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鎧を脱いで  作者: C・ハオリム
第6章 事件
82/342

77 馬車の中で

バトとルロが今回の主人公・・・になってしまいました。

 揺られる馬車の中、ネアは妙な視線を感じて顔を上げた。その先には、ネアがクレドとどういう関係で、どこまで仲良くなったか、つまりネアの恋愛?について聞きたそうにうずうずしている4つの目があった。普段は堅物っぽいルロですらそうなのであるから、バトにいたっては推して知るべし、である。

 【・・・友人との別れの感傷にふける暇すら与える気が無いのか・・・】

 ネアにってクレドは友人でしかなく、第一こんな幼く、しかも元は男だったから、恋愛感情なんて銀行の普通口座の利率ほどもなかった。ただ、彼の家庭を通して今まで自分が蔑ろにしてきた大切なモノに気づかされただけのことである。しかし、彼女らはそんな風には考えていないようであった。

 【先手を打つ、しかし、恋愛関係でなると流れが不味くなる・・・、二人がいつものように掛け合いができるような話題は・・・】

 暫くネアは考えて、口を開いた。

 「バトさんとルロさんて、小さい時からのお友達なの?」

 ネアの問いかけに、バトが素早く反応した。

 「騎士団に入ってからだよ、ね」

 そう言うとバトはルロを見た。

 「騎士団に入って、初めて知り合った、と言うか、そこで腐れ縁が発生したとも言えますね」

 ルロはしげしげとバトを見て、ため息混じりにバトの言葉を肯定した。

 「腐れ縁って酷いんじゃない。こんなステキな女の子に出会ったんだよ。それを選りによって腐れ縁って」

 バトは少し自慢げに胸を張って言うと、ルロを批難がましく見つめた。

 「普通、自分のことをステキなんて言いません。貴女を見て私は、エルフ族の見方が変わりました」

 自分を見つめるバトを睨み返してルロは呆れたように言った。

 「・・・種族によって、仲が悪いとかあるのかな・・・」

 ネアは独り言のように呟いた。その言葉にバトが身を乗り出して答えだした。

 「そうだねー、私たちエルフ族とルロたちドワーフ族は昔からあんまり仲が良くないっていわれてきたねー。エルフ族の年寄りの中には自分達以外の種族を認めないって、困ったのもいるんだよ」

 「エルフ族は元より、自尊心が思いっきり高くて、言い方を変えると傲慢なのが多いのよ。呆れるほど長く生きるからそうなるのかも知れないけど・・・」

 バトはうんざりしたように言うとバトを見つめ

 「例外もいるみたいだけどね」

 そう言うとにこりとした。その言葉を受けてバトが少々むっとしたように言い返した。

 「確かに寿命は長いけど・・・、その分、お別れも多いんだよ。それに傲慢なのは森エルフの年寄りだけだよ」

 「森エルフ?」

 バトの言った耳慣れない言葉にネアは不思議そうにバトを見つめて聞き返した。

 「私たちエルフ族ってのは、昔ながらの生活を頑なに守って他の種族と仲良くならない森エルフと言うのと森の外の世界に興味を持って出て行って、そこで他の種族と一緒になって生活する街エルフっていうのがいるの。私は街エルフだね。パパが若い頃、森を出てテラマって小さな街の指輪なんかをつくる職人に弟子入りして、職人になったんだよ。ママも同じように森を出て・・・ってね。そう言えばルロの家もも普通のドワーフ族とはちょっと違ったんだよね」

 バトが簡単な身の上を話すとルロに話を振った。

 「ドワーフ族にはエルフ族みたいに森だとか街だとかの区別は無いけど、大概は鉱山や武器やらアクセサリーの職人になるひとが多いんですよ。私の家はワタラの村の農家で、ドワーフ族で畑をしてたのは私の家ぐらいだったんですよ。でも、職人気質は抜けないみたいで、肥料の調整をこうすれば甘みを増やせる、ってことを常に言ってましたよ。私はそんな家の5人兄弟の末っ子として生まれて・・・、お世辞にも裕福じゃなかったから安定してお金を稼げる郷の役人になりたかったんだけど、種族の持つ特性なのかな・・・、騎士団に入ったのです。元から斧を振り回したりするのには抵抗無かったから・・・、これも血ですかね」

