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鎧を脱いで  作者: C・ハオリム
第6章 事件
78/342

73 知らせずに躍らせる

ちゃくちゃくと裏で準備か進み、当の本人は全く気づいていない。これが自分だったらと思うと怖くなってきます。

目指せ、ダンジョンの最下層(嘘です。ゴメンナサイ)

 ナンスを保護した翌日の昼下がり、大使館前でルロに見送られてバトは一人ケフへと旅立った。

 「一人で郷越えさせるなんて・・・、もし、私に何かあったら・・・、任務半ばで若くして散る・・・、かわいそうなバト・・・」

 一人、悲劇のヒロインを演じながらバトは街道をひたすらケフへと足を進めた。


 「どうもダメね、この子・・・ガタガタになって・・・」

 奥方様はお気に入りの羅紗切りハサミを手にしてしげしげと見つめながらつぶやいた。

 「今まで随分と頑張ってくれたもんね。そうね、直さないと・・・」

 奥方様はハサミに向かってブツブツと独り言を言うと侍女たちに声をかけた。

 「ちょっと来てくれるかしら」

 「はい」×3

 侍女たちは作業の手を止め奥方様の元へ駆け寄った。

 「この子の具合が随分と悪くなって、直さなくてはならないの。この子を「鉄床」のゴーブルさんの所に連れて行って直してきて貰いたいの。暫くは他の子を裁断に使うけど、この子ほどさっさと行かないから、3人でお散歩ついでに行って来て。お金は後払い、言い値でお願いしますって伝えて貰えるかな」

 奥方様の命令にラウニがすいっと一歩前に出て

 「承知いたしました。準備ができたらホールの時計の前、エプロン裏の御守は忘れないように」

 奥方様に一礼すると、ネアとフォニーに向かって短く指示を下した。

 「じゃ、この子をお願い」

 奥方様はガタの来たはさみを厚めの布で包むと手近のバスケットに入れてラウニに手渡した。

 「気をつけてね」

 「はい、この子をお預かりします」

 バスケットを手にするとラウニは奥方さまの執務室から出て行った。

 「奥方様、あの程度のお使いなら、私が帰りにでも・・・」

 奥方様の近くで同じように作業しているちょっとでっぷりした真人の職人が小さな声で話しかけた。

 「あの子達にも息抜きが必要でしょ。あの年齢の子ならまだ遊びたい盛りなんだから・・・、貴女もそうだったでしょ」

 奥方様はにっこりしながらその職人に答えた。

 「あの年齢の時は修行中でしたが、そうですね、普通の子たちが羨ましかったですね」

 「でしょ」

 二人を顔を見合わせて、侍女たちと同じぐらいの年齢の時、自分はどうだったかを思い出していた。


 「まだ、夕飯までに時間あるねー」

 大事そうにバスケットを抱えて歩くラウニの横から見上げるようにしてフォニーが何かを期待しながら話しかけてきた。

 「お茶をしたかったら、自分のお金でして下さいね。まさか、一文無しじゃないでしょ」

 フォニーの下心を一言の元にラウニは断ち切った。

 「まさか、ネアにまで集るつもりじゃないでしょうね」

 「違うよ。そんなことしないよ。お茶するお金ぐらい持っているよ」

 フォニーはラウニの言葉にむっとしながら応えると後ろをトコトコとついてくるネアを見つめて

 「ネア、ひょっとしてウチが集ってくると思う?」

 ちょっと威圧をかけた表情で尋ねてきた。

 「場合による・・・」

 ネアはフォニーから視線をそらせて呟いた。

 「ウチだって、ちゃんと持ってます」

 フォニーは尖がった口を更に尖らせた。


 ケフの都の工業地帯と言うべき、職人町はボウルのお店からはそう遠くない位置にある。侍女たちは知らないし、知っていたとしても気にしないことではあるが、この辺りは先日ネアとやりやった犬族の少年「鋳型」のブレヒトの縄張りであった。縄張りと言ってもあちこちの悪ガキグループが勝手に主張しているだけであり、どのグループも過大に申告するものであるから、その地域が複数のグループの縄張りとなっていることが多かった。今、ネアたちが通過しているのもそんな地域であった。

