ルロさん、ごめんなさいっ】

 ネアは咄嗟にびっくりしたような表情を作ってルロを見つめた。つまり、バトの言う「この子」をルロになすりつけようとしたのである。

 【ケフの危険な子リストに更に悪名を記載させるわけにはいかないんだ】

 ネアの苦渋の決心は功を為したようで、人々の視線は自ずとルロに集中した。それを感じたルロは真っ赤になりながら、ブルブルと肩を震わせた。

 「な、なにを・・・、まるで・・・」

 言葉にならない台詞をぶつぶつこぼしているルロにバトがさらに畳み掛けた。

 「何を今更ね、女ハンレイと言われている私とつるんでいるんでしょ、それぐらい言われて当然よ。ついでに言うけど、私も大酒のみ認定されているからね。お互い様よ」

 すました顔でバトはそう言うとルロの肩をポンポンと叩きながら店員を呼んだ。

 「・・・ネア・・・、酷いタイミングでしたよ・・・」

 ルロがネアの手を握っている手に力をこめてきたのが分かった。そして、それは万力のようにネアの小さな肉球つきの手を締め上げ始めた。

 「・・・痛いよ・・・」

 ネアはできるだけ弱弱しい声でルロに訴えた。これは効果があったようで、すぐさまネアの手は解放された。ネアは改めて、小さな女の子が持つ凄まじいまでの力を認識するに至った。


 ご隠居様が準備してくれていた食事は侍女たちにとってはご馳走であった。勿論、ルロのためにワインも用意されていたが、先ほどのこともあったのか、ルロはそれを一息で開け、さらに自腹で注文していた。


 「で、こうなるのね・・・」

 ワインで止めておけばいいモノを、蒸留酒のキツイのを割りもせず、しかも大量に流し込んだルロをおぶりながらバトがため息混じりに呟いた。

 「・・・私は、ケフのお館に仕える侍女・・・、それもアルマ様みたいに綺麗で切れる侍女、その上・・・、斧の使い手で護衛もできるんですよ・・・。だから、決して、品が悪いわけじゃない・・・」

 バトの背で揺られながら涙目でルロがぶつぶつと呟いていた。それを耳にしたネアは

 「ルロさんはかっこよくて、強くて・・・」

 と何とか慰めようとした。

 「・・・可愛いとか綺麗とかないの・・・?」

 ルロは涙声でネアに聞いてきた。ネアは、面倒臭いと感じながらも、黄金の林檎亭でルロにあらぬことを擦り付けてしまった手前、無碍にすることもできず

 「泳ぎに行ったときの水着で斧を構えたルロさんは綺麗で、かっこよかったですよ」

 過去を思い返しながら印象的な場面を思い返していた。

 【確か、白雪姫にくっついていた7人はドワーフじゃなかったけかな、あれの女版かと思っていたら、ドワーフ族って結構、トランジスタグラマー(死語)が多いような気がするんだよな】

 バトに負ぶわれたルロをみつめながらネアはおっさんの思考を働かせていた。

 「本当に・・・、ルロは気負いすぎなんだよ。何でもかんでも抱え込もうとするし、無理して弱音吐かないし、愚痴も言わない。そんなことしているから、お酒が入ると爆発するんだよ・・・。そりゃ、私みたいに弾けろとは言わないけど、ルロの愚痴ならいくらでも聞くよ。この尖がった耳は何も飾りじゃないんだからね」

 既に寝息を立てているルロにバトはやさしく語りかけていた。

 「バトさん、ルロさん寝てますよ」

 「起きているときにはこっ恥ずかしくて口にできないからね」

 「そう言うものなんだ」

 「そういうもの・・・」


 その夜の遅く、足音を忍ばせてお館に入る大・中・小の三つの影があった。


 「おかえりなさい。心配しましたよ」

 「おかえり、もう帰ってこないんじゃないかと思ったよ」

 姐さんたちを起こさないようにそっとベッドに潜り込んだネアは目を覚まし、ベッドに起き上がると同時に抱きしめられていた。ネアは二人に抱きしめられながら、「おかえり」と言う言葉の温かさを実感していた。