 ルロは傍らに置いた斧を撫でながら自分の来歴を簡単に説明した。この状態で二人を漫才状態に誘導できれば痛くも無い腹を探られることは無いとネアは確信した。

 「二人とも全然違う生活をしてたんですね」

 「そうよー、私は3人姉妹の長女でさー、パパは腕がいい職人らしいけどお金に無頓着だから・・・、ママも苦労してさ、さっさと嫁に行くか仕事を見つけて独立するかしないと妹たちが習い事にもいけないから、ううん、それどころか食べるのも大変になるから、で、騎士団に入ったんだよ。騎士団に入れば、郷のエライ人とお知り合いになれるし、うまくすればエライ人のお嫁さんに慣れるかも知れないって・・・、でも、現実は・・・厳しいよね。騎士団長のヴィット様は堅物するぎるし、ご隠居様は・・・家庭のある身だし・・・、ルップ様もギブン様も若すぎるし・・・。あの人たちにはまだまだ私の魅力が分からないと思うし」

 どこか腑に落ちないように喋るバトに横からルロが口を挟んだ。

 「若やルップ様に貴女はいい影響を与えるとは思えません。あなたのおかげでエルフ族に対する見方が変わりましたよ」

 「そうでしょ。古臭いしきたりに捉われて高慢ちきな連中ってイメージないもん。美しくて、可愛くて、神秘的で、彼女にしたい種族第一位って所は裏切れないけどね」

 ふふん、と自慢するバトにルロはため息をつきながら

 「騎士団でも、エルフ族の女の子が入団するって騒ぎになったようです。入団してから先輩からあの時のワクワクを返してもらいたいって聞いたこともあります。・・・黙ってじっとしていれば・・・勿体無い話です。ネアも自分の言動に注意しないと、エルフ族ですらこうなるのです。他の種族なら・・・、バト、エルフ族で良かったですね」

 ルロは呆れと哀れみを混ぜたような口調で言うと、そっとバトの肩を叩いた。

 「高嶺の花過ぎて声もかけられない、と思っていたのが、結構話が通じる気さくさがあって、やさしいから、苛められるのか好きな人には残念だったかな、でも、それもできるよ」

 バトはそう言うと咳払いをして、ちょっときつめの表情を作って

 「哀れな豚、私の足をなめることを許してあげるわ。さっさとお舐めっ」

 その手の趣味の人が喜ぶような台詞を吐いた。あまりにも声が大きかったので御者台にいたロクがびくっとなったぐらいである。

 「ごぶっ」

 鈍い音がしたと思ったらその場でバトが頭を抱えていた。その横には拳を握り締めたルロの姿があった。

 「貴女っ、こんな小さな子の前で・・・、だから、教育上良くないって」

 「聖水や女王様の趣味もないから、大丈夫・・・」

 あまりにも見事にバトが殴られたのでそれをフォローしようとネアは思わず口を開いたが、吐いた言葉は適切ではなかった。

 「・・・ネア、貴女、今、なんて言ったのですか?」

 ルロが信じられないといった表情でネアに詰め寄った。

 「ネアって・・・」

 当のバトですらその場に固まっていた。

 【しまった・・・】

 ネアはその場で口を押さえ、なんと弁明しようかと考えたが、これと言った妙案は浮かばなかった。

 「・・・ご隠居様?」

 ルロが暫く考えて呟いた。その呟きを聞いたバトは大きく頷くと

 「有り得るよ。ご隠居様なら・・・、若い頃は随分と爛れた生活をしていたって噂も聞くし・・・」

 腕を組んで難しい表情を浮かべた。

 「ネア、誰にも言わないから・・・、ご隠居様に変なことされてない?」

 ネロはネアの前に座ると顔をじっと見て優しく尋ねてきた。

 【ご隠居様を巻き込んでしまったよ・・・、ヤバイな・・・】

 「何もされてないです」

 ここは、言い淀むことなく素早く答えた。もし、ここで間をあけるといらぬ疑惑を招くことになるとネアは考えたからである。

 「本当に、それならいいんですけど・・・、バト、具体的なことを口走ると・・・、無傷ではすませませんからね」

 ネアの頭を優しく撫でていたルロがバトを睨みつけて何かを喋ろうとしていた彼女を制した。

 「・・・分かったよ。私もまだまだ命は惜しいし・・・、でも、ご隠居様のプレイって、激しそうでもその奥にやさしさが・・・ぶっ」

 ルロは馬車の床に転がっていた小石をバトに投げつけた。小石は見事にバトの眉間にひっとし彼女はその場で二枚貝のように二つ折れになって悶絶しだした。

 「これが、私がエルフ族の見る目が変わった理由です。ますます貴女を若に近づけてはいけないと強く確信しました」

 「なーにーよー、私が悪いみたいじゃないの。こんな私でも酒量は弁えているんだからね。誰かみたいに、一晩中飲んで大騒ぎして、挙句の果てには服を全部脱いじゃうなんてことしないもん」