 「アイツがいたぞ」

 路地裏で空き箱や石段に腰を降ろしてカード遊びに興じていた犬族の少年ブレヒトの下に彼より年下、ネアぐらいの年齢の少年が駆け込んできた。

 「よし、ついに、アイツに一泡吹かせてやる。おい、前に決めた作戦のとおりだ」

 ブレヒトは手にしたカードをポケットに突っ込むと立ち上がった。

 「でも、今日はクマとキツネの女の子が一緒だよ」

 ブレヒトに報告に来た少年が心配そうな声を上げた。

 「立ったら問題ない」

 ブレヒトは不敵な笑みを浮かべた。

 「俺達には奥の手があるからな」

 自信ありげに配下を見回してブレヒトは己の作戦を思い返し、そして簡単に勝利を確信した。

 「手と言うか足と言うか・・・」

 一人の少年がちょっと乗り気ではないように呟いていたが、ブレヒトの一睨みで黙ってしまった。

 「行くぞ」

 少年たちはときの声を上げると報告に来た少年の後をついて駆け出した。

 

 「この子たちはネアのお友達ですか」

 少年達にぐるっと取り巻かれた中、ラウニがネアにため息混じりに尋ねてきた。

 「小さい女の子をいじめていたから、止めただけ」

 このグループの頭であるブレヒトを見つめて呆れたような声を上げた。

 「ネアの場合は止め方に問題があるんよね」

 フォニーがやれやれ感万杯でネアに言うと、犬族の少年を見つめた。

 「うちらは、あんたたちほど暇じゃないんよ。さっさとどいて」

 むすっとしたフォニーが一歩踏み出したときであった。

 「作戦開始っ!」

 ブレヒトが一声吼えた。すると、取り囲んだ少年たちは一斉に己がズボンを脱ぎ捨て、下半身丸出しの姿になった。

 「えっ」

 あまりのことに、ラウニの動きが止まった。

 「いゃーっ!」

 少年達の股間についているかわいらしいモノを見たフォニーが悲鳴をあげてその場にしゃがみ込み、目を押さえた。しばらくしてラウニも悲鳴を上げて顔を隠してうずくまってしまった。

 「な、言ったとおりだろ、これでこいつらを思いっきり・・・、えっ?」

 ブレヒトの目に期待とおりにうずくまるネアの姿が飛び込んでくることはなかった。

 「その可愛いものをしまいなさい。見苦しいです」

 軽蔑の目つきでネアは少年達をにらみつけていた。

 「え、これが見えないのかよ。ほら、ほら」

 ブレヒトが腰を大きく突き出して嫌でもネアの視界の中心に入れようと迫ってきた。

 「・・・」

 ネアはため息一つつくと、悲鳴を上げてうずくまっているラウニの傍らのバスケットから羅紗切りはさみを取り出し、両手で持つとカシャカシャと刃を大きく動かした。

 「粗末なモノを仕舞わないと、切り落とします。その年齢でこんなことに使うってことは、将来ロクなことに使わないでしょうから、さ、仕舞うか、切り落とされるか選びなさい」

 ネアの気迫に何人かの少年は脱ぎ捨てたズボンを手にした。

 「はったりだろうが・・・、こわかねーぞ」

 ブレヒトはビビリながらもネアに迫ってきた。

 「言っている台詞と、その子の大きさが全然違うよ」

 ネアの背後からどこかで聞いた声がした。ネアが振り返るとそこにはニコニコしたバトが立っていた。

 「ネア、良く見て、勇ましいこと言っているけどさ、あの子のモノったらさ・・・」

 バトはクスクス笑いながら少年の股間を指差した。

 「切り落とすでっぱりがありませんね。・・・それは、尻尾と同じでビビっていると縮こまるんだよ」

 ラウニやフォニーのように目をそらすこともなく、ネアは冷静に言った。

 「あ、こ、これは・・・」

 ブレヒトはこの時はじめて、己の分身が股間で縮こまっていることに気づき狼狽した。また、綺麗なエルフ族のおねーさんに笑われていきなり羞恥心のスイッチが入ったように感じられた。

 「その可愛いの、ネアにちょん切られたくなかったら、さっさとズボンはいてどっかいっちゃいなさい」

 少年たちはあわててズボンを履くと、何か捨て台詞のようなものを残してどこへともなく走り去っていった。ふとネアはバトを見上た、そこには冷静に振舞っているようであったがその頬が少し紅潮しているバトの姿があった。