 「ただいま」

 全身で温かさを感じながらネアはやっと言葉を口にした。その時、また感情の波がネアを襲ってきた。二人に会えた喜び、戻ってきた喜び、我慢していた寂しさなどが一気に心の中で噴火した。

 「ーっ」

 後はラウニに抱きついて猫なのにワンワンと泣き声を上げることしかできなかった。自分の寝巻きがネアの涙や鼻水やよだれで汚れるのも気にせずラウニはぎゅっと優しくネアを抱きしめていた。ラウニにしがみついて肩を震わせているネアの背中をフォニーが優しくさすってやっていた。

 「ネア、寂しかったよ」

 フォニーが優しくネアに語り掛けると、顔面を涙と鼻水でパックしたネアは今度はフォニーの胸に飛び込んでいった。いつしか、抱きしめてやっている二人の顔もいつしか涙と鼻水でパックされていた。


 「そう言う事なのね。今日の遅刻は仕方ないと言えば仕方ないことね。ま、悪いのはお父様ですから・・・、お父様には後できっちりと責任を取ってもらいますから、貴女たちはもうお仕事を始めて頂戴」

 ベトベトになった顔やら寝間着を洗ったりしている間に侍女たちはちょっとではない遅刻をやらかしていた。シュンと耳を伏せた侍女たちの前で少々厳しい表情の奥様が仁王立ちで指導していた。その騒ぎに興味を持ってれひてがそっとドアを開けた。そして、彼女にとっては悪いことに奥方様と目が合ってしまった。

 「レヒテ、今は確かお勉強の時間じゃなくて?」

 黒いオーラを纏いにっこりしながら奥方様がレヒテに聞いてきた。

 「い、今は休憩中」

 レヒテはそう言うとさっさと扉を閉めようとしたが、その時、彼女の背後で別の黒いオーラを纏ったものが表れた。

 「お嬢、一度も勉強もしない状態は休憩とは言いません。それは、サボりです」

 アルア先生が彼女の背後からぬっと現れるとレヒテの襟首をがっと掴んだ。

 「アルア先生、今日はスペシャルで手加減ナシでお願いします。レヒテはちょっとやそっとのことで壊れませんから。壊れてもすぐに治りますから思いっきりやってやって下さいね」

 「承知しました。お嬢、今日は泣いたり笑ったりできなくなるまでお付き合いお願いしますね」

 アルア先生はどす黒い笑顔を浮かべるとズルズルとレヒテを引きずって去っていった。侍女たちはその光景を目の当たりにしてぞっとした。

 「お嬢・・・」

 ネアが思わず口走り、その横でフォニーが目を閉じてそっと手を合わせ、ラウニが黙祷をささげた。


 その夜、一人の少女が抜け殻のようになってベッドの横たわっていたことは説明するまでも無いことであった。



 ネアが初めてお館の外で出来たお友達と別れてから暫く経つと、街は年迎えのお祭りモードに入っていた。ネアがラウニ聞いたところでは

 「新たな年を迎えられたことの感謝と、春の神様にそろそろ春ですよってお知らせするお祭りです」

 とのこで、フォニーに言わせれば

 「器用な人たちが雪像の出来栄えを競い合う場所だよ」

 らしく、宗教的な行事が主なのか雪像を作り競い合うのが主なのかはっきりしないイベントであることしかネアには理解できなかった。

 「お嬢たちの差し入れに付き合わなくちゃならないから・・・、寒い中きついのよね」

 夕食後、お風呂もすませた後、侍女たちは小さなテーブルを囲んで年迎えのお祭りに関する行事について雑談に花を咲かしていた。

 「寒いのは苦手です。眠くて眠くて・・・」

 ラウニが喋りながら舟を漕ぎそうになった。そんなラウニの背中を軽く叩きながらフォニーが同情するように

 「種族の違いだよね。熊族はどうしても冬眠の習性があるから、キツイと思うよ」

 ラウニに語りかけた。

 「狐族はその点、寒さに強いですよね・・・、猫族はどうだったかしら」

 ラウニは欠伸をかみ殺しながらネアを見た。

 「イエネコって、元々温かい、乾燥したところが原産らしいから、寒さには弱いと思います。だって、毛皮もフォニー姐さんと比べて薄いし・・・、アンダーコートもそんなに無いし」