 頭を押さえながら涙目でルロをにらみながらバトが言い返した。

 「なにが、 もん ですか。年齢を考えなさいよ。貴女もう100年は生きているんでしょ」

 「貴女のほうが私より1歳上でしょ。エルフ族はある程度から容姿が変わらなくなるの」

 「何、それ自慢ですか?」

 ルロの言葉に一瞬バトの表情が曇った。

 「・・・自慢じゃないよ・・・、ルロの種族も長命だから分かると思うけど、私たちは、真人や獣人の男の子と付き合えないんだよ。いつも、真人や獣人の女の子からさ、老けないなんてズルイって言われるてさ、子どもの時は意地悪もされたよ・・・だけど、好きでこうなったんじゃないんだよ。生まれつき・・・、仕方の無いことなのに・・・」

 バトの表情が曇った。いつも能天気に下ネタ一本槍な彼女であってもそれなりに悩みがあったことにネアは新鮮な驚きを覚えた。

 「エルフ族ってことは、貴女の強みなのに・・・、と言うか、それ以外あまり無いいい所なのに・・・」

 ルロが哀れみをこめてバトを慰めようとした。

 「・・・ルロ、私がエルフ族じゃなかったら、どこもいい所ないように聞こえるんだけど・・・」

 バトは少々怒りをこめた目でルロを見て口を尖らせた。

 「実際、そうでしょ。いつもいつも下ネタばかりの貴女が一度きりとは言えお食事にさそってもらえるのはエルフ族ならではの容姿があってこそ。・・・ドワーフ族はその点割り喰っていますからね。そんな恵まれた種族なのに、勿体無い限りです」

 この言葉にバトはむっとして言い返した。

 「もし、私が完璧なエルフ族のお嬢さまなんてやったら、他種族の女の子全部敵に回すことになるよ。嫌味でもナンでもなく、さっきルロはエルフ族のために割り喰っているって言ったでしょ。私とずっと付き合ってくれているルロですらそんな事言うんだよ。他の女の子がどう言うか・・・、分かるでしょ。それとね、好きになった人もエルフ族以外は皆、先に逝っちゃうんだよ。お気楽そうな街エルフだけど・・・、結構ヘビーなんだよ」

 バトはそういい終えると、がっくりと肩を落として項垂れた。いつもの調子で軽くいなして言い返すと思っていたルロはバトの意外な反応に戸惑い、そして不味いことを言ったことを悟った。

 「バト、ごめんなさい・・・、私、バトに甘えていたようです。何を言っても軽く返してくれる。ボケてくれるって・・・」

 ルロはバトの前で大きく頭を垂れて謝罪の言葉を述べた。

 「分かってくれればいいの。・・・これで息が酒臭くなかったらもっと良かったのに・・・」

 バトはルロの謝罪の言葉を受け入れ、そしていつもの調子で最後に付け加えた。

 「・・・え、酒臭いって、なんですか。人が真剣に謝罪しているのに。真剣反省した私が愚かでした」

 ルロもいつもの調子でバトをにらみつけた。

 「でもね、あの言葉は本当だよ。だから、ルロには・・・、ネアもさ、種族のことなんて考えないんで欲しいんだよ。寿命や姿形がどうであれ、今、一緒にいるんだから。楽しまないと、それとね、ブ男でもテクニックはいいのはいるって言うぐらいだから、何が魅力か外側からじゃ分からないよ」