 【この娘、口だけなんだろうな・・・、それに比べると淡々と行動するハンレイ先生は筋金入りなのかな・・・】

 ネアはしょうもないことを考えながら、少年たちが立ち去ったのを確認するとラウニとフォニーの背中をトントンと軽く叩いて彼らが立ち去ったことを伝えた。

 「アイツら、なんてモノを見せるのよ」

 「目が穢れました・・・」

 先輩方はブツブツ言いながら立ち上がるとバトを見つめて驚いたような表情を浮かべた。

 「あ、バトさん、こんにちは、えーと、お仕事・・・?」

 フォニーが頓狂な声で尋ねた。

 「ええ、お仕事、これからお館に行ってちょっと報告することがあるのよね。でも、可愛いのを見せてもらったな、エヘヘ・・・」

 バトはニタリと笑いながらネアを見た。

 「ネアは怯まなかったね。見慣れているのかな」

 「そうです。ネア、なんであんな冷静に動けたんですか。気持ち悪くなかったのですか。バトさんやネアから見るとアレって可愛いのですか?」

 ラウニがネアが応えにくそうなことを尋ねてきた。まさか、自分がアレをかつては持っていたなんてとてもじゃないが答えられないし、と、言って見慣れていると言えば、どこでってなる、ここで答えを間違えるとアブナイ子と言う称号にさらにスケベな子という新たな称号が加えられることになると考えるとネアの背中に冷たいものが流れる感覚がした。

 「小さなお魚みたいだったから、怖くなかった」

 ネアは何とかその場を取り繕おうとした。その焦りを見たのかバトが助け舟を出してくれた。

 「まだ、男の子とか女の子とか意識していないだよね。これくらいの年齢の子にいるんだよね」

 バトはそう言うとネアの頭をなでた。

 「まだ、ネアはお子様なんですね。そうすると、キチンとレディになる教育をしていかないとだめですね」

 「そうねー、臆しないのはいいけど、ちょん切るはちょっとねー」

 先輩方はさらに、ネアの女子力を強化するプログラムを編み出すのだろう、それを聞いていたネアは鳥肌が立つのを抑えることができなかった。

 「君達大丈夫、目的地まで送ろうか」

 バトがネアたちに心配そうに声をかけてきたが、ラウニは気丈に大丈夫と答えてネアのバスケットを手にするとネアの手を引いて歩き出した。


 「失礼します。バト報告する事項があり、お時間頂けますでしょうか?」

 バトはお館様の執務室のドアをノックして一拍おくとドアをそっと開けた。

 「例の件だね?」

 書類と睨めっこをしていたお館様が髭モジャの顔を上げた。

 「そのとおりです。ご隠居様にも同内容のことをお館様への報告後致します」

 直立不動でバトはお館様に報告しだした。

 「その必要はないよ。ボクも一緒に聞かせてもらうよ」

 固くなっているバトの背後で軽い口調の声が聞こえ、ふらりとご隠居様が姿を現した。

 「バト、そんなに固くなるな。女ハンレイの称号が泣くぞ」

 マジメな表情で不動の姿勢を保っているバトにお館様は笑いかけ、執務室にあるミーティングテーブルに着くように促した。そして、机の上のベルを手に取るとチリンと鳴らした。その音がすると、ドアがノックされ真人の侍女が入ってきた。

 「お茶を三つと、軽い食べ物を頼むよ。バト、腹が減っているだろ、ミオウからずっと歩いてきたんだからな」

 それぞれが席について一息置いたころ、お茶と丸いパンにハムや野菜をはさんだものがテーブルの上に置かれた。

 「気楽に食べながら話を聞かせてもらえるかな」

 お館様はバトに食べるように促したが、バトは食べる前に話し出した。

 「ナンスさんですが、無事なことを昨日の早朝に確認し、ミオウの大使館に保護しています。護衛としてルロが一緒にいます。ナンスさんは自分に捜索願が出されていることには気づいていませんでした。また、ナンスさんはトバナ氏より秘密裏に命じられたミオウに支店を作るための適地を探すことをしており、トバナ氏から捜索願が出されたことについては戸惑っていました。この事については、ナンスさんのご家族にも連絡しましょうか?」

 バトはここまで話すとやっとパンに手をつけた。バトの簡単な報告を腕組み品から聞いていたご隠居様は何かを考えてから口を開いた。

 「ナンスさんのご家族にはまだ伝えなくてもいいよ。もし、彼が無事でどこに居るというのが明白になれば、トバナ氏はまた要らぬ知恵を働かさなくちゃならなくなる。そうなると、彼のことだ、どこかで必ずへまをする。そうすれば、苦労して開けた覗き穴がなくなってしまう。しかし、ご家族にいつまでも知らせないというわけにもいかないしね・・・、難しいな」