 ネアは自分の腕の毛皮とフォニーの毛皮を見比べて寒さに強くないと思っている理由を説明した。

 「冬は、このフォニーさんの季節なのよ。皆、このキツネの毛皮の素晴らしさに嫉妬するかもよ」

 フォニーが自慢そうに自分の毛皮を見せびらかした。

 「極めつけはこの尻尾。フワフワで温かいからお腹に巻きつけいるととても温かいんだよね」

 フォニーは己の尻尾を手にして皆に見せ付けた。

 「尻尾自慢ですか・・・」

 ラウニがむすっとしながらフォニーの尻尾をにらみつけた。ラウニは自分の尻尾が小さく短いことに少なからずコンプレックスを抱いていた。

 「そうじゃないよ。ラウニの短い尻尾も可愛いから」

 フォニーは慌てて尻尾を元の位置に戻した。

 「私には邪魔に感じますけど」

 ネアは自分の尻尾をつまみながら呟いた。この世界に来てから、この身体になってから尻尾が感情を表す以外に何かに役立ったという記憶がなく、逆にお嬢に引っ張られるという記憶のほうが勝っていたからである。

 「毛皮と尻尾は私たち獣人の誇りです。邪魔に感じたくても感じられない人もいるんです」

 ネアの言葉をラウニがぴしゃりと否定した。

 「そだよ。怪我や病気で尻尾を無くすと、きついショックを受けて性格まで変わるって言われてるぐらいだよ」

 「だから、ネア、そのしなやかな尻尾を大切にするんですよ」

 「はい、分かりました」

 ネアは獣人達が自分たちの獣じみた姿に誇りを持っていることを改めて知った。自分の中でどこか恥ずかしい姿だと思っている部分があったことを逆に恥ずかしく感じてしまった。



 「さぁて、お祭りまでに彼には一働きしてもらおうかな」

 ネアが尻尾のことで考えを改めかけている頃、街外れの安酒場でご隠居様がワインを飲みながら正面に座り居心地が悪そうにしているコーツに話しかけた。

 「それは分かりますが、何故、このような場所で・・・、ご隠居様にはあまり・・・、その」

 コーツは周りを見回した。種々雑多な種族、怪しげな連中が入り混じってざわざわとしている店内である。前郷主にはあまりにも似つかわしくないとコーツは感じていた。

 「こんな所のほうが秘密は保ちやすいんだよ。ここにいるのは叩けば埃が出る連中だよ、誰が敢えて騒ぎを起こしたがる?その上、この店は安くて美味いだよ」

 「は、理由は承知いたしました。で、あの男にもう一度、圧力をかけてみましょうか」

 「それには、ネアも使いたいが、ちょっとモーガに睨まれていてね、彼女をすぐに遣うわけには行かないから、そうなると十分に手間隙かけて圧力をかけてやりたいね」

 コーツは悪そうな笑みを浮かべるご隠居様に頷くと

 「真冬の恐怖を味わって貰いますかね」

 ご隠居様を上回るような悪そうな笑顔を見せた。

 「少々彼の寿命が縮んでも仕方が無いね」


 「ん、なんだ、風邪ひいたか・・・」

 寝床で頭から毛布を被って眠っていたトバナをいきなり悪寒が襲った。しかし、後日その悪寒は風邪より厄介なものの前兆だとは知ることはできなかった。

それぞれの種族が抱えていることや、個人が抱えていることを書きたかったような気がしますが、バトとルロを出すといきなり話が逸れていくような気がします。因みにバトとルロの見た目はオール阪神師匠とオール巨人師匠やC3POとR2D2をイメージしております。

今回も駄文にお付き合い頂き感謝いたします。あまつさえブックマークいただいた方には感謝以外の言葉を持ち合わせておりません。

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