 しんみりとした表情を一掃したバトがにこやかに語りかけた。

 「貴女、偶にいい事を言うと思ったら、やっぱりシモですか」

 「ふふん、女ハンレイの仇名は伊達じゃないよ」

 バトはにやっとして胸を張った。

 「・・・それ、自慢することじゃないと思う・・・」

 ネアはため息をつきながら胸を張るバトに呟いていた。バトはそんなネアをにっこりと見返すと

 「何でも極めれば、それはそれで尊いものなんだよ。変態の道は一日してならず、日々の欠かさぬ努力が人を立派な変態にしていくんだよ」

 何か、いい事を言っているような雰囲気でネアを見つめた。

 「完全に努力の方向を間違えていることは確かですが、そこまで堂々としていると逆に清清しいですよ」

 呆れを通り越えた悟りの境地でルロはバトを見つめた。

 それからと言うもの、ケフに着くまでバトとルロのボケとツッコミの応酬が馬車の中で繰り広げられた。ネアはそんな掛け合い漫才を見ながら、当初の己の計画通りにことが推移したことに満足感を覚えていた。


 馬車がケフに辿り着いたのは日も落ちてからずいぶんと経ったころであった。今回はクッションを持ってこなかったため、ネアの尻は悲鳴を上げる力も無く、無感覚な石のようになっていた。

 「尻尾が動かないよ・・・」

 バトに抱きとめられるように馬車から降りたネアは自分の石のようになった尻を撫でながら小さな不満の声を上げた。

 「尻尾があると、こんな時大変ですね。時々、尻尾を羨ましく思うけど、こんな不便もあるんですね」

 ルロはネアを労るようにそっと腰を撫でた。感触が無くなった尻だったが、何故かルロの手の温かさはじんわりと伝わった気がした。

 「ルロさん、ありがとう」

 ネアはルロに軽く頭を下げると、ルロもにっこりしながら

 「いいですよ、こんなことぐらいで・・・」

 照れくさそうにルロが言っている横からバトが割り込んで来た。

 「私も撫でる」

 バトはそう言うと両手を沸き脇と動かしたが、その動きは労るというより、淫靡な感じがする動きだった。その動きを見てネアは引きつったような笑みを浮かべて申し出を断ろうとした。

 「だめです。・・・若やルップ様に悪い影響があることは確かでしたが、ネアにまで悪い影響を与えるとは・・・、貴女は、性別や年齢はどうでもいいんですか」

 きつく言うルロにバトはニコニコしながら

 「気持ちいい事は皆好きでしょ。皆で気持ちよく、うっ」

 と口走った途端、苦悶のうなりを上げた。良く見るとルロのけりが見事にバトのすねにヒットしていたのであった。

 「貴女は本当に・・・」

 すねを押さえるバトを見ながらルロは呆れたような笑みを浮かべた。

 「これから、黄金の林檎亭でお食事です。ちゃんとご隠居様が予約と代金を支払って頂いていますから」

 バトはそう言うとネアの手を取った。

 「お酒は別料金だよ。子どもに飲ましちゃいけないよ。それとね、酔っ払っても脱がないこと」

 ルロの後を追うように歩きながらバトは細々とルロに注意を促してきた。

 「ルロさんも脱ぐの?」

 ネアはルロを見上げて尋ねた。

 「それは・・・、ネアも分かるでしょ、貴女もやりそうになったから・・・、淑女たるものそのような醜態はダメなことです。でも、気づくと・・・」

 ネアもお祭りの日にやらかしたのでルロの言葉には頷くことしかできなかった。

 「でも、この人は、酔っ払わなくても脱ぐんです。しかも、おひねりすらせしめるんですよ」

 ルロは自分の後をついてくるバトを睨みつけるように見て言った。

 「だって、只で見せるなんて勿体無いでしょ。同じ見せるならお金貰わないとね」

 バトの言葉にルロは深いため息をついた。ネアはバトが脱いだ場に居合わせた男どもは随分と運が良かったんだろうと思った。しかし、その考えをすぐに改めた。

 【そう言えば、俺なんて風呂で見放題なんだよな・・・】

 見たところで何をすることもできないが、見るという観点のみであるなら、ネアは自分が随分と恵まれているのだろうと思うことにした。

長命で美しい状態をキープできる種族は羨ましい限りですが、それはそれなりに苦労があるようです。

バトがお下品一本槍キャラをしているのはその辺りの影響があると思われます。

バトは残念すぎる美女と言うか、残念が主で美人は和え物的なキャラを確立しています。

実際はどうかと言うと・・・、お察しのとおりです。

毎度、駄文にお付き合い頂き感謝しております。継続は力なり、と言い聞かせ続けていきますので生暖かく見守って頂きたく思っています。

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