 わざとらしく思案する素振りをしながらご隠居様はパンにかぶりついているバトに尋ねた。

 「大使館の状況はどうだったかな。確か、あそこにはハルブと言う変わった男が赴任してなかったかな。ボクの記憶が正しければ、随分と変わった男だったよ」

 ご隠居様のいきなりの質問にバトは少しむせながら、口にしていたパンを飲み込んだ。

 「大使館の見た目はオバケ屋敷、ハルブさんは寝不足でアンデッドみたいになっていて、とても良い感じとは言えませんでした」

 「寝不足、あそこの大使館はそんなに忙しかったかな」

 お館様が首をかしげた。

 「大使館員がハルブさん一人ですから、と言ってもそんなに業務があるようには見えませんでした。ハルブさんの寝不足は趣味の天体観測によるものらしいです」

 バトの言葉を聞いてご隠居様はニタッと笑った。

 「そうすると、大使館の事務から、経理、食事に清掃までハルブ一人でやっていることになる。と言うか、あそこの定員は1名だったからね。人を雇う予算もつけていない。そこでどうだろうかな、婿殿、あそこに家族連れを住まわせて能力を強化し、ミオウとの交流を盛んにすると言うのは、表向きだけどね。ハルブにはどこか星が良く見える賃貸でもあてがって、そこにナンスさん一家に常駐して貰うというのはどうかな。ナンスさんの経理能力は話で聞く限り、優秀みたいだからね」

 お館様はご隠居様の提案に腕を組んで思案し、暫くすると口を開いた。

 「ミオウに家族ごとか、そうすればトバナ氏の目から消える。アレはそれで安心するだろう。で、家族はどうしますか。義父上私は、こっそりと夜逃げさせては、と考えていますが」

 お館様の言葉を聞いてご隠居様はにっこりと笑った。

 「そうだね、いつの間にか消えていた。居なくなった夫を捜しに旅立った。これでトバナ氏も安心するだろうね。彼のことだ、刺客を雇ってもその仕事を見届け、確認すらしなかったんだ、これだけすれば充分だろうね」

 ご隠居様はトバナ氏の顔を思い出して楽しそうにお館様の案に賛成した。

 「バト、今夜ゆっくり休んだら、ロクさんのとこで口の堅い、その手の運び屋を手配するように伝えてくれ。料金はお館持ちだ。家族には直前まで伝えないでくれ、勿論、ネアにもだ」

 ご隠居様の言葉にお館様が首をかしげた。

 「ネアは口が堅い子だと思うのですが」

 「あの子がこの館以外で始めてできた友達なんだよ。いくら落ち着いていても、心が乱されることになりかねないからね」

 お館様はご隠居様の言葉に頷いて賛意を示した頃、バトはパンを全て平らげていた。

 「バト、ご苦労だった。明日、ロクさんに伝えたら、向こうでナンスさん一家の向かい入れ準備をしてくれ、ハルブの新しい住みかも手配しておいてくれ、多分星が見えて、観測道具が置ければ文句は言わんだろう。ミオウには馬車を使ってもいいぞ。定期便が明後日の朝に出ると思うから、それを利用すると良い。乗車券はルビクに手配させておくよ。では、下がっていいよ」

 ご隠居様の指示を受けたバトは入ってきたように直立不動の姿勢を取り

 「報告終わり、事後の行動にかかります」

 と一礼すると部屋から出て行った。

 「しかし、今更ながらですが、あのトバナと言う男、ここまでする価値があるんですか?」

 お館様は不思議そうにご隠居様に尋ねてきた。

 「見ての通りの簡単な性格、強欲、自惚れに近い自尊心、金以外は基本信用していない、しかも事務的なこと、ルーチンワークに関しては優秀で、モンテス商会でも苦にはされていないだろう。これほどの人材はそうないよ」

 本人が聞いていたら、怒り狂いそうな評価であるが、それを聞いたお館様は苦笑しながら

 「敵の獅子身中の虫、愚かな敵は最大の味方ですね」

 そう言うとテーブルの上のお茶を飲み干した。

 「しかも、扱いやすい、価値は充分にあるだろう」

 ご隠居様はそう言うと楽しそうな笑い声を上げた。


 「な、なんだ、風邪でもひいたか・・・」

 伝票と睨めっこをしていたトバナ氏はいきなり襲ってきた悪寒にしばらく戸惑っていたが、また思いなおして伝票と帳簿を見比べ出した。

結局、主人公の知らないところでお話が進行しました。

近いうちにネアとクレドの別れがあるでしょう。と、言っても互いにそこまで思いいれはないようですが。

駄文にお付き合い頂き感謝しております。

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